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コード・オリヅル~超常現象スパイ組織で楽しいバイト生活!  作者: 黒須友香
Ⅱ 「コード・ガンドッグ」、始動!
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CODE34 シチリアーナ・ラプソディア(3)


 矢崎やさきさんは、空港駐車場に停めてあったSUV車の運転席に乗り込んだ。CIAシチリア支局が常にキープしている車なんだそうだ。


「ラグーザまで走ります!」


 俺と亀山かめやまのおっさんが後部座席へ乗り込むと、スポーツタイプのアルファロメオがうなりをあげて走り出す。

 カーブの多い空港内を危なげなく華麗な曲線で走り抜け、慣れない右側走行にもひるむことなく空港外へ飛び出す。

 あっという間に、シチリアの空がまぶしい高速道路に到達した。


 日本の高速より広いとはいえ、すさまじいスピードだ。

 わけがわからずあっけにとられた俺たちに向かって、矢崎さんが前を向いたまま声を上げる。


「ラグーザで美仁よしひとくんに合流します。お二人とも通信機器の確認を」


「あ、はい!」


甲斐かいくん、きみは『最悪の事態』にもしっかり備えておいてください」


 その言葉に、心臓がズシンと重くなった。


 最悪の事態、すなわち折賀おりが番犬ガード化。

 あいつに人殺しなんかさせたくない!


 いざというときは、俺が盾になってでもコーディを止める。ラグーザがそのときかもしれない。

 それができなきゃ、俺がここまで来た意味がないんだ。


 美弥みやちゃん――俺に、きみときみの兄貴を守る力がありますように――


「あ」


 聞き覚えがある声。すごく嫌な意味で。


「今度はなんですかッ!」


「ガソリン漏れの可能性があります。高速降ります」


 勇ましく車体を飛ばしていたアルファロメオは、スピードを落とし、高速の轟音の波から離脱していった……。


「おっさん、こんなとこ別に撮らなくてもいいから……頼むから、能力者ホルダー撮って……」



  ◇ ◇ ◇


 

 車をいったん捨て置いてタクシーに乗り込んだところ、今度はタクシー運ちゃんの奥さんが急に産気づいたとかで、このまま病院まで飛ばして駆けつけるとか言い出した。


 慌てて車を降り、周囲を見渡すとその辺にぽつんと駐車中のバイク一台、やや離れた場所で通話中の男ひとり。


「バイク借ります! 甲斐くん、後ろへ乗って!」


「えっ、ええぇ??」


 矢崎さんに引っ張られる形でバイクの後部にまたがると、キーが差しっぱだったらしくすぐにエンジンが始動!

 

 ブォン! と一声あげたバイクが猛スピードで走り出した!


「うあっ、ちょっ、矢崎さん! 待っておっさん忘れてるーー!」


「黙ってないと舌噛みますよ!」


「うあぁぁ止めてえぇぇー!」


 信号無視ノーヘルスピード違反! その前に、窃盗罪ィィーー!


 振り落とされないように必死で矢崎さんのコートにしがみつく。

 バイクが方向を変えるたびに遠くへ飛ばされそうになる体重を踏ん張って、体勢がまっすぐになったところでようやく目を開けると――目の前に、川があるぅーー!!


「飛びます!」


 飛びますじゃねえぇ!!


 飛んだーーッ!!


 宙に浮いた体がドスン! という衝撃とともに再び地上に降り立った!


 降りた先はどっかの町中の狭い路地。

 驚く通行人の方々を押しのけて大迷惑なスピードで疾駆する窃盗バイク。嫌な予感しかしない。


 突如現れた猫をきそうになり、強烈なブレーキ音とともにありえない速度で方向転換したバイクから、俺たちはぽーーんと空中へ吹っ飛ばされた。

 猫はさっと逃げた、でも俺たちは――


 矢崎さんにぐいっと引っ張られ、どっかの開いた窓から部屋ん中まで大ジャーーンプッ!!


「あだーーっ!!」


 ド派手な侵入音・破壊音が響き渡り、俺たちは部屋の中をごろごろと転がった。

 ようやく勢いが止まり、顔を上げると、視界いっぱいに舞い上がる大量の白い粉塵ふんじん

 激しくせき込みながら手で空気を払うと、そこに現れたのは――


 いかつい顔を引きつらせながら俺たちに銃口を向ける、どう見てもカタギではないイタリアのお方々。


「……どうやら、皆さんの大事な商品である白い粉を、ほぼブチまけてしまったようですね」


 …………マジ?



  ◇ ◇ ◇



 どうやってその場を切り抜けたのかは覚えてない。

 気がつくと、俺はまた矢崎さんの後ろで違うバイクにまたがってた。もうどうにでもして……。


 なんで折賀に会うためだけにこんな目に遭ってんの?

 日本に帰れば毎日顔あわせるやつなのに!


 疲れと混乱で当初の目的を忘れかけてたけど、「着きました、ラグーザです!」の声で我に帰った。

 バイクを降り、白茶色の文化的な建物が連なる細い路地を駆け抜ける。

 矢崎さんは手首の端末で折賀の位置を確認しながら走り、目の前に現れた階段を囲う、腰ほどの高さの細い手すりをひょいと飛び越えた。


 俺も続いて手すりを飛び越える。


「―――― !?」


 視界いっぱいに、予期せぬ絶景が広がった。


 どこまでも広がる空、はるか遠くまで見渡せる丘には無数の白茶色の建物がびっしりと並び、眼下には緑の深い渓谷――


 って、足場がねえぇーーッ!!


「あがーーッ!!」


 落ちるーーッ!!


 と思ったら、体があり得ない方向へ吹っ飛んだ!


「あが……」


 気がつくと、手すりの内側、階段の上に座り込んでいた。

 後ろから誰かに口をふさがれてる。


(アー)」のやつらか!? と、首を動かすと――


「静かにしろ」


 折賀!


 折賀は狭い階段上に座り込み、後ろから俺を抱え込む体勢になっていた。

 たぶんここは俺が落ちた場所より数メートル下の階層で、落ちてく俺を能力で引っ張ったんだろうけど、スマートに受け止めるとこまでは能力配分できなかったらしい。


 すぐそばに、涼しい顔の矢崎さんもいる。


「すみません、手すりの外へ黙って飛び降りるのは軽率でしたね」


「えー、まあ、できれば一言教えてほしかったです……」



  ◇ ◇ ◇



「で、大丈夫なのかよ! コーディは?」


 見た感じ、特に大きな変化はなさそうだが、折賀は「頭痛がひどい」と言う。


「もう出くわしたのか?」


「三分前。一瞬だ。また脳の一部を乗っ取られそうになって、俺も力を発動したがどんなダメージを与えたのかわからない。今は、互いに距離をとって姿を隠している状況だ」


 折賀が能力制御できない状況。

 加減がきかず、下手すると相手を殺してしまいかねない。


 コーディ(あいつ)は超危険なやつだけど……できれば、それは避けたい。


「今日こそ、ひとつでもいいからやつの発動条件を見極めてやる」


 折賀は手すりの向こう、眼下に広がるラグーザの絶景をにらみつける。

 広々とした視界いっぱいの丘を埋め尽くす美しい建築物群は、今はコーディや「(アー)」のやつらを隠す遮蔽物しゃへいぶつでしかない。


 でも、俺たちがそろえば、遮蔽物は遮蔽物でなくなる。


 折賀は俺に触れるだけで『色』を見通す目を持ち、遮蔽物を通過して『色』を狙撃できる。

 アティースさんの指示のもと、俺たちはその訓練を何度も繰り返してきた。


「甲斐くんが来たんだから、反撃の手段はありますね。甲斐くん、ここからロークウッドを探せますか」


「やってみます」


 俺はできる限り身を伏せて、眼下に広がる深緑の谷と、白茶色の街並みに視線を巡らせる。

 時折後ろを観光客が変な顔で通りかかるが、気にしている余裕はない。


 小さな車が渓谷沿いに走る。観光客用の可愛いデザインの汽車が通り過ぎる。蟻のような大きさの人間が、建造物の隙間から見え隠れする。

 あの中のどこかに、コーディのモスグリーンがある。


「!」


 ふいに、折賀が俺の上で身をかがめた。

 何かが飛んでくる!


 それは俺たちをかすめて壁にぶつかったが、まだいくつも続けて飛んでくる。

 矢崎さんが懐からペンを取り出し、先端から棒を伸ばすと、さっと振り回して「何か」を叩き落とした。


 ナイフだ!

 脳裏に、グレーの色にまみれた痩せたおっさんの姿が浮かんだ。


 日本でタクにナイフを持たせ、イギリスで俺にナイフを突きつけた男。

 フォルカー!


「ここじゃ狙われる。移動しますよ」


 矢崎さんがコートの裾を広げて俺たちを隠すようにし、俺は折賀に引っ張られて階段を駆け下りる。


「折賀、先にフォルカーを倒そう! ナイフの飛ぶ方向で居場所の検討が――」


「あっちは僕が行きます。二人は引き続きロークウッドを!」


 矢崎さんが身をひるがえし、また手すりから外へ姿を消した。


 そのとき、俺の視界の端に、捜していた『色』が!


「折賀! コーディが――」


 言い終わる前に、急に折賀の手が俺から離れ。


 やつの体が大きくバランスを崩し、そのまま長い階段をすさまじい勢いで転がり落ちていく!


「折賀ッ!?」


 俺は慌てて追いかける。

 この階段あとどんだけ続くんだ!


 そのとき後方から「あひーーッ!!」という悲鳴が聞こえ、振り返って見ると、見覚えのあるおっさんが同じように階段を転がり落ちている……。


 ええい亀山のおっさんはどーでもいい!


 ようやく途切れた階段の下、折賀は倒れたまま両手で頭を押さえてうめいていた。


「折賀ッ! おいっ大丈夫かーーッ!」


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