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コード・オリヅル~超常現象スパイ組織で楽しいバイト生活!  作者: 黒須友香
Ⅱ 「コード・ガンドッグ」、始動!
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CODE28 女子高潜入ファイル・突然の保護者面談!(1)(※絵)

挿絵(By みてみん)



1月22日


 イギリスから帰国した次の日。俺たちはいつもどおりの朝を迎えた。


 三人で朝食の準備や片づけをして、支度を済ませ、アパートを出る。

 三人でゆったりと流れる片水野かたみの川を眺めながら、颯爽さっそうと土手を走る。


 俺と折賀おりがはいつもどおりのジャージでランニング。美弥みやちゃんは自転車。


 美弥ちゃんが高校の校門をくぐるのを見届けたあと、ぐるっと外周を回って大学の正門へ。

 入ってすぐの研究室棟の地下二階、「オリヅル」指令室へ顔を出す。


 ……なんか、俺が折賀んちに入り浸ってるのが当然の流れみたいになってるけど。

 別に、俺が「美弥ちゃん」と「食事」と「風呂」を目当てに上がり込んでるわけじゃないんだからね! 毎度毎度、折賀に引っ張られて、渋々(しぶしぶ)なんだからねっ!


 アティースさんからいくつかの報告を聞く。

 なんでも、今度はイタリアで摩訶不思議な怪異現象が起きているらしい。

 アティースさんは、早くも「現地警察や情報機関員をこき使いながら能力者(A・ホルダー)をいただくための算段」を始めている。今度の出張はイタリアになりそうだ。


 イタリア……。ピザ食いたい。


 出張任務のない日は、このあとトレーニング室で筋トレしたり、誰かに格闘指導を受けたり、大学の売店バイトにかり出されたりする(俺は正式には売店バイト扱いなのだ)。


 いつもどおり、軽く筋トレして汗を拭いていると、折賀が「高校へ行くぞ」と言い出した。


「高校? 美弥ちゃんの? 今日学校早く終わる日だっけ?」


「保護者面談がある」


 保護者・面談。


 字面じづらが俺たちに合わなすぎるんだけど。


「誰が、誰の保護者だって?」


「俺が、美弥の保護者代理」


「ふーん……まあしゃーないか、お母さん来れないもんな……じゃあさっさと行けば?」


「お前も行くんだ。そう言っただろ」


「なんで!」


「保護者代理の従属者として」


 そんな字面見たことも聞いたこともねーわ!


 相手は女子高だぞ。しかも私立のお嬢様学校だぞ。

 家族でもない男がジャージで入れるわけねーじゃん。


 そう言って逃げたかったけど、こいつは一度言い出したら俺を拘束してでも引きずっていくのが目に見えてるので、仕方なくついていくことにした。


 ――ところで、保護者面談ってなにすんの?



  ◇ ◇ ◇



 女子大は、まだいい。

 いろんな団体が他大学と交流したりするので、たまに男子を見かけることもある。


 女子高は、ダメだ。

 同じ「片野原学園」の敷地内にありながら、そこはまるで別世界。

 厳しい校則・隙のないセキュリティに守られた、女生徒による女生徒のためだけの光あふれる学びの

 吸い込む空気の匂いが違い過ぎる。汗と思春期臭にまみれた悲しい男子でゴメンナサイ!


 幸い授業が始まっているため、女生徒には会わずに済んだ。

 でも守衛や事務員や教員にいちいち変な目で見られる。せめてジャージ以外の服で来させろってんだ。


 教員の案内で、応接室のような部屋に通された。

 広くはないが、光沢を放つソファーにテーブル、壁に掛けられた大きな風景画が高級感をかもし出している。

 言われるがままにソファーに腰を下ろすと、予想外に体が沈んで上半身が倒れそうになった。


「お待たせしました。美弥さんの担任、森見もりみと申します」


 ひとりの女性が入ってきた。

 折賀につられて慌てて立ち上がり、軽く頭を下げる。

 顔を上げると、その女性の顔には見覚えがあった。


 年齢はたぶん三十ちょい。

 眼鏡をかけ、長い黒髪を後ろでひとつに縛った様はいかにも真面目な教師そのもの。

 美人と言えば美人だけど、それ以上にキリリと鋭い眼もとと抑揚のない口調が、厳格そうな印象を与える。


「あ、アパートの……」


「あなた方の下階に住んでおります。いつも大変お世話になっております」


 もう一度、先生は深々とお辞儀をした。

 促されるままに、俺と折賀は座り心地の慣れないソファーに腰を下ろした。


 この人、確かに折賀のアパートで挨拶したことがある。

 でも、下の階に美弥ちゃんの担任が住んでるなんて聞いてねーぞ。


「うちには四歳の子供がおりますが、騒音などでご迷惑をかけていませんでしょうか」


「まったく問題ありません、大丈夫です」


 折賀が平然と答える。


「こちらこそ時々大きな音や振動でご迷惑をかけていると思います」


「……そうですね。ゆうべも何かされていたようですね。少し心配しましたよ」


 うわ、これ遠回しなご近所クレームじゃん。

 しかも下階って、折賀家の真下かよ!


 ゆうべはうっかり美弥ちゃんのバスタイム中に浴室正面のトイレへ行ってしまい、つまりはバスタイムの美弥ちゃんに近づいてしまったので折賀に壁ドン(壁にドンと叩きつけられる方)され、そのまま壁に埋まって壁オブジェになってました。なんてことは口が裂けても言えねー。


 去年の「美弥ちゃんポルターガイスト事件」も、何か勘づいてるんじゃないだろうか。


「これが二学期までの美弥さんの成績です」


 森見先生はそう言いながら、折賀に向かって一枚の紙をテーブル上に広げた。

 そっか、これ「保護者面談」だった。保護者に成績の話とかするんだ。


 紙を手に取ってざっと目を動かした折賀が、不機嫌そうな低い声でつぶやいた。


「全教科、平均点以下……」


 うげ。この面談って、生徒の成績にダメ出しするためのものか!


「学校のレベルが高いんでしょうけど、特に英語はこの成績では……」


「そうですね。美弥さんともお話ししましたが、やはりお母様のこともあって、国立の看護学科へ進みたいとのことです。それで、通える範囲の大学をいくつか提案したのですが、どこを受けるにしても、まずは英語の強化が必須になります」


 看護学科。美弥ちゃんにちらっと聞いたことがある。

 誰をも幸せな笑顔にしてくれるあの子に、これ以上ないくらいぴったりな進路だと思う。


 その夢に、成績という名の厳しい現実が立ちはだかる。

 いたたまれない。俺、こんな話聞いちゃっていいのかよ。


「時間配分を考えるように、いつも言ってはいるんですけど。これじゃ、毎日鶴折ってる場合じゃないな……」


「ちょっと待てよ、折賀」


 家族でもないのに、口を出さずにいられなくなった。


「あの子すげー頑張ってんじゃん。学校に部活に、バイトに家事、おまけに病院だって毎日通ってんだ。勉強するヒマないの当たり前だろ。鶴だって、毎日ものすごく心を込めて折ってんだよ。俺、いつも一緒に折ってるからわかるよ。だから、そんな言い方しなくても……」


 森見先生が、目を皿のようにして俺を見てる。


 やば、口出ししすぎたか。何様だと思われてるかも。


「美弥ちゃんだったら、今からでも挽回できると思うし……」


 先生の視線を避けるように、うつむき加減になってしまう。

 声を落とした俺の言葉尻にかぶせるように、先生は「もちろんです」と力強く答えた。


「受験を希望するほかの生徒たちは、もうほとんどが塾に通い始めています。当学園では、塾へ通わなくても学校の授業と指導だけで充分受験に対応できるようにカリキュラムが組まれておりますが、生徒が塾へ通うのを止めることはできません」


 先生の口調が、だんだんと熱を帯び始めた。

 その視線は、迷いなく俺と折賀に向けられている。


「お話を聞く限り、美弥さんには塾へ通うだけの時間はなさそうですね。お兄さんには家庭教師の経験があると伺っています。学校とご家族でしっかりと指導できれば、美弥さんの成績は今の生活を崩さずとも十分底上げできるはずです」


 そっか! そういう話なのか。やっぱ俺の出る幕じゃなかった。


「それに、美弥さんのことを理解して心配してくれるお友達の存在は、強い心の支えになるでしょうね」


 眼鏡の奥の切れ長の瞳が、まっすぐに俺を見る。

 お友達って俺のことか。照れるな。


 この先生、怖そうに見えたけど、実はけっこういい人なのかも。


「そうですね。もう少し美弥と話し合ってみます」


 折賀の口調も、少し柔らかくなった、気がする。


 美弥ちゃん、俺は何があってもきみの味方だからね。

 行きたい大学があるなら、めいっぱい応援するからね!


 折賀は、成績表を丁寧にたたみ、姿勢を正した。


「そろそろ本題に入りたいんですが」


 え、なに本題って。面談これで終わりじゃないの?


「美弥の警護状況について聞かせてください。レポートには一通り目を通していますが、最近の状況はどうですか」


 ん? 警護?


「優秀な警備員を配していますので、校内に不審人物が侵入した事例はまだありません。美弥さんは生徒にとても人気があるので、ときどき生徒間での軽いトラブルは起きていますが、美弥さんの友人、若崎わかさき希優まゆ庄野しょうの真季まきが体を張って解決してくれています」


 不審人物侵入? 体を張って解決?


 そのとき、ふと聞いたことのある言葉が頭をかすめた。

「オリヅル」に加入したとき、矢崎やさきさんから聞いた言葉だ。


(日本警察からの出向者がひとり、美弥さんの学校で警戒に当たってくれています。優秀な方ですよ)


 ひょっとして、この人が。


 美弥ちゃんの担任が、アパートのすぐ下の部屋に住んでいて、その正体は「オリヅル」のメンバーってこと?


 折賀の横顔は、成績の話をしていたときよりもずっと真剣だ。


「その二人、会わせてもらえませんか」


「そうですね。授業が終わったタイミングで、こちらへ呼びましょう」


 俺がこの場に連れてこられた理由が、やっとわかった。


 森見先生と、美弥ちゃんの二人の友達。

 美弥ちゃんの校内での安全に関して、大きなカギを握っていると思われる三人。


 本当に信頼できる人物かどうか、俺に検分させようってことだな。


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