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CODE105 時空能力覚醒! 片水崎、最終攻防戦!(3)(※絵)


挿絵(By みてみん)



「みなさん、慌てないで! 落ち着いて外へ!」


「こちらです!」


 各所でスタッフや看護師さんたちがたくさんの人々を誘導している。車椅子に患者を乗せて運んでいる人もいる。

 この揺れでは、さすがにベッドまでは運べないだろう。自力では逃げ出せない人たちが、まだ病室にたくさんいるはずだ。


 ひっきりなしに訪れる大小の揺れと、全身が床の下まで沈んでしまいそうな感覚。重力波がランダムに暴れている。


 それでも俺たちは上階へ走る。体が沈みそうになると、折賀おりがが俺の腕をつかんで床を蹴る。

「すみません、通してー!」と叫びながら、二人で人々の合間を縫って宙を舞う。 


 スタッフさんが言ったとおり、電気は各所で少しずつ復旧しているようだけど、全部というわけではないらしい。まだ大半の照明は消えたままで、空を覆う黒い渦の動きに合わせて視界がどんどん暗くなっていく。人の命を預かる重要な医療機器に、優先的に電力が回されているんだと思いたい。


 逃げ惑う人々の『色』の向こうに、攻撃性を秘めた部隊の『色』が待ち構える。


 階段の踊り場に三人。折賀は俺の頭に触れて位置を確認すると、相手に銃を構える隙すら与えず架空の銃を連射する。

『色』が消え、折賀の合図で俺たちはまたひた走る。


 階段を駆け上がり、入院病室が並ぶ階へ。その向こうに、美夏みかさんの『色』が待っている!


 その後も何度か、重力の揺れをかわし、部隊の攻撃を撃退しながら進んだ。

 攻撃に一般人が巻き込まれそうになると、折賀は俺の頭をはたいたあとで一気に飛び出した!


 折賀の能力は、自分・敵・一般人を一度に動かすことはできない。

 何を優先すべきか瞬間コンマごとに判断し、ときには自分の体を盾にして、地を駆け、宙を翔けて、守るべき人を守る。


 初めて「オリヅル」指令部を訪れたとき。折賀はアティースさんに任務中の特攻を責められ、とんでもなく厳しい罰を受けそうになった。一般人を守るための暴走。黙って罰を受け入れようとしたこいつに、後悔の色はまったくなかった。


 これが折賀なんだ。自分にできることがあるなら、何があろうと動かずにはいられない。


 俺の役目は、折賀の動きを見届けること。折賀の目になること。


 能力対象を高速で何度もスイッチさせて、一般人を逃がし、敵と応戦しながら走る折賀。

 壁を蹴り、鳥のように舞いながら、どんな銃撃をもかわしていく。まるで演舞のように右腕がしなり、能力が銃弾となって宙を裂く。そのたびに、敵がひとりずつ倒れていく。


 俺もタイミングを計りながら前へ進む。

 ダークブルーの風が俺の横を駆け抜ける瞬間、俺は手を伸ばした。折賀の目になるために。


 パシッと小気味よい音を立て、俺たちは互いの手を打ち合った。



  ◇ ◇ ◇



 美夏さんの『色』を目指して進むうち、居場所の見当がついてきた。


 あの病室だ!

 俺が初めて、美弥みやちゃんと一緒にこの病院へ来て、眠っている美夏さんを見た部屋。あとから現れた折賀に、壁にはりつけにされたんだった。


 そのそばにうごめく禍々(まがまが)しい色は――やつの顔は画面越しにしか見たことがないけど、ハーツホーンその人で間違いない。


「折賀」


 俺が示す方向に、折賀は無言でうなずく。

 折賀にとっても、長年の思いがぎゅっと詰まった部屋だ。能力アビリティが発現するまで、美弥ちゃんと毎日のように来ていたはず。


 その部屋の前に、銃を構えた隊員たちが扉をふさぐように立っている。

 俺はやつらの視界から外れた壁際に身を寄せて、バッグからスマホを取り出した。


「このプログラム、どのタイミングで流せばいい?」


「あと五人。俺が隊員を全員倒してからだ。ハーツホーンは母さんを操ろうとするかもしれない。それまで温存しておいてくれ」


 俺はジャージのポケットにスマホを突っ込んだ。


『アディライン・プログラム』を作動させるためには、イヤホンなどで至近距離から脳に直接音声を流し込む必要がある。美夏さんがすでにイヤホンを装着させられている、もしくはもう音声を流されている可能性もある。妨害されずに再生できるタイミングを狙わないと。


「俺が倒すまで、ここにいろ」


 ポンと俺の頭を叩き、アサルトライフル型の能力(PK)銃を構え、壁越しに照準を合わせる。


「倒したら突入する」


 折賀が息をととのえる。ポケットを押さえる俺の指に力がこもる。

 折賀ならあっという間に撃破するだろう。俺も、いつでも足を動かせるように――


 折賀の次の動きは、俺の予想を大きく裏切った。


 射撃体勢が解かれ、音を立てて床に倒れ伏してしまったのだ。


「折賀!?」


 慌てて体をさすり、息を確かめようとしたとき。

 俺たちは、五つの銃口にぐるりと囲まれていた。



  ◇ ◇ ◇



「う……グ……」


 折賀の口からうめきが漏れる。まるでイタリアでコーディに催眠をかけられたときのように。


 コーディはありえない、とするとハーツホーン?

 まさか、すでにアディライン・プログラムを――


 そうだ。今まで事態が急速に動きすぎて、考える時間がなかった。

 拉致されたあとで、折賀自身がアディライン・プログラムを流し込まれた可能性を。


 だったら今こそスマホの出番では。でも、銃を突きつけられてる今は何もできない。

 隊員のひとりが折賀の上半身を起こし、いきなりこめかみを殴りつけた。


「やめろッ!」


 折賀はまた倒れ、俺は胸倉をつかみあげられた。そのまま乱暴に振り飛ばされて、折賀の横の床に背中を叩きつけられる。


 息が、まともにできない。薄暗い天井が、ぐらぐら揺れている。このまま目の前へ落ちてきそうだ。


 ここまで来たのに。俺には何もできないのか?

 いや、そんなことない! あきらめるな、あきらめるな!


 まだひとり、あきらめていない人がいる。

 視界の隅を、覚えのある『色』が走るのが見えた。俺はすぐに体を起こし、折賀を守るために上にかぶさった。


 交差する銃声! 隊員たちが俺から銃を離す。

 俺は渾身のタックルでひとりを床上に倒した。首に腕を回し、ガッチリと締め上げて相手の意識を落としたところで、こっちに向かってきたもうひとりの隊員に失神した体を投げつけた。倒れた隊員の上へ飛び込み、顔面を殴――


 ――るのは、さすがに無理だった。フルフェイスのメットに、ボディも分厚い戦闘用防護服。俺のこぶしじゃ何もできん!


 最初に絞めたやつもすぐに意識を取り戻し、俺は再び五人に囲まれた。


 離れた場所から懸命に応戦してくれた森見もりみ先生に、心の中でそっとお詫びを入れた。先生、一度こいつらに倒されたあとで、追いかけてきてくれたんだな。


 隊員のひとりが何かに反応し、病室の扉を開けた。俺は別の隊員に襟首をつかまれ、病室の中へ押しやられた。


 そこに、ハーツホーンと美夏みかさんがいた。



  ◇ ◇ ◇



甲斐かい健亮けんすけ――直接会うのは初めてだったな。なかなか骨のあるところを見せてもらったよ。さすが、コーディが好意を寄せるだけの理由はあるようだ」


 スーツを着た背の高い男。

 政府高官と呼ばれるにふさわしい、ピンと背を張り堂々とした立ち姿。自信と自尊心に満ちた、よく通る声。


 アティースさんに写真や映像を見せてもらったことがある姿が、今、実体をともなって目の前にいる。


 この男が。この男が、コーディを、ハレドを、フォルカーを……


 そんなもんじゃない。まだまだたくさんだ。

 二人で懸命に生きていた、折賀兄妹の人生までめちゃくちゃにかき回したんだ。


 体中の熱が、暴れ回って沸騰ふっとうしそうだ。

 今にも爆発しそうな鼓動を抑え込んだのは、やつの手に握られた拳銃が美夏さんに向けられているから。


 美夏さんは、今にも倒れそうなほどに痛めつけられた心を、ギリギリのところで平静に保っているようだった。彼女の『色』が、誇りだけは失わないように形をとどめている。さすが、折賀兄妹の母親だ。


 そんな彼女を嘲笑あざわらうように、ハーツホーンの言葉が続く。


「だが残念だったな。折賀おりが美仁よしひとにはあらかじめプログラムを仕込んでおいた。折賀一家は全員素晴らしい能力アビリティの持ち主だ。うちとは大違いだ。だから全員もらっていくとしよう。

 ああ、きみはいらないよ。きみの能力アビリティは特に使い道がない。わがCIAの最新開発機器で、いくらでも代用がきくからね」


「わがCIA、って……」


 思わずうめいた。こいつ、まだ長官のつもりなのか?

 俺が飲み込んだ問いに、やつは冷徹な笑みで言葉を返す。


「まさか、私が本部を出たくらいで長官の座を追われたとでも思っているのか?

 表向きはそうかもしれんが、実態は違う。私にはまだ多数の協力者がいる。

 私がここまで来て彼女を手に入れるために、どれだけの人員が動いたと思っている? プログラムに動かされているのは、そのうちのほんの一握りだ」


「…………」


 はったりじゃない。やつ自身そう思い込んでいるし、おそらく真実だ。 


 悔しい。操られてるわけじゃないのに、声が出ない。

 これまで生きてきた経験、人脈、権力。何もかもが、俺とやつとの人間力を隔てている。大組織のトップってのは、ここまで大きさが違うものなのか。


「さっきから何をどやってんの? このおっさん」


 突然、英語で語るハーツホーンにかぶさった日本語。

 あまりにも場違いに思えたそのセリフは、美夏さんの口から出たものだった。


「ペラペラ早口で何言ってんのかわかんないから、日本語(しゃべ)ってくれる?」


「きみがお望みなら、そうしよう」


 ハーツホーンの言葉が、日本語になった。


「あ、日本語喋れんのね。だったら話が早いわ」


 美夏さんの表情に、『色』に、もう心弱そうな部分は見られない。


「私を動揺させて新たな能力者を生み出そうってんのなら、あいにくだけど。私は、少なくともあんたなんかに動揺はしない」


「……きみがこんなに気が強いミセスだとは思わなかったよ」


 ハーツホーン。立場が下だと思っていた相手にそうではないと宣言されて、顔面の奥でいらついてるのがわかる。

 拳銃をさらにはっきりと見せつけた状態で、やつは声のトーンを上げた。


「それではきみのお宝の能力アビリティが泣くぞ。今すぐとは言わん、時間をかけてでも発動させてみせよう。とびきりの素晴らしい能力アビリティを私に与えてくれ。今まできみに手を出さずにいたのはこのためだ。


 ()()()()()()()()!」


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