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CODE95 「ラングレー地下迷宮」を突破せよ!(3)


「むあああぁぁーーっ!!」


 俺とハムの体が空中を疾駆しっくする!

 猛スピードで暗い地下迷宮を駆け抜ける!


 周りを見る余裕もない。ただ、体の傾き加減で、途中で階段を降りたらしいことはわかった。


 傾きがもとに戻ったとき、ゴオオオォォン……と、おぞましい重低音が鳴り響いた。

 ホバーで空中に浮いてる俺にもわかる。まるで迷宮そのものが、地震でも起きたかのように揺れ動いているのが。


「うわっ、なっなに?」


「始まったようですねー」


 ハムが、英語で話しながらホバーを止めた。

 ビリビリとした空気の振動が伝わってくる。ひょっとしてこれ、迷宮自体が動いてる?


 ようやく音と揺れが収まったとき、ハムが言った。


「今のはたぶん階段が動いた音でしょう。この施設の地下は、誰かが階段を降りると構造が変わるようになっています。地下一階に降りたとき、階段はそこまでしかなかったでしょう? 誰かが階段を移動するたびに、階段の場所が変わったり、消えたりするんですよ。もちろん侵入者対策でね」


 んなあほな……。


「まさか、今ので地下二階へ降りる階段がなくなっちゃったのか? みんなまだ上にいるのに!」


 ハムは俺をぽんと床に下ろした。

 ここ地下二階は、地下一階と同じように無機質な通路が延々と続いていて、照明はところどころ、少ししかない。ホラー映画の舞台にはうってつけだ。


「なんで俺だけ連れてきたんだよ」


 非難するようにくと、ハムは黒ぶち眼鏡をくいっと上げて答えた。


「きみに協力してほしいことがあるんです」


「え?」


紫鈴ズーリンの捜索に、協力してほしいんです」


「…………」


 頭ん中で急いで情報を回す。


 紫鈴ズーリン。確かチャイナ三姉妹の次女、十七歳。

 その子が捕らわれたから、ハムと赤・緑のシスターズは「アルサシオン」に従ってるんだった。


「たぶんこの施設、それもこの階にいるはずなんですよ。きみは人の捜索ができるんでしょう? ちゃちゃっと彼女を見つけ出してくれませんかねえ」


「え、俺にそんな話したらヤバいんじゃないの?」


「大丈夫です。彼女、殺されることはなさそうです。理由は会えばわかります」


 一応は無事なのか。

 そりゃ、俺だって三姉妹の不遇の人生を聞いた今、できれば助けてあげたいとは思う。でも。


「……ふざけるなよ。誰のせいで俺たちがここまで来たと思ってんだ。あんたたちが折賀おりがをさらったからだろ! その子を助けるより先に、折賀を返せよ!」


「きみが紫鈴ズーリンを見つけ出したら、僕も彼の救出に協力しましょう。どうです?」


 さらっと言う。信用していいのだろうか。

 根っからの悪人ではないと思いたい、けど。


「あんたの仕事は折賀を殺すことだったよな? なんで急に方向転換したんだよ」


「そうだったんですけど、急に『殺せ』から『さらえ』に指令が変わったんですよ。要するに、僕は彼をおびき寄せるためのエサにされたわけです。さすがに頭に来ましてね。そりゃ、僕に力がないのは認めますけど」


 確かに。

 このおっさん、折賀のありとあらゆる攻撃を弾いてしまうけど、その代わり銃やホバーを駆使しても決定的な攻撃力には足りなかった。まるで使い捨ての駒扱いだ。


 それにしても。自分で「誰にも影響されない」なんて言ってたくせに。ブツブツと口をとがらせるさまは、どこか滑稽こっけいだ。

 思ったより普通の人間っぽくて、ちょっと安心した。


「おっさん、地下一階とここを繋ぐ方法は?」


「パスコードがあるんですけど、残念ながら僕は知りません。紫鈴ズーリンに会えれば教えてもらえるでしょう」


 紫鈴ズーリンがパスコードを知ってる?

 よくわからんけど、とにかく探さないと話が進まないっぽい。


「しゃーない、捜してみる。その代わり、折賀を助ける約束、絶対守れよな!」


 そのとき、俺の脚を何かがつんつんとつつく感触が。

 見ると、そこには茶色虎毛の見慣れた毛玉。


「わあ、ケンタ! お前どうやって来たんだよー」


 ケンタを抱え上げると、俺の大好きな心地よい声が聞こえてきた。


甲斐かいさん! よかった見つかった!』


美弥みやちゃん!」



  ◇ ◇ ◇



 美弥ちゃんによると、ケンタはあちこちのダクトなんかに体をねじこんで、なんとかここまでたどり着いたらしい。


 俺はケンタごしに、アティースさんにこっちの事情を説明した。


 タクからも報告があった。俺が連れ去られた直後に建物が揺れたから、美弥ちゃんが動揺したせいだと思った、と。

 彼女の能力が暴走しないよう、タクは持ち前の人懐っこさで美弥ちゃんを安心させ、サポートしてくれてる。ありがたい。


 今はハムの提案に乗っかるしかない。しばらくはチームと別行動だ。


「美弥ちゃん、俺は大丈夫だから。こっちで折賀を捜すために頑張ってみるよ。美弥ちゃんは、絶対に無理しないようにね。チームのみんながついてるから、ちゃんと頼って」


『うん……。さすがにこれ以上離れると、ケンタを動かすことはできないの。甲斐さん、ほんとに気をつけてね』


 美弥ちゃんと話せて、元気出てきた。

 早速、紫鈴ズーリンの捜索を開始する。


 俺の「甲斐レーダー」は地下では性能が落ちるらしく、ある程度動き回らないと目的の『色』を見つけ出せそうにない。

 ケンタをジャージの胸元に突っこんで、ホバーに乗って、ちっさいおっさんの肩につかまって地下二階をプシューと移動する。


「そういや赤と緑は何してんの?」


「赤と緑? 朱鈴シュリン翠鈴スイリンのことですか。今は外で別の仕事をしてもらってます。あとでこっちにも来るはずですよ」


 こっち来るったって、あの二人じゃなあ。


 通路の角を曲がったとたん。

 突然、銃声が響いた!



  ◇ ◇ ◇



 俺はホバーから飛び降りて曲がり角に身を隠した。ハムはそのままホバーで突っ込んでいく。


 さすがハム、どんなに銃弾食らってもびくともしない。

 ホバーで敏速に飛び回り、四人の番犬ガードにホバーを激突させてあっという間に無力化してしまった。


 再びホバーに乗ってしばらく進むと、ようやく誰かの『色』が。

 方向を指示して、ホバーをそっちへ向けてもらう。

 何度か角を曲がると、大きなガラスの扉が現れた。


 中をのぞくと、だだっ広い空間が広がっていた。学校の体育館並みだ。地下二階にこんな空間があったのか。


 中に奇怪な機械が見えた(シャレではない)。

 とにかくデカい。あれは重機? それともロボット?


 その、なんだかわからない大型機械の下で、忙しく動き回ってる人がいる。


紫鈴ズーリン!」


 ハムが嬉しそうに声を上げた。

 中に入ると、またも何人かの番犬ガードが撃ち始めたけど、これもあっという間にハムが撃退。

 俺はさすがに銃武装の部隊に立ち向かうほど命知らずじゃないので、さっさと隠れとく。ハムおっさん、すごく便利。


 銃声がやんだ。攻撃は終わったっぽい。

 これだけ銃声が飛びまくったのに、機械の下であれこれやってる紫鈴ズーリンは一度も振り返りやしない。耳聞こえないの?


「ふう」


 ようやく、顔を上げて振り返った。

 顔だちは姉妹たちに似て、美少女。


 ……なんだけど。赤・緑は自然な黒髪なのに、なぜかこの人は薄紫色のハーフツイン。名前が「紫」だから染めてんの?

 で、服は白衣。


 ハムがなんだらかんだらーと話しかけて、紫もなんだらかんだらーと返す。


 紫は、俺の方についっと歩み寄ってきた。

 小さなその口から出てきた言葉は――


「お初にお目にかかる。わしは紫鈴ズーリンと申す者じゃ。イルハム殿とともにわざわざここまで、ご足労じゃった」


 ――やっぱ役割語だった。


 色んな大事なものが、果てしなく、だいなしだ。


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