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CODE90 折賀救出作戦始動!(1)


4月27日


 目が覚めると、すぐに枕元にエルさんが飛んできた。


「よかった、甲斐かいさんも起きましたね!」


 俺が寝ていたのは片水崎かたみさき総合病院のベッドの上。

 俺と亀山かめやまのおっさん以外は、もう目を覚まして動き出しているという。

 日付けを聞くと、まだ一日しか経っていない。よかった、美夏みかさんみたいに何ヶ月も眠ることにならなくて……。


 亀山のおっさんは、寝言で奥さんの名前とお子さんの名前とお気に入りAV女優の名前を漏らしまくっているそうなので、そのままほっとく。

 エルさんが神妙な顔つきで俺と目を合わせながら言った。


「甲斐さん。あのとき何を見たのか、ボスに説明してください」


 言われるまでもない。

 病室に入ってきた看護師にメディカルチェックを受けるように言われたが、断ってさっさと着替える。走れば二分で大学に着く。


 アティースさんは、指令室の端末で何かの映像を一心に見つめていた。俺が入ってきたのにも気づかない。


「アティースさん」


「甲斐!」


 驚いて顔を上げる。普段より顔色が悪いような気がする。『色』にもいつもの輝きがない。

 そうか……折賀おりがが心配なんだな。


「アティースさん。俺、大事なことを報告していませんでした」


 俺は、彼女に話していなかったことをすべて話した。


 折賀家の秘密。美夏さんが昏睡した理由。美夏さんと叔父さんと笠松さん、それぞれが持つ能力。叔父さんに、誰にも話さないようにと脅されたこと。


 そして、昨日折賀を連れ去ったのは間違いなく折賀の父――笠松かさまつ武文たけふみさんだということ。


「ちゃんと話してれば、アティースさんはもっとあの人たちを警戒していたはずです。俺も、百パー信じていたわけじゃないけど、やっぱり信じたいと思ってたから……だから、あんなことになるとは思わなくて……」


「謝る必要はない」


 今まで何度も俺たちを叱責し正座させてきた上司は、俺を責めたりせず、力なく小さくつぶやいた。


「きみはあの家族の幸せを守りたかったのだろう。三人の能力アビリティはどれも十分に脅威だ。報告があれば本部が動いたかもしれない。私も、樹二みきじはともかく、美仁よしひとの両親はできればそっとしておきたかった。情報組織のチームリーダーでありながら情報を正しく扱うことができなかった、私の判断ミスだ。きみのせいじゃない」


 責められないことが、ますますこたえる。

 俺はまた、目の前であいつを危険にさらしてしまったんだ。


 後ろから、ポンと肩を叩かれた。世衣せいさんだ。


「今は美仁くんのために全力を尽くそう。話を進めるよ」


「はい!」


 そうだ。今の俺にできることを捜さないと!



  ◇ ◇ ◇



「甲斐くん、『色』がない番犬ガードはともかく、なぜ笠松さんの接近を捕捉できなかった? 彼も番犬ガード化してた?」


 その言葉に、俺の脳内では一日前の映像が目まぐるしく巻き戻された。

 それにリンクするように、アティースさんが大型モニターにさっきまで見ていた映像を映し出す。たった一瞬だけど、亀山のおっさんが撮った笠松さんの姿がモニターに現れた。


「ずいぶん変わった御仁だな……」


 アティースさんが眉をひそめるのも無理はない。

 ビジネススーツはまだしも、マスクにサングラス、作業用ヘルメットって。誰が見たって怪しい。


 怪しまれるだけの格好を、する必要があったってことだ。


 そういえば。

『色』は見えなかったけど、隠しようのないオーラ、能力を発動する瞬間の衝撃の波ははっきりと感じた。変装したって俺にはバレるって、わかってたはずだ。


 単純に、ギリギリまで接近を気づかれないために『色』を隠した。つまり――


「二つわかりました。番犬ガード化はしていない。それから、『色』を隠す手段を持っている」


「フォルカーの工場で押収された、あの装置か」


 アメリカ・インディアナ州の、フォルカーがいた自動車廃工場。

 そこで出会ったフォルカーは、まるで脳実験に使われるような、奇妙なヘルメットをかぶっていた。その装置のおかげで、俺はフォルカーの居場所を特定できず、MAYAちゃんにナビゲートされてやっとたどり着いたんだった。


 確か、脳の電気信号を遮断して俺が知覚できないようにする装置、だったはず。


「あれは、フォルカーが『(アー)』の研究室から持ってきたんだったな。それがこのヘルメットに姿を変えたとなると――」

「そんなものを作って、さらに改良までできる研究員がいるってことですよね」


 世衣さんも腕組みしながら思案する。


「『(アー)』の人材もあなどれませんね。ヘルメットだけじゃない。タクくんのPCに彼を操る信号を送ってきたし。あの高性能なイルハムのホバーボードもたぶん『(アー)』支給だろうし。何より、やつらのキモとも言える『瞬間移動装置テレポーター』。作り出すのは無理でも、メンテくらいはできる技術者が必要ですね」


CIA本部(ラングレー)の技術者に話を聞く必要があるな」


 アティースさんの言葉に、世衣さんがうなずく。


 折賀の半長靴ブーツや俺の双眼鏡型スコープ、ハレドとの戦いで使用したネックガードなどは、本部の武器開発室が短期間で開発した特注品だ。

 そして『(アー)』のトップはCIAのもと長官トップの妻。技術者同士の繋がりがあってもおかしくはない。むしろイコールと言ってもいいかもしれない。


 確かにそれは、大きな手がかりには違いない。でも――

 場を離れようとするアティースさんの背中を、思わず呼び止めた。


「アティースさん。もっと早く『(アー)』のアジトの場所、割り出せませんか。コーディの証言、まだ本部から知らされないんですか?」


 本部が聴取を進めているはずのコーディの証言は、いまだ十分に知らされてこない。いくら「もと長官」が関わるトップシークレットだからって、連絡が悪いにもほどがある。


(アー)」のアジトの場所さえわかれば、一気に決着がつけられるかもしれないのに!


「そのことなんだが」


 アティースさんは、俺の方に向き直った。


「やっと少し聞き出すことができた。証言については、本部が内容の検証を進めている。現時点でわかっているのは、ロークウッド本人にもアジトの正確な場所はわからない、ということだ」


「わからない? なんで? あいつはボスの娘で、幹部で」


「ボス、それじゃ『瞬間移動装置テレポーター』の位置は?」


「それもわからないそうだ」


 俺と世衣さんは顔を見合わせた。


「わかっているのは、彼女は普段自室に待機し、任務が発生したときだけ『瞬間移動装置テレポーター』の力で任務地へ直接飛ばされていた、ということだ。自室の場所も、常にボディガードを装った見張りがついていて監禁に近かったため、正確なところはわからないらしい」


 自分がどこにいたのか、知らなかった……?


 まるでとらわれの捕囚だ。親子なのに。コーディ、そんなにも自由のない生活を送っていたのか。


「フォルカーも、研究室に立ち入ったことはあるようだが、あとは同じような状況だったらしい。他のメンバーもそうかもしれん。『瞬間移動装置テレポーター』さえあれば、メンバーを招集せずともそれぞれの待機場所から直接飛ばすことができるから……」


 アティースさんは、あごに手を当てて自分の考えをつぶやき続けている。


「そもそも『(アー)』という組織自体が、もと長官(ハーツホーン)の生み出したまがい物だ。能力者(A・ホルダー)の研究収容施設も開発室も、すべてCIAにそろっている。

 ――下手したら、アジトそのものが存在しない、という可能性も……」


 アジトが、ない? 


「やつらに必要なのは『瞬間移動装置テレポーター』の設置場所だ。作動させれば、必ず周囲の磁場に強力な影響を与える……」


 ふいに、声がやんだ。

 アティースさんの目が大きく見開かれ、白い両手がガシッと俺の両肩をつかまえた。


「甲斐、世衣。わかったかもしれない。『瞬間移動装置テレポーター』の場所が」


「えっ」


CIA本部(ラングレー)のエリアに、外部からのあらゆる攻撃を防ぐ、電脳シェルターとも呼べる場所が存在する。逆に言えば、内部の磁場の乱れが外へ影響することもない。CIAが所有する、極秘開発室だ」


 ラングレー!?


「ほんとですか!? ラングレーにはこの前行ったばっかなのに」


「まずは私がエルと探りを入れてくる。甲斐」


 俺の肩をつかむ手に、さらに力がこもった。


「きみには、ほかにやるべきことがある。矢崎やさきと一緒にそっちを頼みたい」


「そっちって?」


「美仁救出作戦に志願している新人能力者(ホルダー)が二人いる。彼らの教育、指導。及びメンタルサポートだ」


 すぐにピンときた。二人というのはたぶん、タクと――


――美弥みやちゃんだ。


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