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スライム狩り


 再度スライム狩りの依頼を受け、ギルドを出てから直ぐに私はバルトと離れた。

 彼とは四日後の朝に再度、ギルド前で落ち合うという話になった。


 別にスライム狩りをバルトに手伝わせて、私一人でやったように見せれば良いだけなのだがズルはしたくない。

 それに他の冒険者に見られて報告されるとペナルティを受ける。不正をして良い事なんかないのだ。



 それでも街にいる時くらいはバルトと一緒にいてもよいのだが。

 正直バルトと一緒にいてもつまらない。


 だって、何かを食べようと誘っても彼はいつもお腹が減ってないと言って見ているだけだ。

 一緒に食べないのに側にいられると、まるで私が奴隷を連れ歩いているみたいで自己嫌悪に陥る。

 いや、まぁ実際に奴隷なんだけれど。


 そのくせ宿の部屋を一緒にするか……という話を出したら断られた。

 は? 何で私が断られなきゃいけないの!? 普通は逆でしょう!

 お金を節約する為に恥を忍んで言ったのに。


 とにかく、バルトと一緒にいてもつまらない。 

 話してる時は楽しいけど、ふいに不快にさせられるのだ。

 ならぱ、いっそ暫く解散でいいじゃないかと結論付けた。


 

 こうしてソロになった私の一日目の狩りが始まる。

 スライムを探すのは案外大変だ。透き通っているので遠目で見てても見逃すから、くまなく歩き回って探すしかない。

 本当に数が増えてるの?

 バルトといた時は三十匹倒すのに二日かかったので、正直三日でも足りないかもしれない。


 朝から夕方まで付近を駆け回ってスライムを探しては倒していたが、その日は五匹しか倒せなかった。

 倒すのは全然苦労しない。とにかく、見つからないだけだ。


 宿に戻る頃にはクタクタだった。

 帰って直ぐに湯浴みをすると、その後は直ぐにベッドに倒れこんだ。

 食事も狩りの途中でパンを一つ食べたくらいで、ものすごく作業的でつまらない一日だった。


「でも、皆こんな事を繰り返して冒険者階級を上げてるんだもんねぇ」


 なんとなく寂しくて独り言を呟く。

 ちょうどその頃、隣の部屋の扉がバタンと閉まる音が聞こえた。


 隣はバルトが宿泊している。

 彼は何をしてるんだろうか? と、そんな事を考えながら私はいつの間にか眠りについていた。



 そして二日目の朝が訪れた。

 朝起きて宿の一階で朝食を取るが、バルトの姿は見えない。彼は一体いつ食事をしているのか。

 そして今日も私はスライム狩りへと旅立つ。


 昨日同様、朝から夕方までスライムを探して走り回る。途中誰かに見られているような気がしたが気のせいかな?


 その日、倒したのは八匹だった。

 合計十三匹のスライムの素材を見て、思わずため息が漏れた。


「彼とやった時の半分にも満たないじゃない……」


 思わず愚痴ったが、バルトと二人でやっていた時も別に二手に別れていたわけではないのだ。

 二人であれこれ言いながら一緒に狩りをしていただけだった。

 つまり、存在したスライムの数が単純に多かったのだろう。

 後は、そう……楽しかったなぁ。


 どちらにしろこの調子では三日かけて依頼二つにも届かない可能性が出てきた。

 不安になり狩りの後でギルドに顔を出してみたが、相変わらず討伐依頼はスライムしか出ていなかった。

 焦燥感を感じてギルドを後にする。


 ん? 今、後ろに誰かがいたような気がしたけど……


 疲れているのだろうか? だが頑張るしかない。

 とりあえずその日も部屋に戻って湯浴みすると、直ぐにベッドに倒れこんでしまった。



 あっという間に三日目。

 作業的に走り回りスライムを倒すが、夕方になるまでに倒せたのは、なんとたった三匹!


 え? ちょっと少なくない?

 そして気付いた。探しにくいのもあるが、絶対的にスライムの数が減ってきているのだ。

 考えてみればその為の討伐依頼なのだし。


 これは魔物の活性が上がる夜に行動する方が効率が良いかもしれない。


 そして、今日も誰かに見られている気がする。

 いや、気のせいではないだろう。

 だが私は気にせず、一旦街に戻って食事をすませると再度狩りに出た。

 せめて合計で二十匹にしたいのだ。


 夜になるとさすがに他の魔物も活性化するので、スライム探しをしてると余計な魔物にも襲われた。

 コボルト、殺人ウサギ、グール等、スライム以外と余計な戦闘を繰り返す事になった。

 だが夜中になる頃には、何とかスライム合計二十匹は達成出来た。

 

「これはもう仕方ないわね。依頼二つ達成出来ただけマシだわ、ん? あれは……」


 少し遠くで明かりが見える。

 こんな時間にまだ人が? と、思っていると悲鳴が聞こえた。

 

 急いで明かりの方へ走っていくと、そこでは四人の男女が大型の四足歩行する魔物に襲われていた。

 顔はワニのようだが、体は大きな狼。

 それは私も知っている魔物──リザードウルフだった。


 誰が付けたのか適当なネーミングだが、その強さはバカに出来ない。

 狼以上の機動性を持ちながら、岩をも砕く大きな顎を持っていると本で読んだ事がある。

 あまり平地には出てこないらしいが、夜になるとその行動範囲を広げるのだろう。

 

 既に三人の男性が大怪我をして動けないようだ。

 残された一人の女性に向かってリザードウルフは襲いかかろうとしていた。

 私は直ぐに自分に速度上昇の魔法──〝ヘルメス・ベネディクション〟をかける。

 自分の体が軽くなるのを感じるが、ダメだ。間に合う気がしない。


 もう、仕方ないわね……。


「バルト! いるんでしょ? あの人を助けなさい!」


 私の声に反応するように、少し離れた所から「ザッ」と地面を蹴るような音が聞こえた。

 次の瞬間、魔物の上空で何かが光る。それは胸の奴隷紋章を光らせるバルトの姿だった。


 バルトは稲妻の如き速度で落下して、その魔物──リザードウルフを真っ二つに斬ると。

 それから直ぐに闇に紛れてしまった。

 

「もうバレてんのよ。本当に心配症なんだから……」


 私は途中から気付いていた。

 誰かに見られている気がしたのは、バルトがずっと私の後を着けていたからだと。


 毎回私が帰った少し後に隣の部屋のドアが閉まる音がして、朝は私が出掛ける少し前に部屋を出ているようだったので何となく察してしまった。

 思えば子供の頃のバルトは、いつもこうして私の後を追いかけていた。



 そんな事よりも、今は目の前の事だ。

 見れば全員が疲労困憊といった感じで、怪我もかなり酷いようだ。

 とりあえず彼らを治療しよう。


「セイクリッド・シャイン……」


 怪我した者に治癒魔法を施した後で、先ほど助けた女性が私の手をギュッと握って言う。


「すごい! クレリックなんですね! じゃあさっきのあの魔法は〝ディバイン・ジャッジメント〟ですか。初めて見ました。危ない所を本当にありがとうございました、あの私、シュリンプっていいます!」


 キラキラした瞳で私を見つめている。

 どうやら何か勘違いしているようだけど、まあいっか。

 バルトの事を説明するのも面倒だし、こんなに感謝される事もあまりないし。

 黙って私が助けた事にしておこう。


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