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スレイブ・ブースト


 ◇◇◇◇◇


 私とバルトは次の依頼を受ける為、馬車に乗って王都へと戻っていた。

 それは乗り合い馬車などではなく、私専用の馬車である。


 あの後、私達は屋敷に戻ってオーク二体が既に他の冒険者により倒されていた事を父に報告し。

 代わりとして〝別の魔物の首〟を持って帰った。

 父はそのデモンボアという魔物を知っていた。結構有名な魔物だったらしい。


 だが、その魔物はバルトが倒したのだから本来ならば私の手柄にはならないはずだ。

 そこで私が父に主張したのは〝スレイブ・ブースト(奴隷補助)〟という能力だった。


 スレイブ・ブーストは、奴隷が主人を守る為に普段以上の能力を発揮する現象の事だ。

 それについては私も聞いた事があったが、バルトが森で私に言った。


 自分がデモンボアを倒せたのはスレイブ・ブーストによる恩恵だと。


 あの能力でそんな極端に強くなれるのか? という疑問を当然父はバルトに問いかけたのだが、彼は答えた。


「クレアは優れたクレリックです。主人の能力に奴隷の力が左右されるのは有名な話ですから、僕もそれだけ強いスレイブ・ブーストを受けたのだと思います」


 ようするにバルトが魔物を倒せたのは私のお陰らしい。

 結局、バルトのその言葉で父は〝一応〟私の功績でもあると認めてくれた。

 概ねはバルトの功績のような言い方だったが、こうして冒険者を認めてくれたので今となってはどうでも良い。


 だが最初は正直かなり凹んでいた。

 何故なら魔物を倒したのがバルトだと、聞かなくても理解出来る状況だったからだ。

 リュークは気絶していたし私は宙吊りにされていたので、動けたのは彼一人だけだった。


 昔のバルトは少し大きな虫ですら驚くような男の子で、そんな彼を見て私はいつも笑っていた。

 それが今となっては、私に倒せない魔物を倒してしまうなんて認めたくなかった。


 その事もあり私はバルトに〝魔物を倒したか〟とは直接聞かなかった。

 聞けばショックを受けるので、私が聞いたのは、彼が持っていたショートソードの事だけだ。

 あの武器は自分の攻撃対象に合わせて長さが変わるという魔法の剣『ユニバーサル・ブレイド』と呼ばれるレアな剣らしい。


 つまり彼はそれを手にする程に様々な冒険を経験しているのだ。

 だから、やはり彼は強いのかもしれない……なんて落ち込んでいた私に彼はスレイブ・ブーストの事を教えてくれた。


 ハッキリ言ってあの言葉は心の救いだった。

 だってバルトの方が圧倒的に強いなら、私が彼に協力する意味が無くなってしまうのだから。


 これでも私は自分の力に自信を持っている。

 戦う為に身に付けた私の武術はバルトもリュークも凄いと言ってくれた。

 教えてくれた武術の師匠だって、こんなに覚えの良い者は珍しいと評価してくれた。


 ただ、あの魔物──デモンボアには通用しなかったのは事実だ。

 女では限界があるのだろうか?

 一年前リンケージの魔女に会った時は、女性でもあんなに強くなれるのだと心が踊ったものだが。

 今となってはネガティブな考えすら浮かぶ。


 だが、せっかく冒険者を続ける事を正式に認められたのだから今は考えないようにしよう。


 せっかく家の馬車を使わせてもらえる事になり、多少なりともお金の援助もしてもらえるのだ。

 バルトがいれば討伐依頼もこなせるし、私の階級も直ぐに上げていける。


「よし、バルト。王都に付いたらまた『C』ランクの討伐依頼を受けるわよ!」




 こうして逸る気持ちで王都に着いた私達は、さっそく冒険者ギルドに行き討伐依頼を探した。

 しかしそういう時に限って『E』ランクの討伐依頼が残っており。

 逆にそれ以上の階級の依頼は一切無かった。



「まったくどうなってんのよ。あんなにあった『C』や『D』の討伐依頼が無いじゃない!」

「すいません。少し前に全部売れてしまいまして……」

「どういう事? 誰かが纏めて受けたの?」

「それはちょっと、私からは……」

 

 受付嬢は教えてくれない。

 ギルドには守秘義務があるので当然だが、私には犯人が大体わかっている。

 ザック達に違いないのだ。


 何故ならこの街で『C』の討伐依頼を受けられる冒険者は限られているのだから。


 彼らくらいの階級の冒険者は大体一つの街に長居しないが、彼らは地元の英雄気取りでいつまでもこのギルドに固執していた。


 そういえば……と、ザックの事で思い出した事がある。


「ところで私達が受けた依頼以外にも、オーク討伐なんて依頼はあったかしら?」

「いいえ。オーク自体が珍しいですから、オークの討伐依頼は先日クレア様達が受けられたものだけです」


 では彼らのやっていたのは個人の依頼だったのか? 何か腑に落ちない。

 結局、彼らのせいで私は依頼を達成出来ない事になる。

 

「ところで私達の依頼はどうなるの?」

「依頼主様がお認めにならないと依頼達成とはなりませんね。残念ですが、達成の報告はギルドに来ておりませんので……」


 まったく納得がいかない。

 父はオークの件を信じてはくれたが〝首が無い以上は依頼達成には出来ない〟と言っていた。

 仕方ないのだが、こうなると益々ザック達に横取りされた気分だ。

 本来なら、これで私の階級が一つくらい上がっていてもおかしくなかったはずだ。



 仕方なく私は『E』の討伐依頼を受けた。

 今回はザック達が現れる事もなく、すんなりと依頼を受ける事が出来た。

 というのも今回の依頼は少し特殊だからだ。


 討伐対象は最近街道沿いに現れるようになったスライムで、十匹倒せば依頼達成。

 三十匹倒せば三つの依頼をこなした事になる。


 こういった、特定の魔物を一定数狩る依頼がギルドから稀に出るらしい。

 増えすぎた魔物を減らす目的らしく、依頼主は王国騎士団からの要請が殆どだという。

 対象の魔物がいる限り、もしくは騎士団がギルドへの応援要請を引き下げない限り依頼数に限りはない。


 つまり誰かに横取りされる事がない。 

 だが今の私が同階級の討伐依頼を受けるにあたり、一つ問題がある事を私はこの時まで知らなかった。



 ▽



「どういう事よ! 三十も倒して、依頼三つ分こなしたのに報酬金だけで評価はゼロって!」

「すみませんが、お仲間との階級に差がありまして。そういった場合は上の階級が基準になるんです……」

  

 つまり受付嬢が言うのは、バルトくらいの冒険者が最低階級のスライムを倒した所で評価にならないという事だ。

 そして仲間である私にもそれが適用されるので、評価が欲しければ私一人でやる必要があった。


 私にとって重要なのは報酬金ではなく評価だ。

 ここにきてバルトを仲間にした事が仇になるとは思わなかった。

 

「わかったわ。スライム狩りはまだあるし私が一人でやるから。あんたとは一旦解散よ」

「クレア、大丈夫?」

「はぁ!? 私がスライムごときにやられるとでも思ってるわけ?」

「いや。そうは思ってないけど……」


 心配そうな彼とは一旦離れる事にして、翌日の朝から私は再度スライム狩りをやり直す事にした。


 絶対に評価を受けて階級を上げてやるのだ。

 いつまでもバルトに頼りたくはないのだから!


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