08 学園生活始まる
15歳になり、王立専門学院に俺と宰相の息子のフレディー・ハイネルとルシアが入学した。トマスは上級生で俺の侍従兼補佐をしながらの学院生活だ。
カンデ・メサは学院を卒業したので俺の専属護衛騎士として、またノアン・ステファンは専属執事として学院に着いてきてくれた。
そして、最大のキーパーソンが入学してくる。ヒロインだ。
ヒロインの名前はわからない。
なぜなら、ゲームでは各個人が名前を付けるからである。
しかし、その容姿はみれば分かるはずだ。
俺は登校してくる女生徒を一人一人確認していた。
いた!!
ピンクゴールドの髪に瞳は紫。潤んだ瞳に、遠目でも光っているのが分かる艶やかな唇。
確かに可愛い・・
男子生徒が振り返って、ヒロインに見惚れている。
流石ヒロインだ。
が、しかし、可愛さでルシアに敵う者はいない。
俺はヒロインの心を読む。
転生者でなければいいのにな。
否、絶対転生者であってはならない。
ーー{ヒロイン} ゲームで知った顔がいっぱいだわー!!校舎もまんまじゃん。
・・・転生者か・・・
せめてガツガツしてなかったらいいな・・
ーー{ヒロイン} イケメンいっぱい。私の美しさにかかればよりどり見どりよ。
・・・
めっちゃガツガツしてる。
ルシアと友達になってくれたら安心できるんだけどな。
ーー{ヒロイン} ルシアをさっさと陥れて王子様をゲットしよっと。
ルシアが危ない。ヒロインの性格が悪すぎる。ゲームのヒロイン像の清純感や優しさは皆無だった。
気を取り直して俺はヒロインの能力を見る。
スキルはテイム。
レベルも魔力もけた違いに・・・
弱い。
レベル0.8。魔力1。
そんなんじゃ、犬どころかネズミもテイム出来ないだろう。
他に能力は見当たらない。
ただ、自信満々のあいつが恐ろしい。
不気味だ。ヒロインを監視しよう。
探察用式神を何体もヒロインに付けて監視する。
俺はヴォルダ侯爵にすぐに連絡を取った。
ルシアでなく侯爵本人に至急と連絡をしたので、一時間後に学院まで来てくれた。
「珍しいですな。殿下が私に至急会いたいと熱烈に連絡をくれるなんて、何事ですか?」
ヴォルダ侯爵は冗談を言いつつも、俺の顔が真剣なので目は鋭い。
「今日一人の女生徒を確認したのですが、ルシアに危害を加える恐れがあります。ルシアに私の結界を張り巡らしたいのです。侯爵の許可をお願いします」
「娘の危機ならば、是非お願いしたい。私の方でも護衛を付けます。して、その女生徒の名前を教えて頂けますか?」
「アデラ・ナバロウ。髪はピンクゴールド。瞳は紫。侯爵から、ルシアにこの女に近付かないように言っておいて欲しい。頼む」
ヴォルダ侯爵の許可が下りた事に安堵した。
「ところでなぜその女生徒が危険だとお分かりになったのですか?」
この質問をしてくるだろうと予想していたのに、焦っていてそれらしい回答を用意していなかった。
「ヴォルダ侯爵、その事は回答できない。だから、私自身が直接ルシアに危険を教えられない。しかし、これだけは信じて欲しい。私はいつでもルシアと、侯爵家も守りたいと思っている」
実に苦しい回答だ。ルシアに心が読める事を隠したい一心だった。
いつものヴォルダ侯爵ならば、鼻で笑いそうなのだが、今日は違った。
「分かっております。殿下のルシアへの深い愛情は、深く感謝しております。なので、殿下が訳を言えないのなら、それを含めて信頼します」
ありがたかった。詳しく言えない私を信頼してくれる。それは親子でもあり得ない事だ。
俺は深く頭を下げた。
それから、アデラ・ナバロウを調べると、不可思議な事が分かった。
アデラは庶民だ。しかし、全くの無関係だった、ナバロウ伯爵が一年前に自分の子供だと言い張って、アデラを自身の籍に入れたのだ。
伯爵家には子供がいなかったから、親戚と揉めたが伯爵が人が変わったようにこの話を決めてしまったらしい。
アデラの休日は、林へ一人で入って行ったり何かを探しているようだったが、何を探しているかは分からなかった。
そのうちアデラの回りの男子の3人がアデラに心酔しているようになった。
いつでもその3人をアデラは引き連れて歩いていた。
ある日俺は自分の回りに結界を張って、学園の噴水近くのベンチで本を読んでいた。
すると案の上、アデラが近付いてきた。
ーー{アデラ} いた! ゲーム通り王子に会えたわあ。『ラスキン』をやりまくった私に怖いものなんてないわ。この王子もイチコロよ。それに緑の指輪をはめてるわ。あれをゲットして、最後の愛も頂きね。
「こんにちは、アルテシーク王子様ぁ。こんなところで本を読んでいらっしゃるのですかぁ?」
「ああ、こんにちは。えっと君は?」
「わたしはアデラ・ナバロウと言います。よろしくね。あっその本知っていますぅ。トルファー王国の歴史と法律の本ですよね。私も何度も読みましたぁ。特に女性の法律の改正の歴史が良かったですぅ」
ーー{アデラ} 全然読んだ事ないけど。台詞通りに行くと王子がビックリするんだよねえ。
「よく知っているね。女性の解放運動が起こった年に王女が法律を改正したんだ。歴史に詳しいんだね」
もちろん俺も台詞通りに話して行動する。
順調にストーリーが進んでいたが、ここでストップする。
「アデラ・・お・う・・・じ 危ない!!」
取り巻きの生徒が、なぜか俺とアデラの間に割って入る。
その男子生徒の目を見た俺はあまりの不気味さに、ここは一旦引き下がる。
「どうしたんだ? その男子生徒は気分が悪そうだよ。保健室に連れて行こうか?」
「いえ、いえいえいえ、私が連れて行きます」
アデラは急いでその男子生徒の腕を引っ張って離れて行く。
ーー{アデラ} せっかくストーリー通りの展開で王子といいところだったのに、こいつのバグのせいで王子の緑の指輪をとり損ねたわ。まぁ、いいわ。王子も私に気があるみたいだったし。でも、攻略対象はあれを使わなくても、私にメロメロなるのが分かったから、こいつらみたいに、しなくていいわね。
俺はアデラと取り巻きを見送った。
ぞっとする。あの男子生徒は何らかの作用であんな風になっているのか。とすると他の攻略対象のクレマンや、フレディー達にメロメロな演技をさせないと、あの男子生徒みたいにさせられる可能性があるんだな。
俺は大至急王宮の執務室にクレマン、フレディー、トマス、カンデを呼んだ。
その他に宰相のガルシアと専属執事のノアンも呼んだ。イケメンだとゲームに関係なく狙われるかも知れないと思い呼んだのだ。
カジョ騎士団長は・・呼ばなくてもいいか。
「今回アデラ・ナバロウという女生徒が入学してきたが、彼女は君たちを狙っている。といっても命ではない。恋に落とそうと色々画策してくるだろう。そして、もうひとつ狙っているのがある」
そう『ラスキン』の至宝の鍵をゲットする為にアデルは宝を狙っているのだ。
クレマンからは、兄(俺)からもらった赤色宝石のブローチ。
フレディーからは、溺愛する妹からもらった黄色の宝石のついたハンカチ。
トマスからは、亡き母の形見の紫のネックレス。
カンデからは、父から譲り受けた家宝の青色の宝石の付いた短剣。
俺、アルテシークからは緑の指輪だ。
この5つの宝石を集めて『無垢の泉』に投げ入れると『至宝の鍵』が浮かぶ。それと同時に扉が現れて『最後の愛』が手に入るんだ。
アデラは俺達を攻略した上で、宝も手に入れようとしている。
これらの事を説明し、彼らにアデラと遭遇したら、恋に落ちたフリをして欲しいと頼んだ。
そして、彼らの宝に似せた偽物の宝をそれぞれに手渡した。
「へー良くできていますね。これだけそっくりなら、バレないですよ」
カンデが家宝の短剣そっくりな代物を見て驚いている。
「接触したらさっさと宝を渡せ。まだ不審な点が多く危険なんだ」
「ハイハイ、殿下がこれだけ仰るんです。気をつけない訳がないでしょう」
トマスがにっこりと微笑む。相変わらずの心酔ぶりだ。
「でも、そもそも何故アデラがこれらの宝を狙っているとわかったんですか?」
カンデが渡された短剣を見つつ、疑わしそうに眉を寄せる。
そう、ここだ。
ゲームだの心が読めるだの言うつもりはない。
「先日俺の探察用式神によってもたらされた映像で分かった。たまたま映ったアデラが、一人で延々とこれからしようとする事を語っていたのだ」
「ああ、そう言えば殿下が、不審人物が入学していないか式神を飛ばしていましたね。それで見つけられたなんて流石です」
俺への不信感ゼロのトマスの言葉は、ナイスなアシストだった。
「それから気を付けて欲しいのが、アデラの周りにいる取り巻きの男子生徒達だ。様子がおかしい。何か分かったら絶対に深追いせずに私に報告してくれ」
皆に念を押した後解散した。
俺が見た男子生徒は、自分の意思で動いていないようだった。
まるで操り人形の様に動かされていた。
しかし、俺とアデラの間に入った時は何か違いが有ったのではとあの時の様子を思い返した。
少し調査を進めてから確かめよう。
ゾンビの様な目をした男子学生を思い出し、身震いした。




