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05 家出してもいいんだな?


路地裏で助けた男の子が、意識を取り戻したと連絡を受けて、俺は急ぎ会いに行った。


部屋に入ると、男の子は慌ててベッドから起き上がろうとする。


「いいよ、そのままで。所で体でどこか痛むところはある?」


「ないです。アルテシーク殿下、俺を助けて下さりありがとうございました」


あれ? これだけ丁寧にはっきりと話せるのは貴族か?

しかも、この顔つきは俺よりも少し年上だな。

彼はグレーの髪の色に、金色の瞳。鋭い目付きはこれまでの生活の厳しさを反映しているようだった。


「君の事を知りたい。名前は?」


「俺はトマスです」


「トマス、姓は?」


「・・・ありません」


ーー{トマス} 母を殺した親父のロコンの姓なんか絶対に名乗らない。


俺はトマスの心の声に驚きつつも態度は平然を装った。

ほう、ロコンとはロコン伯爵か?そう言えば以前に、メイドに手を出す節操のない男と聞いた。その奥方もまた嫉妬と欲の塊らしい。男の浮気に奥方が大暴れするほどの恐妻家と語り継がれているが、その当時の事を知っている者に聞けば何か分かるだろう。


「もし、姓を名乗りたくなければ今は無理に聞くつもりはない。ここで暫く養生して、元気になったら君の身の振り方を改めて考えよう。まずは沢山食べて動けるようになる事が第一だ」


「はい、早く体を治して殿下の恩に報いられるようにします」


彼の表情から、ここに長くいるつもりはない事を察した。しかも何か企んでいるようだ。

心を読めない時は、ちょっとした仕草や表情で読み取れる。


彼の心はどす黒い液体が満タンにつまった状態で、今にも破裂しそうだ。


俺は部屋を出ると、自室に戻った。


ここで、ゲームの『トマス・ロコン』の説明が頭に流れた。


トマス・ロコンの字幕説明がよぎる。

彼はメイドの母とロコン伯爵の間にできた子。ロコン伯爵は恐妻家の妻に言われてトマスと彼の母親を捨てる。その後病気の母を看病しながら生活するが、母が病死すると生きる気力を失うように行倒れ寸前で助けられる。その後アルテシークの侍従になる。


そうだ、思い出した。彼は俺よりも二歳年上だ。

ヒロインはトマスの母がよく歌っていた歌を口ずさみながら、トマスの額の傷を優しく撫でる。それに驚いたトマスが心を開いていくんだった。


しかし、今のトマスの額には傷がない。姉がゲームをしていた時には額に大きな傷があった筈なんだ。テロップでその理由がさらっと流れたんだが思い出せねぇー。


思い出すまで、トマスに探察用式神をつける。この世界に式神はない。以前見た陰陽師の映画から思い付いたのだが、案外ばれない。

しかもこの式神から送られて来た映像を直接見る事ができる。さらに、この式神は録画機能まで付いている。万能だ。


自室にて、陛下から回ってきた仕事をこなしていく。

仕事が多すぎる。最近陛下の仕事嫌いの皺寄せが全て俺にのし掛かって来ている。


俺の力を持ってしても終わらない。


コンコン。ノックと同時に扉が開く。

「お兄様、アンナが来たから一緒に遊びましょうー」


俺の弟、クレマン・トルファー、8歳。ダークブラウンの髪と俺と同じシーグリーンの瞳を輝かせて俺に駆け寄る。


ゲームではヒロインを守る為なら勇気を出すが基本的には甘えん坊だ。

クレマンは異母兄弟だ。しかし、クレマンの母はなくなっている為に甘えられる人物は俺しかいない。眠れない夜には枕を持って俺の部屋に来るクレマン。弟はとても素直で可愛い。


クレマンに手を引っ張られてきた、アンナはクレマンよりも1つ年上の9歳だ。


美しいプラチナブロンドのアンナ・バレトレミは隣国のバレトレミ国の王女で、クレマンと婚約中だ。世話好きの彼女はいつも優しくクレマンを見守ってくれている。

兄の俺からすれば、とてもありがたい人物だ。


「お兄様は仕事をしすぎだよ。だから、散歩に行こうって誘いに来たんだよ」


ーー{クレマン} 最近のお兄様は仕事のしすぎで顔色が悪い。お母様みたいに病気になる前に休ませてあげないと倒れちゃう。


クレマンも天使か?


「・・・そうだな、少し庭を散策しよう。アンナに日傘か帽子を用意させよう」


「アルテシーク殿下、ありがとうございます」

ーー{アンナ} クレマン殿下があんなに喜ばれて、お誘いしてよかった。


うんうん、この弟と婚約者は、ほのぼのしてて俺の癒しだな。この癒しを守るためにも、攻略対象の弟からヒロインを排除しないといけない。


庭園の木々が庭師によって綺麗に刈られていく。

ゆっくりと歩いていたが、アンナの靴が今日はヒールの高い靴だったので、四阿(あずまや)に誘ってそこで休憩する。


いつもは弟に合わせて低い靴をはいているのに、珍しいな。


「アンナの足の痛みが取れるまで、ここで休憩しよう」


「すみません。今流行りで足首を美しく見せる為にこのような細いヒールが流行っているのです。クレマン様に見せようと我慢して履いていたのですが、痛くて我慢出来ませんでした」


アンナが、細いピンヒールを見せながら、靴擦れした所を擦っている。


「痛そうだね。治してあげよう」


あれっ?ピンヒールは、こっちではなかったと思うんだが・・

と思いながら、足には触れずに治療する。

アンナが履いている靴が気になる。この世界になかった物が出現したという事は、転生者がいる可能性がある。それがもし、ヒロインに繋がる人物なら要注意人物だ。

治療しながら靴の出所を聞いてみる。

「ねぇ、アンナ。その靴はどこで買ったのかな?」


「アルテシーク殿下も靴に興味があるのですか?」

不思議そうにアンナが俺を見る。


「ああ、そんなに流行しているなら、ルシアにプレゼントしたいなと思ったんだ」


「うふふ、そう言う事ですか。この靴は町の靴屋さんでどこでも売っていますよ。殿下がルシア様にメロメロと言う噂は本当でしたのね。是非、プレゼントなさって下さい」


「どこでも売っているのか・・」

はじめの出所を探すには、手間がかかりそうだ。


「ありがとうございます。もう全然痛くありません」


アンナが頭を下げる。とクレマンも一緒に頭を下げる。


「お兄様はなんでも出来て凄いです。僕は出来ない事が多くて家庭教師を怒らせてばかりです」


「うん? 家庭教師はお前を酷く叱り付けているのか?」


クレマンは慌てて否定する。

「少し大袈裟に言いました。ホンの少し怒るくらいです」


ーー{クレマン} 出来が悪いと言われているのに、お兄様に告げ口したと思われたらもっと失望されてしまうよ。


ほうほう、俺の弟に『出来が悪い』と言う家庭教師がいるのか?

また、探察用式神の出番だな。


「そうか・・だが私が家庭教師の質が悪いと感じたら、すぐに変えさせよう。クレマンは私の自慢の弟だ。俺も小さい頃は出来ない事が沢山あったよ。だから、焦らなくていい」


ーー{クレマン} ほわほわん


ん? クレマンの心がピンクのふわふわで覆われている。気持ちが分からないが、荒んでいる様子でないなら安心だろう。



クレマン達との散策から帰って、すぐに透明の薄い膜で人型の式神を作った。それから、それをクレマンにの近くに飛ばした。


トマスに付けている式神を見ると異変はない。

まだトマスは体調が悪いから暫くは動けないだろう。


執務室に入ると散歩にいく前の書類より倍くらい、書類が増えている。

たったあれだけ休んだだけなのに・・・?

愕然とする。


11歳に任す陛下も陛下だが、その回りの大人もどうかしているんじゃないか?

腹が立つが、俺がやった方が速い。チート機能を使えば状況に応じたグラフや表が出てくる。それを見て小麦の適正価格等を割り出すのだ。治水事業も地学の観点からどのルートで工事を進めるべきかを指導できるのだ。


地図を見て、治水工事のルートを決めていると覗き込んだ専属執事のノアン・ステファンとガルシア・ハイネル宰相がブツブツと言い合っている。


専属執事であるノアン・ステファンは俺よりの10歳年上の21歳

だ。ガルシア・ハイネル宰相は30歳。


「本当に11歳ですか? ハイネル宰相もこの国の地学で岩盤とかどの地層にあるとかご存知なのですか」

ノアンが俺の頭の上で首を捻っている。


「そんなの、図書館に行って調べないと分かる訳ないですよ。アルテシーク殿下はこの容姿に騙されていますがきっと211歳なのですよ」



「・・・うるさい。そこの二人、仕事をしてくれ。それから、俺を化け物みたいに言うな」


いい大人二人が仕事の邪魔をするので、ついイライラして素の自分がでてしまった。


「殿下がいれば、この国は安泰ですな、ははは」


おいおい。お前達、いい気なもんだな。

そのうち俺は家出するぞ。




この時、ピンヒールの事をすっかり忘れてしまった。


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