02 ルシアの誕生日
今日はヴォルダ侯爵家に来ている。ルシアの誕生日のお祝いパーティに来た。
ヴォルダ侯爵には、早く到着した為、嫌みを言われたがスルーした。
ルシアにとても大事な用があるのだ。わざわざパーティが始まる前に来た理由は、プレゼントを前もって渡すためだ。
可愛いルシアを他に取られないように、用意したプレゼントは俺の瞳と同じシーグリーン色の宝石、ペリドットを使ったネックレスとイヤリングだ。
「ルシア、誕生日おめでとう。今日も一段と綺麗だよ」
お祝いを言いながらプレゼントを渡す。
彼女のドレスは、サフランカラーのドレスだ。いつもはグレー系の地味な色が多いのに、今日は明るい色で彼女の黒い瞳に合っている。
俺の瞳と同系色のアクセサリーのプレゼントを見たヴォルダ侯爵は、なんとも言えない顔をしたが、ルシアの母サーシャは、ルシア以上に喜んですぐに娘に着けていた。
きっと俺が緑系の装飾品をプレゼントを見込んで、ドレスの色を決めたのは母のサーシャのようだ。
彼女がネックレスとイヤリングを着けると本当に似合った。
「「・・・可愛い」」
くそ、俺の台詞にかぶってルシアの親父も同じ事を言った。
「君はなかなかセンスがいいな。私のルシアに似合うアクセサリーだ」
ーー{ヴォルダ侯爵} この年で自分の瞳のイヤリングだって?なんてませているんだ。だが、私のルシアの可愛さに気が付いた事は褒めよう。
俺がルシアにドレスをプレゼントしようとしたが断られた・・。
くっ、この親父のせいか。
「私のルシアには、シーグリーンのアクセサリーが似合うと思って用意したんだよ」
俺とヴォルデ侯爵の目から火花が散っていた。
俺と侯爵が牽制し合っている間、ルシアの母サーシャがルシアを連れて少し離れる。
「ルシアがこんなに王太子殿下に愛されて、私は嬉しいわ。ルシア、怖がらないで王太子殿下に少しくらい甘えてみてはどうかしら?」
「でも、あんなに素敵な王子様。きっと今日もパーティーが始まれば、沢山の女の子に囲まれてしまうわ。そうなったら、回りから見ているだけで私は近付く事も出来ないわ」
また、自信なさげに俯いてしまった。
どうしたらルシアは俺の隣で自然に微笑んでくれるようになるんだろう?
ルシアの誕生日に一番に輝いて欲しい。
そう考えているうちにパーティーが始まった。
今日はずっとルシアの傍にいようと心に決めていた。
でも、俺が登場するとあっという間に人が寄ってきて人垣が出来た。
ルシアは離れたところにいる。
迎えに行こう。
だが、人が多すぎて進まない。
ーー{赤いドレスの令嬢} あの娘がルシアなの?全然私の敵じゃないわ。私は同じ侯爵家でも王家に近いのよ。アルテシーク様もきっと私の方がいい筈よ。
ーー{伯爵令息} 今お近づきになっていたら学園生活で、幅を利かせられる。ここは取り入っておこう。
あーうんざりだな。
胸焼けしそうだ。
ーー{ルシア} どうしたのかしら?アル様がお辛そうだわ。お水を持っていった方がいいかしら?
俺の心の中に清流が流れ込んできた。
よしっ。
回りに笑顔を向けながら、そこから抜け出す。
「今日は私の愛しい婚約者の誕生日なんだ。そんな嬉しい日に私が一番に彼女の傍にいたい。なので失礼するよ」
驚く皆をおいて、さっとルシアの傍に行く。
「殿下? どうしたのですか?」
ーー{ルシア} 急にこちらに来られてどうしたのかしら? 皆さんがこちらを見つめているのが怖いです。
「どうしたって? ルシアが私の傍に来てくれないから、こちらから来たんだよ」
微笑みかけたルシアの顔が急に強張る。その理由はすぐ俺の後ろから聞こえた声だった。
「もうアルテシーク様ってば、私をおいて行くなんてひどぉい~」
俺を追い掛けてきた声の主は、赤いドレスの令嬢だった。
くそっ。たった今微笑み掛けたルシアの顔が曇ってしまったじゃないか。
「先程も言ったが、私は婚約者のルシアの誕生日をお祝い出来ることを楽しみにしていたんだ。だから・・」
「え~私も一緒にルシア様のお祝いをしたいですわ」
言うなり、彼女は俺の腕にしなだれかかった。
この女。ここまでだな。
俺は誰にもわからないように令嬢に『威圧』を掛けた
すると、令嬢は立ち止まってストンと崩れ落ちる。
怪我をさせるといけないので、、すっと支え、ヴォルダ家の使用人に彼女のエスコート役の親族に引き渡すように伝えた。
「どうやら、彼女は気分を悪くしたらしい。控え室まで運んでやってくれ」
ーー{ルシア} 大丈夫でしょうか?私が付いていって差し上げた方がいいのかしら?
優しすぎる。ルシアの優しさに目眩を起こしそうだ。俺はルシアの興味を引く為に話題を変える。
「ルシア。私からの誕生日のプレゼントを気に入ってもらえた?」
「もももちろんです。一生大事にします」
ルシアがブンブンと頷く。
「じゃぁ、私にそのお返しとして、そろそろ名前で呼んでくれないかな?」
ーー{ルシア}・・・今日こそ日々の練習の成果を出す時がきたわ。うう、殿下の顔が近い。殿下じゃなくて、アル様、アル様、アル様
「・・・ァ・ル様」
「うん? 始めの方が聞こえなかったんだけど?」
「アアアアル様」
「ありがとう。これからはそう呼んでね。アルでもいいからね」
ーー{ルシア}『アル』なんて無理です。そんなに優しく微笑まないで下さい。もう心臓が持ちそうにないです。
胸を押さえて深呼吸しているルシアに、俺の方がキュン死しそうだ。
そうだ、今キュン死している場合じゃなかった。
三日後の事で根回しをしておかないといけなかった。
俺はルシアを連れてルシアの両親の元に行き、三日後の予定を聞き出さないといけない。
「二人は乗馬はするのだろう?」
サーシャが夫に微笑みながら答えてくれた。
「ええ。私は昔からお転婆で乗馬もしてたの。でもこの人はその姿を気に入ってくれたのですよ」
「そうだったね。颯爽と走る君が美しくて、是非に妻になってくださいとプロポーズしたんですよ」
ーー{ヴォルダ侯爵} 今もその豊かな胸といい肌の艶といい、色気が・・今すぐここで・・
「あああの、また乗馬に行く予定はあるのか?」
ヴォルダ侯爵の淫らな妄想が始まる前に俺は話を続けた。
「三日後に二人で、友人の別荘近くの湖まで行こうと予定をしています。それが?」
「ぜひ、私も同行させて欲しい。これから、二人は私の義父と義母になる方々だ。早く親交を深めたいと思っている」
この言葉にサーシャ夫人は心から喜んでくれた。
だが、ヴォルダ侯爵の胸のうちは、男ならわからなくはない葛藤が生まれていた。非日常での夫婦の営みを考えていたのに、お邪魔虫が来たのだから気持ちは分かるが、その残念な顔を向けるのはやめて頂きたい。
これで、近くにいればルシアの母を救う事も可能だ。
このパーティーが終わるとすぐに、その友人の別荘と湖回りを『探索』を使って罠がないか調べた。しかし、なかった。
ゲームが始まる以前の事は、本当にわからない。
何が起きてもいいように、警戒レベルを最大限に上げて挑もう。
俺の魔力は、底知らずだ。