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14  デリカシーのない男子って嫌われるよ


リタの体内のハードンカプリを体外に出す方法を、クレメンテが思い付いた。


藁をも縋る気持ちで、現在それを試している。


・・・しかしその方法は、なかなかにグロテスクだ。リタの意識がないのがせめてもの救いだ。


脳に近い場所。つまり、鼻の穴近くに雄と雌のハードンカプリを置く。二匹は絶対に接触させない。するとお互いに異性を引き付ける分泌物質を出す。それを鼻から流すと言うのだ。


リタの鼻の穴近くに置かれたハードンカプリは赤、黒、黄色の三色ストライプで芋虫状のアメーバーに似ている。とにかく気持ちが悪い。


うにうにと動いている。

見ているとずっと寒気が止まらない。鳥肌が全身に立ってぞわぞわする。


お願いだ。リタが目覚める前に早く出てきてくれ。


リタはぐったりとしたままだが、眉だけがグッと中央によった。

鼻の穴から赤・黒・黄色の芋虫状の物が出てきた。


「おお! やったぞ。ハードンカプリが出てきた」

クレメンテはすぐにそれをピンセットで摘まむ。そして瓶の中に入れた。


我が子のように愛おしそうにハードンカプリを眺める様は、研究者の正しい姿なのだが、引いてしまう。


暫く待っていたが、もう出てこないところを見るとリタの体内に入っていたのは一匹だけのようだ。


「うーん」

リタが唸り、目がゆっくりと開かれていく。

「大丈夫か?」

カンデがリタの頬を両手で包み込み、その瞳を覗き込んだ。


「な・な何よ。カンデったら顔が近いよ」

いつものリタだ。

カンデは抱き締めたまま、何度もリタに謝る。


「ごめんよ、リタ。ごめん。俺は二度と酒を飲まないよ。誓う。だから俺を置いてどこにも行かないでくれ」


リタは何故そんなにカンデが謝っているのか、分かっていなかった。


「よかった。リタが甘ったるい声で俺にしなだれかかってきた時はどうしようと思ったよ」


カンデが不要な発言をしてしまう。

「私がそんな事をするわけがないでしょう?」

リタが怒って頬に置かれたカンデの手をはねのける。


「いやいや、君が悪い訳ではない。君は体内に入っていたこれに操られていただけじゃ」

クレメンテがリタに瓶に入ったハードンカプリを見せてしまった。


「・・・これが? ・・・私の中に?・・・」

リタが白目を剥いて気を失った。


なんてデリカシーのない奴らだ。

カンデはなぜリタが気を失ったのか分からず、『どうしたんだ? リター』と叫んでいる。

カンデとクレメンテには本当に呆れた。




リタの事件後すぐに、アデラに操られその後倒れて学校に来ていない男子生徒の治療をクレメンテに頼んだ。

クレメンテは次々と治療を施し、生徒達は元気になった。


ハードンカプリのせいで学院にも来れなくなったのに、アデラは彼らの事を気遣う様子もなく放置していた。


このまま彼らが亡くなったとしても、アデラは何も思わなかっただろう。

しかし、急に元気に現れたなら、再び彼らを利用しようと近付く可能性は大いにある。

従ってアデラの一件が片付くまで、彼らは出席停止とした。

さらに、学院内に原因不明の病気が広がっているとして、学院自体も臨時休校となった。


しかし、アデラは焦っている様子はなかった。

それどころか、聞き捨てならない事を言い出した。

「学院が休校になっても、アルには会えるし、今度は陛下からの命令でアルと結婚って事になるから準備で忙しかったのよねぇ」


アデラは血の繋がりもないナバロウ伯爵の屋敷の一番いい部屋で寛いでいた。




「・・・はあ? 陛下が何でアデラと結婚しろと言うんだよ」

執務室でその映像を見ていた俺はつい、素の自分で怒鳴ってしまった。


「殿下、落ち着いて下さい。アデラがあのように言うからには、陛下にハードンカプリを飲ます準備をしているのではないでしょうか?」

専属執事のノアンが俺のスケジュールを書いた紙を見せる。


そこには社会的貢献表彰と書かれた日がある。

高納税者又は高額寄付者を表彰する式典があるのだ。

つまり、この表彰式に呼ばれるにはかなりの納税額又は寄付金が必要になる。

アデラがどうこう出来る金額ではない。

ナバロウ伯爵の力を借りたとしても表彰される金額にはならないだろう。


「アデラがどうやったら、この式典に参加できるんだ?」

俺はふんとその紙を返そうとノアンに戻す。


しかし、ノアンは首を振って式典芳名録を指差す。

そこにはアデラ・ナバロウの名前があった。


どうして?


俺の気持ちを察したノアンが答えた。

「若い娘に大人気のヒール部分が細い『ピンヒール』と呼ばれるハイヒールを売り出したのがアデラ・ナバロウなのです。その売り上げを寄付してきたんです」


そうだ、俺も買ってルシアにプレゼントしたんだ。

色々有りすぎて、ハイヒールの事をすっかり忘れていた。


「そんな商才があるなら、人を傷つけずに普通に生きろよ」

俺の心の声が漏れた。


「本当に惜しいですね」

トマスも寄付金額を見て頷いた。


「この式典は中止にしましょうか?」

トマスが俺の事を気遣い、提案してくれた。

しかし、この公の場でアデラの本性とパラサイトテイマーを公表できれば一石二鳥だ。


アデラは陛下に、ハードンカプリの卵又は微生物サイズの幼虫を飲ませて操るつもりだろう。

その現場を押さえれば、アデラを捕まえる事が出来る。


ただ問題はアデラがテイムするものが見えないと言う事だ。

この世界に顕微鏡があれば、いいのに・・

作るか?

今からでは間に合わないな。


パラサイト学者のクレメンテ・フォームはどうやって観察しているんだ?


俺は急いで学生の治療を終えて帰路につこうとしていたクレメンテを王宮に呼び戻すように指示した。



呼び戻されたクレメンテは不機嫌になっている。

この王都で珍しい寄生虫を見つけたようで、これが生きているうちに研究室に帰りたかったらしいのだ。


瓶に入っている何やら白い切り身とそれに付いている物が蠢いている。

俺もノアンもトマスも一瞬で全身に鳥肌が立った。


「それは・・?」

ノアンが恐る恐る聞く。


「わしはずっと山奥の研究室にいたもんで、海の生物にこれ程沢山の寄生虫がいるとは思わんかった。これを見てくれ。イリトーカにこんなにいっぱい付いていたんじゃ」


「あー!!そんなに近くで見せないで下さい」

ノアンがのけぞりながら、数歩下がる。


イリトーカはイカそっくりで、この辺でよく獲れる。


「この王都は漁港が近いので、新鮮な魚類が沢山あります。急いで帰らなくても、いくらでも先生の研究対象は見つかりますよ」

俺はクレメンテの機嫌を直してもらうために、そして王都での滞在を引き伸ばして貰うためにも情報を提供する。


クレメンテは目をキラキラ輝かせて、「そうですか。それならばもう少しここにいましょう」

と、約束してくれた。


「先生は小さな微生物はどのように観察しているのですか?」

俺の質問に、クレメンテはあっさりと今手にしている物を拡大して壁にプロジェクターのように映し出した。


トマスが目を逸らし、ノアンが腰を抜かす。

巨大化した寄生虫は細かいところまでよく見えた。


「先生、よく分かりました。その映像を消してもらってもいいですか?」

お願いするとフッと消えた。

「先生のスキルは、拡大して目に見えない物でも映し出し見る事が出来るんですね?」


「おお、そうじゃ。このスキルのお陰で不思議な物や面白い事を発見した」


このスキルなら、アデルが持ち込んだ寄生虫を見つける事が出来る。

これで、アデラを捕まえられる。



式典当日。

どうやら、俺の式神はアデラにバレたようで何の反応もしない。

最大の山場の肝心な時に式神が機能しないのは、手痛い損失だ。


なので、この式典には毎年、クレマンやヴォルダ侯爵も出席するが、不測の事態に備えて欠席してもらった。


しかし、流石に陛下は欠席とはいかない。

俺は陛下のすぐ傍らに控える。


謁見の間に並べられた椅子に、参列者がどんどん着席していく。


その中にアデラの姿もあった。目立つ真っ赤なドレスに大きめのイヤリングが揺れている。


トマスを見つけると、ウィンクをした。しかし、トマスの冷ややかな態度にアデラの笑顔は困惑に変わる。


ギリギリまで、惚れているような素振りを見せて置けと皆に指示していた。だが、トマスの嫌悪感は俺の指示も受け付けない程、アデラを拒否しているようだ。


社会的貢献者表彰が始まる。

先ずは社会的に医療に貢献した人の授与が始まった。


次々と呼ばれ、陛下が一人一人に勲章を手渡す。

今回は呼ばれなかったが、クレメンテの新しいパラサイト研究は、人々の健康を守る為にも必要な分野だ、健康を損なう恐れのある寄生虫の発見は、医療貢献に値する。少々偏屈だが愛嬌のあるクレメンテが来年ここに呼ばれる事を期待したい。

クレメンテの顔を思いだしていると、医療部門の表彰が終わった。


その次に国の発展に寄与した方々が呼ばれた。


次々と進行していき、とうとう高額納税者と高額寄付金を行った者だ。

俺たちは、アデルがどんな作戦で陛下に水を飲ませるのか戦々恐々としていた。


社会的貢献者表彰が始まり、もうすぐアデラの名前が呼ばれる。


アデラの心の声が大きくなり、これだけ大勢いるにも関わらず、否応なしに俺に聞こえてくる。


ーー{アデラ} もうすぐよ。アル。私の物になるのね。そうだ、アルが一緒ならトマスも着いてくるわよね。ノアンも呼んであげないと拗ねちゃうわね。みんな待っててね。陛下を落としたらアルは悪役令嬢のルシアから自由になるわ。アル~。待っててね。


アデラがこっちを向いてバチバチと目配せをしている。


なるほど、俺は既に攻略されている設定なのか。

凄い自信だ。


進行役の者が、アデラの名前を呼ぶ。


『アデラ・ナバロウ』



次話が最終話です。

面白かったな~と、ちょこっとでも思って頂けたなら↓の☆マークを★に変えて頂けると嬉しいです。

どうぞ宜しくお願いします。

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