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12  禁酒

今日は2話投稿しています。

11話を20時に投稿しているので、そちらを先に読んでくださいね。



カンデに早めに偽の青い宝石が付いた短剣を、ヒロインのアデラに渡せと言った。しかし、そうは上手くはいかない。


カンデには婚約者のリタがいる。

このリタはカンデと同い年18歳の婚約者だが、すでに結婚20年のような貫禄がある。そして、カンデはすでに尻に敷かれている。


彼女にアデラの事を話せば、力と武力をもって解決しようとするだろう。

それでは解決にならない。


俺としては早く全ての宝をアデラが手に入れて、俺達の回りをうろつかないでくれれば、それでいいんだ。


3人までゲーム内容に沿って進行した。次々にヒロインが宝を回収したので、そのまま上手く行くと思っていた。


だから、カンデにも大体の経緯を話しておけば勝手に話が進むだろうと楽観視していた。


俺がカンデと話をしている時に、カンデの婚約者のリタが現れた。学院に来たついでにカンデの仕事ぶりを見に来たのだ。


「こんにちは、殿下。お仕事中申し訳ございません。殿下に届け物があったのでテーブルの上に広げてもよろしいですか?」


許可を出す前からリタは、テーブルの上を片付け出している。リタの持っているバスケットからはすでにいい匂いがしている。


あっという間にテーブルには焼きたてのパンとサラダが並べられた。私に用意したと言っているが、カンデの為に用意したのだろう。


「私も頂いていいかな?」

パンからは暖かな香りが広がっている。


「勿論です。殿下の好物のクロワッサンサンドを沢山用意してます。最近お仕事がお忙しいと聞いております。是非これを食べてパワーを溜めて下さい。カンデも一杯食べるのよ」


リタが豪快にカンデの背中をバシバシ叩く。

きっとカンデの背中は手形だらけだろう。


「じゃあ、お邪魔しました! カンデ、頑張ってね」


俺達が食べ始めると、リタはさっさと部屋を出ていった。

令嬢らしくないが、辺境伯の令嬢で大自然で育った歴とした貴族だ。

政略結婚とは言え騎士団の自由な気風のカンデとは気があった。


俺はこの二人が大好きだった。裏表のない二人に救われた事が沢山あった。

だから俺は兄と姉の様な二人の結婚式を楽しみにしていた。




カンデが幼かった時、カンデの父である騎士団長のカジョは酔っぱらって恐ろしい森で寝ていた事がある。それを助けに行こうとした息子のカンデはそのまま迷子になり、魔物に襲われそうになった。


そんな経験をしたカンデは、きっと酒飲みにはならないだろうと、俺は思っていた。


しかし、DNAは強かった。

カジョと同じ立派な酒飲みになった。

だから、ヒロインのアデラが短剣を狙っている間は酒を飲むなと警告していた。


ゲームでも、カンデが飲み過ぎて町のバルで倒れている所をヒロインが助けるのだ。

「お水をどうぞ」と親切に介抱してくれたヒロインに次第に心を許していく。それを見たカンデの婚約者のリタが、陰湿な悪戯を仕掛けていく・・・


と言う展開なのだが、リタを愛しているカンデが介抱されたくらいでヒロインを好きにならないだろう。

そして、リタも竹を割ったようなさっぱりした性格だ。ヒロインに意地悪をするわけがない。


俺は安心していた。




その日、カンデは俺の護衛を若手の騎士に交代し、一人で町に買い物に来ていた。


もうすぐリタの誕生日がある。リタの好きなケーキを予約しに来ていた。それが済むとリタの誕生日のプレゼントを探そうと町をブラブラしていた。


中々リタに合うアクセや髪飾りが見つからない。漸くリタにぴったりな髪飾りを見つけた。

満足行く買い物が終わると、すっかり喉が乾いていた。


止められていたにも係わらず、ついつい足はバルに向かっていた。


酒豪のカンデは、一杯くらい飲んでも大丈夫だとジョッキの酒を一気に飲んでしまった。

酒飲みの悪いところは、『一杯だけ』と言ってもその一杯で終わった試しがないことだ。


カンデも酒飲みの例に漏れず、次々とジョッキを空にしていく。


「カンデ、こんなに飲んでていいのか? またリタに怒られるぞ」


店主が見かねてカンデに水を薦めるが「夜はこれからだー」と回りの客を巻き込んで大はしゃぎだ。


もうすぐ結婚も控えている。リタとの関係も良好だ。店主は嬉しそうなカンデをそのまま飲ませた。

そして、心配しているはずのリタに、使いをやって知らせる事にした。


店先で案の定、酔いつぶれたカンデが倒れている。

店主が「だから言わんこっちゃない」とコップに水を入れて持って来た。

「ほら、カンデ。これを飲んで帰りなよ」


差し出したコップをアデラが店主の手から抜き取った。


「これは、私が飲ませてあげますわー」

「え?そうか?じゃあ、俺も店があるんで頼むよ」


店主はカンデをアデラに任せて店に入る。

店主が店に入ったのを見届けたアデラは、コップの水をサッと捨てる。

そして鞄から容器を取りだし、その中に入っていた水をコップに移した。


「カンデさぁん。これを飲んで下さい。酔いが覚めますよぉー」

アデラはカンデの頭を撫でながら、コップを口に近付けた。


「待って。その人は私の婚約者だから、私が介抱します」

リタがアデラに声を掛けると、アデラは舌打ちをした。


「あらら、いいところで出てくるじゃない」

急に態度が変わるアデラに、リタが戸惑う。


「カンデを介抱してくれた事は感謝します。ですが、後は婚約者の私が面倒を見ます」

そう言うリタを無視して、アデラはカンデに水を飲ませようとするのを止めない。


「止めて」

リタはコップをアデラの手から奪いその水を自分で飲んでしまった。


用意された水をリタに飲まれたアデラは瞠目した。

「あはは、水を・・あはは、あなたが飲んじゃった」

何故だか分からないが、アデラはお腹を抱えて笑っている。


何が何だか分からないリタは立ち尽くしている。


「男の奴隷が欲しかったけど・・あはは、でも、それでもいいわ。これからあなたは私の奴隷よ」


「何を言っているの? あの水に何か入っていたの?」

リタは恐ろしくなった。


「それじゃ、またね。悪役の婚約者さん」

アデラは上機嫌で立ち去った。


リタは、カンデを起こす。

呑気なカンデは目の前に愛しい婚約者がいた事でリタに抱きつく。


「りた~。愛してるよ」

リタは先程飲んだ液体が気になったが、ぐでんぐでんのカンデを馬車に乗せる事に必死で、その事を後回しにした。





次の日、二日酔いのカンデにリタの急病の知らせが届いた。


カンデが急ぎリタの元に駆けつけると、リタはベッドで苦しそうに体をよじらせていた。


「どうしたんだ? 昨日はあんなに元気だったのに」

いつも元気なリタがこんなに苦しんでいるのを見た事がなかった。

しかも、尋常ではない苦しみ方だ。

「・・はい回っている・・気持ちが ・・・わる・・い」

リタはその言葉を言うと、気を失った。

だが、しばらくするとリタが目を覚ます。

「おいリタ、大丈夫か?」

カンデが手を伸ばしリタの体に触れようとすると、リタがその手を払い退けた。


「クッッ、カンデ・・」

リタはいつもの強気の瞳になったが、次の瞬間、その瞳は一変する。


「カンデ~。ねぇ、こっちに来てよー」

リタが甘えるような声でカンデを誘う。

戸惑うカンデに、リタが腕を絡めてくる。

「カンデは私の事嫌いなのぉ?」


「嫌いなわけないだろう。俺はリタの事を愛している」


「くすっ。そうなんだぁ。それじゃあ、私の言う事は何でも聞いてくれるよね?」

リタの物言いと妖しい目に、カンデが違和感を覚えた。


「リタ、何だかおかしいよ。君の言う事は何でも聞くよ。だから、俺のリタに戻ってくれよ」

カンデは泣きそうになる。目の前の愛しい婚約者は見た目以外はリタではなくなっているのだ。


「いつもの私ですわ~。カンデったらぁ、意地悪な事を仰らないでね」

リタが優しくカンデの掌を撫でる。

いつもならきっと嬉しくなるリタの生の手も今日はゾッとする。


リタの手を振りきって、カンデは部屋を飛び出して行く。

そして、王宮のアルテシークに助けを求めた。




「ゼーゼーはーはー・・殿下、俺を・・いや・・リタを助けて下さい」

カンデのあまりに悲しみを帯びた悲痛な叫びに、周りの者全てが最悪の事態を想像した。


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