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10  ルシアの想い


幼少の頃からアルテシーク殿下は、優秀でした。


初めてお会いした時も落ち着いていらして、それに比べて私は俯いてばかりでお顔も見ることが出来なかった。


お披露目のダンスの時も、アル様の足を踏んで転びそうになった所を難なく助けていただいた。


私の誕生日パーティーの時には、アル様の瞳のシーグリーン色のペリドットを使ったネックレスとイヤリングを下さいました。


地味な私がそれをつけるとアル様から力をもらったようで背筋が伸びました。

しかし、いざパーティーが始まるとアル様の回りに沢山の人が集まり、お傍に行く事も出来ませんでした。

遠目でも分かるくらいにアル様の容姿は際立って美しかった。


あの横に並ぶ事は恐れ多くて、足がすくんで動かなくなりました。私の横にいらしたとあるご令嬢が、「殿下の婚約者があなたって、殿下もがっかりしているわね」と口許を扇で隠して笑っていました。


反論したかったのですが、本当にそうだと思い、私はさらに一歩下がって俯いてしまったのです。


そのご令嬢は私が下を向いたので、さらに攻撃をしようとわたしに近付きました。

でも、「ルシア!」とアル様が私の近くに来てくれたのです。


その笑顔に私の不安は吹き飛びました。その後も、ずっと傍にいてくれました。


私の勇気はいつでもアル様から頂いてます。そして怖がりで動けない私をいつもアル様は支えてくれて、待っていてくれています。


『アルって呼んでくれ』と言われて全然呼べなかった時もずっと待っててくれます。

今も『アル』とは呼べていない。

なのに、アデラ・ナバロウはいとも簡単に『アル』と親しげに呼んだ。


モヤモヤが治まらない。


いつもどんな時も優しかったアル様が、昨日はとても厳しいお顔で私を見ていた。

ため息までつかれて、呆れられてしまった。


学院に入ってから、会う機会が極端に減って寂しかった。


屋敷で会うと、お父様が毎回のように邪魔をしてくるので、ほんの少しの時間しか会えなかった。

学校では、二人きりで沢山会ってお話出来ると思っていたのに、ほとんど会えなくなった。


そんな中、アデラさんが沢山の男性と付き合っていると聞きました。

アデラさんが、フレディー様とアル様とお友達になったと皆さんに自慢されているのを聞いたのです。


私はお母様とお父様に相談しました。でもお二人は「殿下に限って他の人に目移りすることはない」と笑うばかりでした。


でも、先日のアル様はいつもと様子が違って怖かったのです。


一人で行動をした事がお父様の知るところとなって、授業があるにも関わらず家に帰るように戻された。


そこで漸く、私はアル様が必死で私を守る為に動いて下さっていた事を知りました。


「いいかい、ルシア。殿下はいつもお前が怪我をしないように、事故に遭わないようにと気に掛けて下さっている。しかし、今回殿下が私を頼られてきたんだ。自分一人ではルシアを守れないかも知れないと、言ってきたんだ。彼が今回アデラという女がお前に危害を加える事を本当に懸念している。あの、無敵の殿下がお前を守れなかったらと憔悴していたんだ。だから、お前は護衛から離れないようにして、殿下を安心させる行動をとるんだ。分かったね」


私はそんなにもご配慮頂いていたことに感謝した。そして、自分の醜い嫉妬でアル様に心配を掛けてしまった事が情けなく思いました。


「分かったなら、もうお休み。明日学院に戻るといい」

お父様は私の頭を撫でて、部屋を出て行かれました。


侍女に手伝ってもらって部屋着に着替えた後、アル様の顔を思い出しながらベッドに腰かけていたら、ドアではなくテラスの窓からノックの音が聞こえて来ました。


「ルシア、ここを開けて」

アル様がテラス窓を指している。


私は大急ぎで、窓を開けた。


アル様がいきなり私に抱き付く。


「ごめん、ルシア。昨日は言い方が強くて驚かせたよね」


さっきのお父様のお話で、私が悪かった事は十分に承知している。

アル様が謝る事は何もないのに・・・


「私の方こそ、ごめんなさい。アデルさんに嫉妬してアル様に会えばきっと嫉妬もなくなると思ってしまったんです。心配を掛けてごめんなさい」


私はアル様の腕の中で、頭を下げられないが、必死で謝った。


「・・・くっ」


アル様から返事がない事に私は戸惑った。

お顔が見れないので、怒っているのか許して下さっているのか分からない。


ただ、少しアル様の抱きしめる力が強くなった。


「あの、アル様・・?」


「ごめん、このままでいさせて。可愛すぎて顔を見たら、色々と我慢できない・・あぁ、やっぱり早いな。もう来たか」


「どういう意味」

ですか? と聞くよりも前に部屋のドアが高速連打のノックとともに開いた。


「殿下、いらっしゃる時はお出迎えをしたいので、是非正面入り口からお入り下さい」

お父様は、一体どうやって殿下が来たのを察知できたのだろう?

私は、不思議に思いながらもまだアル様の腕の中でした。


「ああ、ヴォルダ侯爵のお出迎えか・・・それは嬉しいような嬉しくないような。次からは玄関から入るようにするよ。でも、今日はこれで帰るからルシア、またね」


アル様は離れ間際に私の唇にそっと触れただけのキスをした。


「でででんかーー!!」

お父様の驚きと怒りの声が消えないうちに、アル様はテラス窓から帰って行かれました。


私は、アル様の感触が消えないで欲しいと思いました。


アル様はいつだって私の劣等感も嫉妬も全部吹き飛ばして下さいます。


このアル様の優しい感触で明日もきっと前を向けます。

私は唇にそっと触れた。


今日はクリスマスという事で甘いお話です。

メリークリスマス★♪

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