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苦い恋  作者: 春
1/3

1話

1話完結にしたかったのですが話の展開的に無理でした( ̄▽ ̄;)

小説を書くリハビリの作品です。

読んでの批判は御容赦ください。



恋をした。




少女漫画のような淡く、どきどきと胸を高鳴らせるものではなく、時に嫉妬に胸を焦がし独占欲が顔を出す、綺麗とはほど遠いが確かに、恋をしたのだ。














弓槻 ゆづき・まいは今年33歳になる。


地元を離れ、20で上京した舞は、1度転職を経験しているが今は中小企業で営業事務をして勤続年数は漸く10年目になる。



事務には女性も多いが、寿退社も珍しくなく、すっかり舞は中堅になっていた。



そんな舞には、付き合って半年の2つ上の真面目な彼氏がいて、親からも結婚はそろそろかと週末毎にせっつかれている。



友達も、半数以上は結婚し子供も2人3人といる子も多い。



舞自身も、年齢的に今の彼氏と結婚するのかなと思っていた。



・・・そう、思っていたのだ。





「・・・・結婚って、なんなのかしら」


金曜日、23時過ぎの1Kのアパートの自宅で弁当の作り置きの残りを皿に並べ、グラスとビール、ワインを準備する。



まだまだ肌寒さの残る3月上旬、炬燵に入り込みながら、携帯の通知を既読をつけないように確認して、そのままビールのプルタブに指を掛けた。



冷やしたビールをグラスに移すことなく直接缶に口をつければ、一気に半分は飲んでしまう。


「くそね」



イヤなことがあった。



舞は中堅の事務員で、この時期は決算の兼ね合いもあって休日出勤は普通なくらい忙しい。



営業の持ってくる書類を裁きながら、一方で決算の準備のために書類をまとめる。



特に、勤めている会社の営業相手である官公庁や学校は3月末日までの納品であるため事務所に担当営業マン宛てに届く見積依頼をどんどん処理して送り返さなければならない。



レポートやメールの履歴の時間に、お役所仕事は大変だと頬を引きつらせたのは10年前の話だ。



今では営業事務であるものの、直接問い合わせを受けたりしたりする関係で何カ所かの営業相手の声だけはすっかり覚えた。



この時期、電話を取るたびにお互いの労を労ってしまうようになってしまった。



ーこの時期は毎年、辞めたいなって思うんですよねぇー



ーこの激務ですものねぇー



ー婚期も逃しまくり、目の下の隈はとれないし化粧はノらないし。世の中の情報からおいて行かれるのよねー



ーすごーく、わかりますー



とある官公庁に勤めている経理の女性とはかれこれ5年の付き合いだ。



暇な部署というか東京を出ればもう少し暇なポジションもあるようなのだが、社畜根性の染み付いている人というのはどの世界でも手放し難いらしい。



残業を減らしましょう、ワークライフバランスを保ちましょう、私生活を大事に!と謳っているのは舞の勤めている会社もそうだ。夏や秋はそこまで忙しくなく、代休や年次休暇を使って旅行に行くこともあるが、この時期だけはソレは出来ない。



割り切るしかないのだ。だというのに。



「なにが、記念日よ。お前の記念日のおかげでこちとらまた残業だっての」



いやなこと。むかつくこと。それは2年目の20歳の営業事務の後輩が、昨日今日結婚記念日だからと休みをもぎ取ったのだ。


別に、休むことを否定はしない。与えられた仕事、任された仕事をしっかりした後ならば。


私生活ありきの仕事だと考える人間は多いし、別に問題ないのだ。そう、自分の仕事をしたあとなら。



「あのくそガキ。全部丸投げで休みやがって!!」


グシャッと手の中のビール缶を勢いよく凹ませたあと、大きく溜息を吐いた。


グラスに持ち替えて赤ワインを注ぐ。


後輩は、18歳で入社したからなのか本人の質か・・・後者なのだろうけど。空気を読まない、責任感がない、世間を知らない。



舞はそんな彼女の教育係ではないのだが、そんな舞の目に余るほどに、奔放な子供だった。


仕事を投げ出し、悪びれることもない。


当然、投げ出した仕事のフォローをするのは残る営業事務メンツになる。


担当営業マンが困り切ってしまっているのを横目に見つつ、しかし教育係も3人いるほかの営業事務も手一杯である。(そもそも教育係なんて本当は3ヶ月でお役御免なのに、2年目も続けざるを得ない現状もどうかと意見具申はしているのだが)


どこも年度末、決算期であるから他を手伝う暇が無いのだ。


そこで営業事務のボスである飯塚課長から声が掛かったのが、舞だった。


「くそったれだわ」



舞だって、余裕があるわけではない。


単に、10年目になると要領が掴めるから同時進行で色んな物を進めているだけだし、褒められたモノではないが、この時期は恒常的に残業をしているからだ。


要領が掴めていると言っても、年々仕事量が増えているから結局楽にはなっていないのだけれど。


結局、元々の自分の担当営業マン達の急ぎの仕事を昨日すべて終わらせ、今日は後輩の急ぎの仕事を昼休憩ほぼ返上で終わらせ(昼ご飯は1本で満足するチョコバーで済ませた)追加の業務は残業でなんとか片をつけ、土日の残業申請までして帰宅となったのだ。


「・・・ほんと向いてない」


携帯の通知を横目で見て、ワインを飲み干した。酒量が増えている自覚がある。


居酒屋に1人で入ることだってこの時期でなければする位には飲むのが好きだ。


ビールもワインも酎ハイも日本酒もウイスキーもラムも時には焼酎も飲むが以前はここまで飲まなかった筈だったのに、あの後輩が入ってから酒量が増え続けている気がしてならない。



「明日は8時半には起きて、出社して、21時には上がって、飲みに行く!決まり!」


携帯の返信はしない。心に余裕がないのだ。


親からのメッセージも、彼氏からのメッセージも今はお呼びでないのだ。









「ああ、やはりもういましたか」


「?村次課長じゃないですか。どうされました?」



コンビニでご褒美のチョコと一本で満足するチョコバーを買い出社すればほどなく隣の営業1課の課長が微笑みながら2課のカウンター越しに声を掛けてきた。


ちなみに舞の勤める会社の営業は、大手企業や海外を担当する1課と中小企業や官公庁の担当する2課に分かれており、それぞれ営業事務は5人ずつ配置されている。営業マンの人数は変動があるが各15人前後で推移している。


同じ事務所だがそれぞれカウンターとパーテーション、観葉植物で島が分かれている。



1課の課長である村次むらつぎ 秀典ひでのり年齢は40過ぎ。細身で、課長の年齢としても若いが見た目も若い。


元々1課の敏腕営業マンで有名だ。物腰が穏やかで、常に丁寧に接するため営業マンからも営業相手からも営業事務からも人気者である。



たいして2課長の飯塚いいづか 武蔵むさしは50過ぎでスキンヘッドが輝きガタイが良く豪快な人だ。


人をよく見ているし、仕事も早い。こちらも1課の敏腕営業マンで、村次課長とはよく営業成績で競い合ったらしい。豪快でさばさばした人なので最近の女子からは若干遠巻きにされているが男性営業マンからは慕われている。



さておき、なぜ村次課長が出勤しているのだろうと立ち上がってカウンターに近寄る。


「1課も急ぎのお仕事が出来たのですか?」



「いや、ボクは来週の準備をチョットするためにね。昨日の様子を見て、パソコンの残業申請の状態を見てて弓槻君が来るのを知ってね?ついでにと思って」



「あー昨日の荒れた私をしっかり知られてましたか」


「荒れていたねぇ。ハイこれ」


「あ、これ駅のコーヒー店の紙袋」


カウンター越しに手渡された紙袋は会社の最寄り駅にあるコーヒー店のロゴ入りで、中を覗けばステンレスボトルとドーナッツが入っている。



「え、いただいて宜しいのですか??」



「もらってもらって。ホットのブラックだったよね」



「あ、ありがとうございます。よくご存じで」



「そりゃあ、同じフロアで働いて10年くらいでしょ?覚えるさ。真夏でも湯気の立つコーヒー飲んでるもんねぇ」



「なんだか照れますね・・・村次課長、何か飲み物淹れましょうか?」


「いや、ボクも買ってきたから大丈夫だよ。それより」


「はい?」


「今夜、仕事が早めに切り上がりそうなら飲みに行かないかい?」


「!!え、もちろんです。行きましょう!」


「良かった。じゃあまた後ほど。お弁当は今日準備している?


それとも昨日と同じ物かい?」


「同じ物ですねぇ」


「じゃあ、ボクの気に入りの弁当屋があるんだ。土日もやっているからどうだろう?」


「ご一緒させて下さい」


「うん、じゃあ昼前にまた声を掛けるね。仕事始めようとしていたのに邪魔してごめんね」


ひらりと手を振って1課に戻った村次を見送って、夜の楽しみのみならず昼の楽しみも出来たことに気分が浮上していることを自覚しながら舞も自分の席に戻った。









「それじゃあ、休日出勤お疲れ様ってことで」


「誘って下さってありがとうございます!」


乾杯!とグラスを合わせて生ビールを一気に半分ほど飲み干してしまう。


当初の予定より仕事が順調に進み、3時間も前倒しで飲み会のスタートとなった。



会社の最寄り駅から2駅先の路地裏の店は、舞の1人飲みでよく使う小さすぎず大きすぎない和食の美味しい店だ。


知人を連れてきたのは初めてである。



「はは!良い飲みっぷりだ。飯塚課長の言うとおり、お酒は好きかい?」


同じく半分ほど飲み干した村次の台詞に10年もいればそりゃあ話題に多少上がるよなぁと苦笑しながら舞は頷く。


「大好きですね。紹興酒とかはちょっとまだ美味しさが分かりませんけど」


「ああ、ボクも飲まないなぁ。ボクは焼酎もそれほど得意じゃないね」


「コストパフォーマンスは良いんですけどね。ボトル入れたら」


「特に芋がね、ちょっと苦手なんだよねぇ」


「特徴的ですからね」


お酒談義をしつつ注文した肴をつまみつつ、話は昨日の荒れた舞の話になった。


「弓槻君は相変わらず、というか最近更に仕事のスピードが上がったみたいだね」


「いえいえ、とんでもない。本当に仕事が早いなら、残業なんてしないで帰れますよ」


「はは、謙遜は良くないよ?去年から担当営業マンが1人増えていて、この年度末には予算が官公庁では追加でついているみたいだしね。


回ってくる依頼の書類も昨年より増えているはずさ。だけど、体調管理も怠っていないし、相手の企業さん達と電話でやりとりしているその声に特段疲れや苛立ちみたいなのも滲んでいない。凄いよ」


掛け値なしの賞賛はくすぐったく、胸が暖かくなる。照れて笑う舞に、村次も微笑む。


「昨日は1課でアイツやべーってなってませんでした?」


「ふふ、君を引き抜きたいね、って話が持ち上がってたくらいかな?」


「あらあら、ありがとうございます」


「冗談だと思っているでしょう?残念、冗談じゃないよ。君の仕事ぶりは1課でも話題だからねぇ」


「ありがとうございます」


ふふ、と笑いながら追加で頼んだ日本酒を村次の猪口に注ぐ。すぐさま返杯がされ、お互いほぼ同時に猪口に口をつけた。


「ああ、美味しいお酒だね」


「私の推し日本酒です。辛口で、和食に合うでしょう?」


「うん。絶品だね。良いお店だ」


「私のお気に入りだから、誰かを連れてきたのは初めてなんですよ」


好きな店を褒められて嬉しくないわけがない。ふふふ、と笑った舞は、光栄だな、と微笑む村次に良い日だなと気付けば声に出していた。


「休日出勤したのにかい?」


「仕事は予定以上のスピードで終わって、みんなの憧れの村次課長とランチもして、飲みに来た上に褒められて、美味しいお酒飲んで美味しい和食食べてこれ以上にない良い日ですよ」


「はは。ボクも嬉しいよ。こんな笑顔の弓槻君を見るのは初めてだ」


「私は常に笑顔ですけどねぇ」


「そうだったかもねぇ」


ふふふ、と笑い合って程よく体温も上がり、お腹も満たされた2人は駅で解散した。


なんて充実した土曜日!と気分良く24時まで開いているスーパーで翌週の為の買い物をして、しっかり料理までして眠りについた。もちろん、翌日の休日出勤の為の目覚ましをセットすることも忘れない。





日曜日の休日出勤も予定より順調に仕事を終え、翌週の準備も終わらせた。明日の決まっている作業も頭に入れ、パソコンを閉じる。


そうしてなじみの警備員さんに労りの言葉を掛けられながら舞は帰路につくのだが、考えているのは問題の後輩の扱いについてだ。そして、既読をつけていない家族と彼氏からのメッセージについて。


舞は、恐らく世に言う社畜なのだろう。仕事を私生活より優先するし、仕事の基盤なくして私生活は無いと考えるタイプ。


もちろん、世の社会人が同じとは思っていない。舞が少数派なのも理解している。


元々舞は、カフェレストランの正社員として上京したばかりの頃働いていた。


サービス残業、サービス出勤は当たり前だったし、日付が変わるまで働くこともよくあった。

その頃に比べれば、今の会社は平時は休みも取りやすいし、会社の雰囲気も良いからと舞の中で今の勤務の状態は楽だとすら思っていた。仕事の内容も、合っていると。


だが、彼氏は否定的なのだ。それが結婚をこの人とするだろうと思っていた舞を止めさせている。


相手を尊重したいし、して欲しい。結婚したとしても仕事は続けたい。


子供が出来ても同じだ。仕事にやり甲斐があるし、<自分>を評価してくれる場所を無くしてしまったとき、足下が崩れるのではないかとすら思うのだ。








「極端だよなぁ、弓槻は」


「そうそう。まあ、こちらとしては助かってるけどさー」


「高橋なんて、営業事務を河野から弓槻に変えて欲しいって課長に直談判してたぜ」


「弓槻先輩、仕事早いですものねぇ」


営業のフロアの一角にある休憩スペースで弓槻を囲んでコーヒータイムをするのは、弓槻の担当営業マン4名である。


40半ばの山本、同期中途入社の古澤、先輩だけど同い年の高木、5年目の米谷は営業同士競い合っているが、受け持つ相手企業が被っていないことも有って仲は良い。


米谷はまだ舞が担当して1年だが、それ以外とは10年の付き合いになるが毎週、ほぼ欠かさず自販機ミーティングをするようになっていた。


情報の共有は、営業マンも営業事務の舞も大切にしている。

もちろん、パソコンの共有カレンダー等も活用しているが、顔を見るのも大事だぞ、と先輩である山本が言い出したのがきっかけである。


本日の議題一つ目は件の後輩女子 河野 亜矢についてであるが気付けば仕事観の話になり、弓槻の話にシフトチェンジしているところだった。


「土日どちらも出勤したんだろ?」


「ええ、まあ。この時期特有と言えば特有ですけど。


先週の木金の仕事の一部を終わらせたくて。古澤と高木先輩に頼まれていた資料も作り終わりましたよ。


米谷クンの担当から金晩に届いていた書類は今業者の回答待ちね。今日返信ある予定


山本サンの担当正面の官庁からの見積依頼の返信も土曜日には終わらせてます。


その日のうちに発注書が流れてきたので、相変わらずお役所は大変ですよねぇ。そちらの発注は業者の方に朝一で掛けていますよ。書類はいつも通りクリアファイルに入れてお席に置かせていただきました。メールも転送済みです」


「さすが、仕事が出来るオンナだわぁ」


「あの資料、もう作ってくれたんかーーー!!まじ助かるわ。今日早速営業行ってこよ」


「ファイル確認した。官公庁の旧年度はもうちょいだな。新年度の動きはそんなに2課正面の相手方は早くないし、納品漏れの無いようにしないと」


「土日に出勤させてしまって申し訳ないです」


しょんぼりするわんこ系後輩の米谷に舞は気にしない気にしないと笑う。


「貴方達が営業頑張ってるんだもの。そのサポートをするのが事務の役目でしょ?」


ふふ、と笑えば、米谷はキラキラとした眼差しで舞を見つめた。


「米谷はマジ当たりだよな。同期の高橋は河野なのに」


「ウチの仕事できるトップ営業事務だからな。英語が出来れば1課に引き抜かれる可能性大なんだよな」


「外国語は苦手ですー」


「ま、おかげで2課に留まってくれるんで有り難いけどなー。さて、河野は課長から一喝あったかねぇ」


「なんとかハラスメントになるかもで強くは言わないんじゃないっすかね?」


「道理を越えてなければハラスメントにならねえけど、最近言うやつ多いよな」


「義務を果たさず権利を主張する奴が多いって、他部署にも結構居るみたいですよ」


「ま、俺としては弓槻の負荷が掛からなければいいけど」


「フラグって奴にならないといいっすけど」










そう、フラグがしっかり立ってしまった。あーぁ、という顔をする営業マン達に舞もしょっぱい顔をしてしまった。




「弓槻、村崎が病休に入ることになった。」


「ハ?」


「村崎の仕事を4人に振り直すのと、河野の教育係をやってくれ」


「は?」


「頼むぞ」


「ちょ、ちょっと待って下さい!課長!!」


「ん?」


「お言葉ですが、村崎が病休に入るのはさておき、河野の教育係はもう不要でしょう!!いつまで教育係をつけるんです?なぜ私なんです。


入社してもう2年目ですよ?通常3ヶ月でお役御免でしょう?なぜそこまで甘やかすのです。私は辞退しますから。」


「弓槻」


「弓槻先輩、こわいぃ」


舞の横に立っていた河野の言葉がまた舞の癇に障った。苛立ち、眉間に皺を寄せる弓槻に普段は豪快な飯塚が困った表情を浮かべる。


飯塚自身も、舞の不満がよく分かっているのだ。


河野の担当する営業マンからも不満は出ているし、舞と河野以外の営業事務からも批判的な視線が集まっている。


「弓槻、河野の教育係は、保留にする。だが、代わりに河野の担当営業マン2人の内の1人を受け持つのが条件だ」


それすら、おかしいと他の営業事務からいっそう視線が突き刺さる。


第一、河野の担当営業マンを1人持ったところで、更に村崎の営業マンも割られるのだとしたら不公平が過ぎるし負担が大きすぎる。


「いま、他部署から人を回してくれないか人事に言っている。来るまでの期間を頼む」













「(おっかしくない!!??なんなの!!?くそが!)」


だんっとエンターキーを力強く押す音が響いた。


誰も居なくなった夜の2課の一角で夕飯代わりの一本で満足するチョコバーをかじりながら追加された河野の営業マンの仕事を裁いていく。



病休になった村崎からはメールで謝罪と共に申し送り書が届いたのでその申し送り書を片手に眺めながら、仕事の優劣をつけていく。


病気は、仕方が無いと思う。フリで無いことは村崎の為人を知っているからこそあり得ないことが分かっているのでやるせない。原因が河野にあったことが判明したからこそ、苛立ちもやるせなさも空しさも増すのだ。


なぜ、一人前の給料をもらっておいて仕事を放り投げれるのか。


プライドはないのか。義務感はないのか。


「弓槻くん」


「え?」


「ほんの少し、休憩しないかい?珈琲は飲みすぎのようだから、ココアだけど」


困った顔でココアの紙コップを掲げる村次に舞は苛立ちを一瞬忘れきょとんとした表情をして目を瞬かせた。






手が冷えていたので暖かいココアで暖を取りつつ、甘さがじんわりと沁みるな、とホッと息を吐いた。


「ちょっとは気分転換出来たかな?」


「ええ、ありがとうございます。村次課長」


「ソレは良かった。朝の件は1課に響いていたからね。ちょっと心配していたんだ。


お昼はお弁当をデスクで食べてたのがボクが昼休憩に戻ってきたときに見えたけど、そこからほとんどボクが居る間は席を立っていなかったし・・・。珈琲はよく飲んでたみたいだけど。」


「カフェイン中毒なので・・・つい飲み過ぎるんですよね。身体冷やすのであまり良くないんですけどね」


「ウン。ボクも珈琲は好きだからよく分かるけどねぇ。女性は身体を冷やしすぎは良くないものね。


今日は何時くらいまで頑張るんだい?もう20時だけど」


「あと少しで急ぎは片付くので今日はあと2時間くらいですね。会社に泊まり込む準備もしていないですし」


「やっぱり泊まるつもりかい?」


「さすがにこの人数の営業マンを担当したことがないので、早くペースを掴まないと不味いですからねぇ。奇しくも年度末ですし。まだもう少し各担当それぞれやる気みたいですし」


「無理をしているだろうに」


「無理して出来る範囲なら、まだ大丈夫なんですよ・・・私は。


ただ、ちょっと課長には苛立ちますけど」


「河野サンの事は、飯塚課長も人事に配置換えの具申をしているようなんだけどね。思わしくないようで。飯塚課長の肩を持って申し訳ないのだが、彼は彼で現状を変えようとはしているんだ。」


「ええ、わかってます。わかるから、余計苛立っちゃうんですよね」


「うん、そうだよねぇ」


「ま、やれるだけやります。


ああそうだ、村次課長?この年度末が落ち着いたら、良かったらまた飲みに行きませんか?」


「!いいね、もちろんやろうか」


「ふふ、ありがとうございます。


じゃあ楽しみも出来たことですし、身体もあったまったので、仕事に戻りますね」


「うん。身体を壊さないようにね」


「ハイ」


しんどいと、何故なのかと湧き上がる不満は一旦萎んだのを自覚した舞は、気持ちを切り替えてパソコンに向き直ったのだった。



続きはあまり日を開けず投稿したいと思っています。リハビリ作品にお付き合い頂きありがとうございます。

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