プロローグ―2 少女は幼馴染を追いかける
また、キャラの性格を掴むために書いたものを投稿します。
今回はヒロイン枠その1です。
一台の馬車が、山道を進んでいた。
この山道は、整備されたものではなく、周囲から様々な野生の生物やらなにやらが襲ってくることもあり、非常に危険な道である。しかし、この道は王都と農作物の生産で有名な地方を結ぶものであり、整備された道を進むよりも1~2日ほど早く王都へと向かうことができる。ある程度は魔法により鮮度を保った状態で運ぶことができると言えども、やはり作物は新鮮なものの方が売れやすい。多少の危険を冒してでも、商人たちがこの道を利用しないわけがないのであった。
全体を幌で覆われている荷台には、様々な商品の入った木の箱が山積みにされていて、箱に入りきれなかった道具や調度品なども、馬車の揺れで壊れないようにところどころ固定された状態で床に置かれていた。
そしてその荷物の山の中、ある木箱の上に、小さく丸まるようにして一人の少女が眠っていた。彼女の傍らには、小さなカバンが一つと、一本の剣。剣、というよりは細剣、レイピアやサーブルという方が正しいかもしれない。斬ることもできるし、刺すこともできる。
馬車の御者席では、女性が一人、手綱を握っている。その隣には女剣士が、周囲の様子を注意深く確認しながらも、御者の少女と仲良く会話をしていた。
突然に御者席の女性が悲鳴をあげた。急停止する馬車。周囲には野犬の群れ。
女剣士が御者席から降り、周囲の野犬を牽制するように刃を向ける。なるべく馬をかばうようにする。この隙に御者席の少女はすぐ手の届く範囲に置かれていた弓矢を手に取った。旅を行う商売上、何かに襲われうることはこの世界の常識。二人ともこのみちは長いため、護衛の手段は身につけていた。
今の問題は1つ。
どうやってこの状況を潜り抜けるか。
このとき、女剣士の頭の中の案は2つ。1つは、前方の道を塞ぐ犬たちだけを対処する方法。もう一つは、周囲を包囲している野犬全部を殺戮する方法。何も考えずに行けば後者の方が楽なのは確実である。間違っても彼女は群れと言えど野犬に負ける腕前ではない。ただし1匹でも逃した場合、そいつが残りの群れを引き連れて復讐に来ることである。なるべく1匹も残さず蹴散らす必要があるが、本業が商人である剣士と弓使い2人では、さすがに無理がある。
もともとは3人で商人をしていたが、今回1人が病気の為に家で留守番中である。稼ぎの為にと二人で仕事にかかったのがやっぱり仇だったな、と剣士の少女は心中で舌打ち。むしろここまで襲われることなく来れたのが運がよかったな、という感じである。せめて荷台で休ませている、途中で拾った彼女が起きてくれたらな……と思った矢先、後ろの方、つまり荷台側から、野犬どもの吠える声と、剣による斬撃の音、そして少女の気合いのこもった音が聞こえ始めた。荷台で寝ていた少女が起きて、そして野犬と戦い始めていた。
彼女の戦い方はすごかった。犬たちの間合いはある程度保ちつつ、狙いをつけた野犬に対して飛び出して突き刺していく。後ろからとびかかってきた野犬にも反応して、振り向きざまに斬りつける。止まることなく、流れるように彼女は野犬を倒していく。彼女の着ていた村娘風の服はどんどんと野犬の返り血で真っ赤にドロドロになっていた。防具もなく、ただ服を深紅に染めつつ、細剣をふるう村娘。彼女に遅いかかるも、どんどんと倒れていく野犬。そんな姿が、馬車後方で広がっていた。
すると情勢が動き出した。
野犬は、馬車全体を囲んでいたものの、馬、及び御者席の二人を集中的に狙うつもりで主に前方に集中していた。が、後方で突然の殺戮劇が始まったのを見て、前方に偏っていた包囲網が後方へと戦力が流れ始める。しかし依然、村娘の斬撃は止まらない。
野犬の一部が離脱し始めた。応援を呼びに行こうとしたのだろう。しかし、それは、未遂に終わった。突き刺さる矢。倒れる野犬たち。矢を放ったのは御者席の少女。
そして前方でも、剣を携えて馬を守っていた少女が攻撃を開始し始めた。
事ここに至った以上、包囲している野犬を殺し尽くすしかない。幸いにも人では何とか足りそうである。
そうして始まった殺戮劇は、ものの数分で、商人と村娘側の勝利で終わった。
終わった次の瞬間に、馬車は急発進を行い、その場から離脱した。
☆☆☆
「いやぁ、いきなり後ろで戦闘が始まったときはびっくりしたよ。」
「ごめんなさい……」
走り始めてしばらくしたころ、御者席には三人の少女が座っておしゃべりをしている。
村娘風の少女が、申し訳なさそうに肩をすくめていた。なお、服は流石に着替えている。
「別に謝ってもらうことじゃないよ、レイアちゃん。私たちも、前方だけ道を開けて全速力で走り抜けるか、それともみんな殺しちゃうか、どうしようかって迷っていたところだったし。むしろレイアちゃんのおかげで決断が早まったくらい。」
「ロッテの言う通りだな。まぁしばらく、王都につくまでの間は念のためにも、復讐に来るかもしれない野犬の復讐の襲撃に備えなければいけないがな……」
「本当にごめんなさい……」
「もう、そうやってルイーゼちゃんは意地悪言うんだからぁ。」
御者席で繰り広げられる三人の会話。細剣を持った村娘がレイア、さっきの戦いで弓矢を使っていたのがロッテ、馬を守っていた女剣士がルイーゼである。
「しかし、レイアの剣筋はみごとなものだったな……。ああいうことには慣れているのか?」
ルイーゼはレイアに話題を振る。それに対して、レイアもすこし口調を砕けた物にして答える。
「そうですね……。故郷の村で剣を習ってましたし、村に野獣の類が襲ってくることもありましたし。山に山菜取りに行くときも、襲われないようにと注意が必要で、その時私は護衛役でしたね。」
「……なんだか、村での暮らしって、平和でのどかなものを想像していたんだけど、すごく殺伐とした感じなのかな……?」
「ロッテには無理そうだな。」
レイアの口から語られる村での様子に、少し驚いている様子の女商人の2人。
「あ、別にいつも襲ってくるわけじゃないですよ。普段はそれこそ平和そのものです。剣も私がただ好きで…というか家の影響で振っているだけですし。他の子は大体おとなしく過ごしてたかなぁ。幼馴染も私と戦ってましたけど。」
慌てて二人に謝って広がってしまいそうなイメージを払拭しようとするレイア。
「というかその剣は、君のものなのか?」
「……なんか、家に代々伝わるものらしいです……」
「それは家宝と呼ばれる類のものではないか…?」
「いいんですよ、いつも私が使っていたものですし。誰が何と言おうとこれは今私のものです。」
「…あとで怒らそう…。私聞かなかったことにしまーす。」
「…ロッテに同意だな、これは。」
なかなかにひどい理屈を展開するレイア。若干にあきれる二人。
「…ところで、王都まであとどれくらいかかりそうですか?」
「あ、話そらした。」
ロッテは、そういいつつも、レイアの質問に答えた。
「…この分なら、あと3日のうちにつけるかなぁ…?」
「3日かぁ…。ありがとうございます。…アークは今、どこら辺にいるかなぁ…。」
「旅立った、というのが7日前になるのだったな?ならそろそろついている頃合いだと思うぞ」
「そうなんですね…。そっか、馬車で7日かかるところに王都はあったのか…。」
どこか遠い目をするレイア。それに対してロッテは
「そうだよー、間違っても女の子一人が歩いて行ける場所にはなかったんだよー」
と、レイアをいじめだした。
途端に顔を赤くして反応するレイア。
「や、やめてください、もうその話は止めてください!」
「えーレイアちゃん可愛いからなー、この話何回でもしちゃいたいなー。そしてその度に赤くなった顔を見たいなー。」
「やめないかロッテ…。馬の手綱を持っている奴がふざけるのは止めてくれ…」
「はぁーい」
ひとまずルイーゼの言葉でからかうのをやめるロッテ。
そのあとも、女三人が乗った馬車は、にぎやかに姦しく山道を進んでいく。
その中でも、レイアは心の中で、自分の目的を改めて確認するのだった。
生まれた村を飛び出したレイア。彼女の目的地は王都。及びそこに行った(彼女的には連れていかれた)幼馴染のアークである。
彼女が、王都にたどり着くまで、あと3日。
はじめて戦闘シーンなるものを書いてみた。めっちゃ難しいことが分かった。
そもそも細剣でどんな攻撃ができるのか少し予習不足だったことは否めないです。ごめんなさい。
そして全体的にもまだ、書き直す余地はある、あるはず…(ぐるぐる目)