プロローグ―1 少年は王都に向かう途中
処女作です。よろしくお願いします。
一本の整備された大きな道を、立派な一台の馬車が進んでいた。馬車はピカピカと黒く磨かれており、その側面には大きな紋章が描かれている。一目で高貴な身分の方が所蔵されているものだとわかる。馬車は二頭の馬が引っ張っていて、どちらも馬車に劣ることなく、毛並みが美しい。
馬車に乗せられているのは2人の人間。老執事と、少年。執事の男は、頭から脚、靴の先に至るまで、その装いをぴっしりと整えており、高貴な身分に仕えているのではないのかと創造することができる。一方でその対面に座る一冊の本を抱える少年は、打って変わって庶民的な、どこにでもいる少年という印象を与える服装であった。
少年は、馬車に乗ってからずっと、とても珍しそうに窓の外を眺めている。老執事はそんな少年をほほえましそうに見ながら、ただじっと、時に手元の懐中時計を確認していた。そんな様子で、どこまでも揺れる馬車の中、ただ二人は黙っているだけだったが。窓から大きな城がしっかりと見えるようになると、少年が感嘆の声をあげながら、執事然とした男の方に声をかけた。
「あの、セバスチャンさん。もしかして、あれが王城ですか…?」
セバスチャン、と呼ばれた執事は、チラリと窓の外を確認して、こう答えた。
「えぇ、そうですね。あちらが、我らのグリニア王国の王城です。」
「わぁ…。まだ、お城からここまで結構あるはずなのに、ここからでもしっかりと見える……。どれだけ大きいんだろう……」
「アーク様は、あのように大きな建物を見るのは初めてですか?」
「…うん、いままでずっと村の中で生きてきたし。長老の家くらいしか大きいものは見たことなかったかなぁ。途中で見た建物のなかにも大きい建物はいっぱいあった気はするけど、多分あれ、それよりおおきいんですよね?」
「まぁさすがに、一国の主が住む家みたいなものですので。村の長老殿の家よりも小さいわけはありません」
男がそういうと、アークと呼ばれた少年は「だよねぇ」と言いながら、窓の方に寄せていた体を座席の真ん中まで戻して、視線を男の方に向けた。
「7日も、ずっと馬車に乗ってたのかぁ…。結構長かったような、短かったような……」
「ここまでずっと、乗っているだけでしたからね。お疲れではありませんか?」
「各地の宿でしっかり寝てましたし、大丈夫です。」
アークは自身が何も疲れてないと、笑顔で腕をぐるぐると回す。
「それにしても結局、セバスチャンさんの「アーク様」呼び、やめさせることはできなかったですね。」
「あなた様は国に呼ばれた客人ですので。無体なもてなしはできません。ご容赦ください。」
「だよねぇ。でもやっぱり、僕自身は田舎の村に生まれた、ただの平民だし。やっぱり、執事さんみたいに立派な人から敬語使われるのはあんまりしっくりこないや……。」
「そういわずに、慣れてください。今後もこうして話すことはあるでしょうし。」
「はぁい。努力します。」
アークはそういうと溜息を吐いた。やはり、何度こういうやり取りをしても、慣れない。
☆☆☆
馬車の中の会話はそれで終わり、そのあとはずっと、執事はじっと黙ったまま。アークの方は、変わらず外を眺めていたが、やがてそれにも飽きたのか、そばに置いていた本を読み始めた。
やがて夕刻となり、馬車が茜に染まる頃、本日の滞在先である街にたどり着いた。
「今日は、この街で止まるんですか?」
馬車から降りたアークは、セバスチャンに問いかける。
「はい。本日はこの宿泊街で過ごしていただきます。明日の朝、再び出発して、お昼ごろに王城に到着。その後、いろいろと詳しいお話をさせていただこうと思います。」
「…そういえば僕、結局なんで呼ばれたのか聞かされてないんだっけ…。」
「なにとぞご容赦ください。明日、お話いたしますので。」
頭を下げられたアークは、慌ててセバスチャンに気にしないで、と伝える。
「……なんか、今から緊張してきたかもしんない…。礼儀作法とかどうしたらいいんだろう…。」
「簡単な作法でしたら、宿でお教えいたしましょう。とりあえず、今から緊張していても仕方ありません。落ち着きましょう」
「そうします……」
その場でゆっくりと深呼吸して、何とか落ち着いたアークは、執事につられて、本日の宿へと入っていった。
物語が始まるまで、あと少し。
書き終わって一言
「主題となるはずのギフテッドについて何も書いてないじゃん!」