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『隣人』

血気

作者: 鈴木


 その町は今、人の出入り――特に出て行く者のチェックが殊更厳しくなっていた。

 素性、目的、帰宅時間の申告、所持品検査が門において入念に行われ、町の者が外で何をしてくるつもりなのかを役人に事細かに把握される。

 ほんの一年前にはなかった厳重さだ。

 原因は一人の浅薄な研究者の暴挙にある。

 よりにもよって禁域の持ち物に手を出し、町はそのとばっちりで穀物が全滅する憂き目に遭ったのだ。


 研究者の愚行は具に周知されたが、住民の恨みは多くが過酷な罰を科した禁域へ向かった。

 中には邪悪な森を焼き払えと息巻き、実際、思惟の森に放火しようとした者まで出現した。

 旱魃などでカラカラに乾いているのならまだしも、瑞々しい植物の豊富な森にただの火を放った所でそうそう燃え上がるものでなし、放置しても禁域に害は出ないだろうと予測されたが、実害の有無は問題ではない。実行された時点で懲罰対象になるのだ。

 それを重々承知している為政者は過激な住民達が早まらないよう、監視を厳しくするしかなかった。最初の愚者は辛うじて未遂で(とど)めることに成功したが、追従する者は後を絶たず、生温い対処では効果がなかったのだ。


 そうした血気に逸る者達は聞く耳を持たないことが多い。

 また、己の正義を確信している者達の厄介さは筆舌に尽くし難い。

 これが大袈裟な表現で済めば良いが、そうはならない現実が為政者に過剰な監視を余儀なくさせた。


 門でだけでは不十分と、前代未聞なことに、思惟の森の周囲にも兵を配置していた。

 知恵の回る者は幾らでも抜け道を編み出して門を突破する。

 監視を強化してからも既に数度、過激な者達の外出を許したことがあり、思惟の森の前で兵士と揉み合いになった。


 幸いなのは所謂テロリストの中に魔術師がいないことだが、研究者は同時に魔術師であることも珍しくない。彼らのネットワークを侮って魔術師の参加を見逃せば取り返しのつかないことにもなり得る。しかし、毒は毒をもって――魔術師に一般兵士で対処するのには限界があり、予め魔術師を動員しようにも数が少なく、また雇う金も馬鹿にならず、財政が潤沢とは言い難い町には負担の大きい頭の痛い問題だった。


 そして、最も厄介なのは、そうしたテロリストを町民の大半が支持していることだった。

 禁域を恨む者はあまりにも多い。彼らは悪を挫く(・・・・)為に行動を起こす者達を陰になり日向になりサポートする。これを取り締まるのがまた骨が折れる。下手をすると町民全体が捕縛対象になってしまう。

 客観的に事態を見る者が為政者サイドにしかいないのは教育の失敗か、思考誘導ではどうにもならない町民性か。

 そこまで恨まずにはいられないほど禁域の懲罰が過酷であったのだと思えば、為政者達も頭ごなしに咎めることも出来ず、その情に厚いと言えば聞こえのいい中途半端ぶりが事態を長引かせていた。


 禁域に手を出せば、結局は自分達に何倍にもなって返ってくるのだということを、住民達に分からせられない。

 森を完全に破壊してしまえばその心配もないと、安易に、都合良く考えてしまうのだ。

 破壊することが出来ると。


 それを邪魔する、禁域に味方するとねじ曲げて解する住民達の恨みは為政者や兵士達にも向かい、監視・統制はしても暴力で従えるつもりのない彼らの苦慮は増える一方だった。








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