魔王令嬢の優雅な日常
シフォンケーキもいいけど、フルーツタルトもいいわね。
あ、抹茶カステラ! 食べてみたいわ!
え、ミックスソフトもあるの!?
「私、今から三百年程旅行に行ってくるわ。その間、留守は頼んだわよ」
「お待ちくださいお嬢様! 何処へ行くおつもりですか、俺は首なんですかぁ!?」
もう、やかましいわね。何の為にポンコツを雇ったと思ってるのよ。一緒に来るに決まってるでしょ、これだから騎士の癖に駄目の烙印を押されるのよ。お嬢様と呼ばれた少女は、内心で毒舌を惑う事なく平然と思う。思っているだけなので、当然相手には伝わらない。
「話は最後まで聞きなさい、留守を頼むと言ったのよ。つべこべ言わず、ついてくる」
「じゃ、じゃあ城の守りはどうするんですか?」
「大丈夫よ、あんたより百倍くらい優秀な護衛雇っておいたから。さぁ、行くわよ。スイーツが私を呼んでるわ!」
「は、はい! お供致します!」
あ、言い忘れてたけど私のお父様は魔王。そんじょそこらの生まれとは違うらしいけど、私には関係ない。今重要なのは、私が欲しているのがスイーツでありその為だけに私兵を連れて出かける事だ。人間界にも行く事にはなるだろうが、それはあれだ。私兵を犠牲にして、何とかさせよう。
「ポンコツ、いざとなったら貴方が私の為に命を差し出すのよ。大丈夫、半殺し……いいえほぼ全殺しで何とかしてみせるわ!」
「全然安心ができないんですけど! お嬢様、お気を確かに。お嬢様!」
そんな事より甘い物だ、苺だスイーツよ! 甘味が私を呼んでいる、行くしかないわこの羽で! という事で、私は空を飛んで魔の森とか言うつけた人のネーミングセンスを疑う名前の森をぱっと抜ける。ポンコツ騎士が死にかけてるけど、最初から護衛に力なんて期待してない。だって私、お嬢様だもの。お嬢様が可愛い上に強く、お供の騎士を守るのは当然の事! 今自己評価が高いなと誰かに呆れられた気もするけど、事実なんだから仕方ないわね!
「ふふ、待ってなさいかき氷!パフェ!ケーキ! 私が美味しく頂いてあげるわ!」
「わぁい見事な苺だ! お金持ってきてるんですか?」
「私を誰だと思ってるのよ、ちゃんと入れておいたわ。貴方の荷物に」
「何で金銭を俺に知らせずに渡すんですかね! って、盗まれてますよ案の定!」
「心配ないわ、こういう事もあろうかと使いの蝙蝠を派遣させておいたわ。代金は勿論貴方の血。美味しく頂かれなさい」
「いーやーだー! 独断が過ぎるでしょせめて確認とっ……待って待って死んじゃう死んじゃう!」
「もう、百リットルくらい渡しなさいよ。ケチね」
「普通の生物は死んじゃいますから! ていうか俺に吸う所ありませんから鎧騎士なんで!」
それもそうだったなと魔王令嬢は騎士が全身鎧で出来た不思議生物であった事を思い出す。思い出したという事は忘れて居たという事であり、つまる所こいつから血を貰えばいいかと本気で思っていた事である。だが困った、これでは代金が払えない。魔王令嬢たるもの、父の顔に泥は塗っても借金だけは作りたくない。お父様に頼もうかしら、騎士は向かわせた所で死ぬだけだろうし。
「そうだわ、盗まれたお金を取り返しに行きましょう。どうせ山賊か世捨て人でしょ、血の一リットルも百リットルも零の桁が違うだけよ!」
「そうですね、ニュアンスが違いますね。死にます、死んじゃいますから!」
わかったわ、全体を見て割ればいいのね。百人いれば支払いは一人一リットル、いける! 魔王令嬢はなぜか確信を持ち、金を盗んだ不届き物の場所へとたどり着いた。構成人数七十二人の中途半端な組織。魔王令嬢を見て更なる鴨が来たと下品な表情。
「さっさと返して貰おうかしら、私これでも忙しいのよ。スイーツを食べに行かなくちゃいけないの」
「暇人のセリフですよ、お嬢様」
うっさい、あんたも戦いなさいよと魔王令嬢は指示を出す。一番下っ端と思われる輩に敗北を喫した、当然だ。騎士が誰かに勝てる事などある訳がない。結果に満足いった令嬢は、金と血を取るだけ摂って逃げ出した。負傷した騎士をどこかで労わないと、私美少女だし膝枕で回復させようかしら。でも、騎士の好み聞いた事ないな。美少女は万物を癒す魔法だが、騎士の趣味が大の男でも怖がる領域だったら殺意を向けてくる可能性だってある。時として生物は自分の趣味に一途だ。無理に付き合わされた騎士に令嬢は慈悲深い気持ちで手当てをしないで連れまわすという手段を取った。そこは無理にでも治療してあげよう?
ふぅ、美味しかったわ。騎士の分まで味わったし、美味だったわ。
安心なさい、残さず食べておいたわ貴方の分まで!
……少女は一切の悪気なく、言い切った。