04 先輩とショッピング
「ふふふ、どうかしたのか少年?そんなところで一人さびしく立ち尽くして。もしかして約束をすっぽかされたのかい?ふふふ、お姉さんでよければ相手をしてあげようかい?」
「…あなたを待っていたんですよ、先輩。遅刻して気まずいからって変なテンションで絡まないでください。」
待ち合わせの場所に15分も遅れてきた先輩は、どこか申し訳なそうに僕に話しかけてきた。珍しく殊勝な態度だが、ホントに申し訳なく思うところはそこじゃない。
僕の貴重な休日をマスコット探しなどというヨマイゴトでつぶしても何も思わない無神経さだ。
「す、すまない。君とデート思ったらいろいろ準備をしないといけないと思って。とりあえずお弁当を用意しようと試行錯誤していたらいつの間に時間が過ぎ去ってしまったな。時の流れは残酷だと思わないか?ハルト君。」
「そうですね。僕が思うに先輩の調理風景が残酷なショーに例えるのは的を射ていると思いますが。」
「おい、ハルト君、それはどういう意味だ。」
「見ごたえがあるってことですよ。」
「そうか。うん。確かにそうかもしれないな。」
僕の言葉に、どこか嬉しそうにはにかむ先輩。そのまぶしい笑顔を見た僕は、僕と先輩の意思疎通には大きな隔たりがあることを痛感した。
ほんと何が嬉しいんだ。この女?
「…ところでお弁当はどうしたんです?見たところ手ぶらみたいですが。」
「…彼はここに来ることができなかった。手は尽くしたんだがな。」
表情を一転させ悲痛な表情で天を仰ぐ先輩。どうやら僕の悪運も捨てたものじゃないらしい。最悪な結末を回避することが出来そうだ。
「それはよかったです。」
「私の聞き間違いかな?そこは先輩の手料理が食べらくて残念です。じゃないのかハルト君。」
「すみませんつい本音が漏れました。だからその汚い手を離してください。」
「キミは私にケンカ売っているのか!?」
先輩は鼻息荒く僕の襟首を締め上げる。その猛獣のような表情を見たら100年の恋も即座に冷めることだろう。まあ、こんな表情を見せられなくても僕の先輩への思いはとっくに冷めている訳だが。
「すみません。ちょっと言い過ぎました。先輩が遅刻したから少し嫌味を言いたくなってしまいまして。本当にすみません。」
「そうか…君が私とのデートをそこまで待ち焦がれていたとは、フフフ。私も少し大人げなかったな。許してくれハルト君。」
「それで先輩。実は昨日ちょっと調べてみたんですよ。マスコットにできるような可愛く、それでいて飼育が用意なペットについて。どうせ先輩のことだから何も調べていないんでしょう?僕の方で何匹がピックアップしたので、まずはそれを見に行きませんか?電話で聞いたら実物も見せてもらえるとのことでしたので。」
「ペット?いきなりどうしたんだハルト君。デートコースを考えてきてくれたのはうれしいが、私は動物が苦手でな。できることならほかの場所に行かないか?」
「…先輩今日の目的を覚えていますか?」
「?当たり前じゃないか。かわいい後輩が一生懸命考えたデートコースをエスコートしてくれるんだろう?まったく、君にしては可愛いところがあるじゃないか。しっかりリードしてくれたまえよハルキ君。」
そう言うと先輩は鼻歌交じりに歩き出す。その後ろ姿を見て僕は痛感した。この女の気まぐれにまじめに手助けしよう考えた自分がいかに愚かであったのかを。
そして抑えることができなかった。僕の中に渦巻くドス黒く衝動を。そして僕は飛んだのだ。先輩の背中目がけ、湧き上がる殺意を抑え切れるままに。