03 先輩とマスコット
「ペットを飼おうと思うのだが、ハルト君はどう思う?」
2月を過ぎ、暖かな日差しが春を感じさせる今日この頃。先輩は唐突にそんな話を切り出した。
「おっと、ペットといっても君が今想像した様な如何わしい意味ではないぞ。まったく思春期の男子には困ったものだ。なにかとすぐいやらしい方向に結び付けようとする。」
「…そういえばもう春でしたね。春の陽気に頭をやられましたか先輩?」
「頭でやられましたか?まったく、君は私をなんだと思っているんだ!!そんなマニアックなプレイ。純情な私が行うと本気で思っているのか。」
「…退部届はどこにしまっていたかな。」
「待つんだ!?早まってはいけないハルト君。私を一人にしないでくれ。わ、わかった。私が悪かった、許してくれ。私なりにと考えたスキンシップだったのだ。ほ、ほら才色兼備で眉目秀麗な年上の女では、ハ、ハルト君も付き合いづらいかなと。ちょっとエッチな話もできる気軽なお姉さんアピールをしてハルト君との距離を縮めようかと。」
顔赤らめながら僕に必死で言い訳をする眉目秀麗な才色兼備さん。そのぶざまな様子はまさに顔厚忸怩といったところか?
「その方法じゃ僕との先輩の距離は遠ざかる一方ですけどね。それで、ペットの話でしたっけ?何を飼いたいんです?」
「そうなんだ。ペット。ペットなんだよ。いいかいハルト君?ペットを飼うことでこの部に欠けていたものがようやく埋まるのだ。何かわかるかい?」
「先輩…動物を飼っても不足が埋まるどころか、先輩が痴態を晒す機会が増えるだけです。」
「私がいつ痴態を晒したいうのだ!?」
先ほど晒した醜態をもう忘れてしまったらしい。どうやら、自らを省み、成長するという機能にエラーが生じているようだ。
いや、そもそもそんな高度な学習機能は先輩に実装されていないのかもしれない。
「まったくハルト君は私へのリスペクトが少々お座なりになっているんじゃないのかい?入部当初はあんなに素直でかわいかったのに。」
「僕も先輩が尊敬に足る人物のままでいてほしかったですけどね。残念です。」
「まったく君は憎まれ口ばっかりだね。まあいいさ。それでこの部に足りないもの…。それはマスコットなのだよ!ハルト君。」
「…マスコットですか。」
一体どういう理由でマスコットが必要だと結論付けたのか一切不明だが、そこ突っ込んでも。先輩が納得できるよう理由を返答する可能性はおそらくないだろう。
どうせいつものくだらない思い付きだ。その辺はスルーし、さっさと話しを進めることで、このくだらない茶番を打ち切ろう。まったく、時間の無駄もいいところだ。
「ペットをマスコットにするんですか?」
「その通りだ!可愛らしく。思わず触りたい。なでなでしてもう胸キュン…なペットを導入することで、来る来月の新入生歓迎会で新規部員を獲得する。我ながら見事な策だとほれぼれする。そうは思わないか、ハルト君?」
「そうですね。さすが先輩です。それじゃ頑張ってください。」
「待て。なんだその冷めきった表情は!き、君も協力するんだ。欲しいだろ可愛い後輩?威張りたいだろ?」
「いや、別に」
「別にってそれじゃ。今年も私と君の二人きりになってしまうじゃないか!…ハハーン、なるほどそう言うことか!」
僕の顔見ながら、何やら得心行ったとばかりにやけた表情になる。至極不愉快だ。
「キミは新入生が部活に入ることで、君は私と二人きりで過ごす時間が無くなるじゃないかと心配しているんだな。まったく冷めた顔しておいて、なかなか可愛いところがあるじゃないか。うんうん。」
正直、先輩への恋心などとっくの昔に冷めており、部活に残っているのも先輩が泣いて頼むから仕方なく残っているだけだ。だが否定して話が長くなるのもめんどくさいな。とりあえず肯定しておこう。
「実はそうなんです。」
「今日はやけに素直だな。まさかこのままいい雰囲気に持ち込んで、私との甘いラブゲームを楽しもうという魂胆か、このむっつりスケベめ。」
盛ったチンパンジーがモジモジと奇妙な行動を取りはじめる。僕はあまり見苦しいその動きに、忍耐の限界感じるのであった。
これ以上不愉快な思いをする前にとっととこの場を去ることにしよう。
「すいません、今日は医者なんでこれで帰ります。」
適当な言い訳をすると、僕は返事も待たず部室を後にする。後に残された発情期のチンパンジーはもう照れ屋なんだからと、奇妙な鳴き声を漏らすのだった。
帰宅後、僕は制服を着替えと人心地ついていると。チンパンジーから明日一緒にペットショップに行こうという趣旨の迷惑メールが届いた。そろそろ本気で辞めたいな…部活。