02 先輩とモビルスーツ
「なんです、そのロボットは。」
僕は部室に入るなり先輩にそう訊ねる。先輩は愛おしそうに青いロボットを眺めていたからだ。うっとりとした表情でロボットを眺める先輩は、まるで絵画のように美しかったが、その手に抱いている小物のセンスが壊滅的だ。
美人なようなでその実の残念さ。うん。先輩は今日も平常運転だな。
「ロボット?おかしなこと言うなハルト君は。これはモビルスーツというものだ。どうだいハルト君?これはいいものだろう?」
先輩をそう言うと自慢げに僕に謎のロボットを突きだす。
「モビルスーツ?ああ、ガン○ムでしたっけ?すごいですね。」
「違う、これはギャンだ!!まったく君はモビルスーツの区別一つできないのか!それでも男の子か!この軟弱もの」
そう言って僕の頬をはたく先輩。まずいな今日はだいぶハッスルしているようだ。迂闊なことを言うと興奮して何をしてくるかわからない。この状態の先輩は発情期のチンパンジーよりも危険だ。慎重な対応が求められる。
「そんなこと分からないですよ。だって昔のアニメでしょ。さすがに僕らの年代じゃ知っている人の方が少ないんじゃ。」
「昔のアニメだと!?キサマ見ていないのか鉄血をAGOをビルドファイターズを!」
会話の選択に失敗したようだ。先輩はチンパンジーのごとく歯を剥き出し興奮している。早く落ち着かせなければ彼女が怒りのままに自らの排せつ物を投げつけてきかねない。
こういう時有効な選択肢は…おだてることだ。褒めてあげればチンパンジーは気をよくして怒りを忘れてしまうだろう。
ともかくあのギャンというやつを褒めてあげれば…。僕は机に起立する奇妙な形をしたロボットを凝視するこれどこを褒めればいいんだ?
「その…、カッコいいですね…ギュン。」
「ギャンだ!なんだギュンって私をバカにしているのか!?」
僕の襟首を掴んでキーキー鳴いて威嚇する先輩。もはやこれまでだ。僕一人の力でどうにかできる事態じゃない。外部に助けを求めることにするか。
「ちょっと職員室に行ってきます。先輩が勉強に関係ないおもちゃを持ち込んで下級生をいじめていたと。」
「ま、待ってくれハルト君それは少し卑怯じゃないか。」
僕の一言に先輩は慌てふためき、掴んでいた襟首を離す。相変わらず権力に弱い人だな。
「ち、違うんだ。私は初めて素組みから卒業し墨入れを施した作品をぜひ君に見てもらいたくて、つい。…き、君も悪いんだぞ。頑張って作ったんだ少しくらい褒めてくれても…。」
上目づかいに僕の様子を伺う先輩。まったくこの人は…。
「僕はその…プラモデルというものをあまり作ったことはありませんが、よくできていると思います。」
「そうか!そう思うか!!」
僕の言葉が嬉しかったのか、先輩は得意げに頷いていた。まったく単純だなこの人は。
「素人の適当な感想ですけどね。」
「そうか、それでも私はうれしかったよ。君に褒めてもらえて。」
僕は先輩から目をそらしながら、そんなことをつぶやく。そんな僕の照れ隠しの一言も、先輩はうれしそうに微笑んでくれた。
「キミに褒めてもらえたことだし、そろそろ部活を始めるとしようじゃないか。今日の品物は…なんとPS2の連邦 vs ジオンだ。私が使うモビルスーツはもちろんゲルググ!君は適当に選びたまえ。私のおすすめはガンキャノンだ。」
「ギャンじゃないんですね…。あと映画は見ないんですか?」
「うむ。私は映画には全く興味がないからな。君と同じだ。なにしろ、ドムに似たイケメンの先輩につられ入部しただけだからな。」
そう言って面白そうに笑う先輩。僕は仕方ないとばかりに苦笑しながらコントローラーを受け取るのであった。
その後、機体選択画面でドムは見た僕は思わず硬直するのであった。