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異世界アプリ  作者: ヨシナリ
9/9

旅立ち

 

「…ん!」

 少女が目を覚ます。

 横には怪我をした老婆が眠っている。

 自分の体も治療が施されたようだった。


「ここは…?」

 状況確認も含めながら、少女は意識を失う前のことを思い出そうとする。


「そうか…。」

 横の老婆を見て、此処が自分の襲った村の中だと理解する。


 窓の外はすっかり明るくなっていた。

 負傷者の姿や、息絶えたのであろう村人の姿が見える。

「私の兵は…?」

 少女は村の外を見て、違和感を覚える。

 そう、人は普通に傷つき、死ぬのだ。

 少女の率いていた兵は、先の戦闘で息絶える際、

 ″死ぬ″というよりは魔物同様″消える″という表現が近かった。


「私は…何をしてしまったの…?私は…勇者なんかじゃ…ない?」

 少女は過度のストレスにより、吐き気がしていた。


(ガチャッ)

「あら。起きたのね。――私はマリー。あなたは?」

「… …ヒョウカ。」


 マリーは木製のコップに水を注ぐと、ヒョウカに差し出した。

 一気に飲み干すヒョウカ。

 怪我した老婆を見つめるマリーに、ヒョウカは声をかけられずにいた。


「なぜ…助けた?」

 マリーは老婆を見つめたまま、答える。

「ババ様なら、きっとアナタを助けると思ったの。」

「そう…か…。」


 場はまた沈黙してしまった。


「私、レイジの様子を見に行かないと。」

 マリーが立ち上がり部屋を出ようとする。


(レイジ…!!)

 ヒョウカに戦慄が走った。

「私も付いて行っていいか…?」

 コクリとマリーは頷いた。


 すぐ隣の部屋に移動すると、

 そこに″レイジ″と呼ばれる少年は寝ている。

 その姿を見るや否や、ヒョウカの頭の中では

 蒼い戦士の姿と赤い眼光がフラッシュバックする。

「あ…。」

 ヒョウカはその場でへたり込んでしまった。


「ふあぁ~。よく寝た!」

 レイジが勢いよく起きる。

 マリーは呆れた様子でレイジを見ている。

 レイジはへたり込んでいるヒョウカに手を伸ばす。

「大丈夫か?」

 窓の外から差し込む光が丁度レイジと重なって、

 ヒョウカにはその手がとても優しいものだと思えた。

「…なんだろう。この鼓動のBPMは…。」

「え?」

「なんでもないわ。」

 レイジの手を取り立ち上がったヒョウカの顔が光に照らされると、

 瞳からは涙が溢れていたのだった。


 レイジたちがババ様の家を出る。

「お体は大丈夫ですか。レイジ様。」

 ラルフとブラウンが家の前で座っていた。

「べ…別に俺は心配なんかしてないからな。」

 ブラウンがツンデレぶりを発揮している。


「待たせたな~!」

 村の入口側から大男とその従者が数人こちらに向かってくる。

「ジェイク様、お疲れ様でした。様子は如何でしたでしょうか。」

 ラルフが″ジェイク″と呼んだ男は、白い顎髭を指ですくと言った。

「ああ、橋の修復に時間がかかりそうだな。橋の向こう側にも人がおったから、話しをする必要もあるだろうな。」

 ″ジェイク″と呼ばれた男は俺を見るなりニカッと笑いこう言った。

「おまえがいなかったらこの村も滅んじまってたからな! ありがとうよ!」


 ババ様の家の前で、しばらく今後の動きについて話し合いをしていた。

 ジェイクが話を仕切っていたので、ブラウンは少し不服そうにしていた。

「ライフラインの関係上、橋の修復は急がないといけませんね。」

 ラルフの意見に万条は一致した。

「村が手薄になるが、警備はどうする。」

「それは俺がやろう。」

 ジェイクは腕を回している。

「橋の修復はブラウンがいないと難しいのでは?」

「ああ。ジジイの話だと、反対側からの修復が無いと厳しそうだからな。」

 ブラウンは渋々と喋っている。

「ラルフまで修復に出ると、村の食料に困らないか?」

「レイジ様、どうにかなりませんか?」

 ラルフがこちらを見るので、アイテムアプリを確認する。

 先の戦いでHEROES(ヒーローズ)を起動していた為、

 アイテムは大量に保有していた。

「ええ、問題ないと思います。」

 俺の一言に従者たちが胸を撫で下ろす。


「一番の問題は……。」

 ラルフがチラチラとヒョウカを見ている。

「分かっているわ。すぐ出ていくわよ。」

 場を察したヒョウカが真顔で応える。


 マリーが急に立ち上がる。

「私、旅に出ます。」

「……はい?」

 一同、唖然とする。

「今の私では、皆さんの傷も満足に回復できないことが分かりました。ババ様が倒れ、アラン様がいつ戻って来るかも分からない今、″見習い″ではなく″神官″としての力がいち早く必要だと思いました。」

「おいおいおいおい。ちょっと待て。今の状況でおまえに護衛を付けてやれる程、人は余っちゃいないんだぞ!」

 ブラウンが頭を抱えている。


「適任がいるじゃありませんか?」

 首を傾げながらマリーが俺を指差した。

「なるほど。」

「なんでやねん!」

 ポンッと手を叩く俺に、ブラウンがツッコミを入れる。


「ゴホンッ」

 咳払いをしたラルフが脱線した話を戻して整理する。


 村の護衛として残る者たちと、

 森を抜けた所で修理する者たち。

 そして、俺とラルフ、ブラウンとマリーは橋の反対側に回ることになった。


 話がまとまったところで、俺が立ち上がろうとすると、服の裾が引っ張られた。

「……ぃぃ?」

「え?」

「私もあんたに付いていって良いかって言ってんのよ!」

 顔を赤らめながらヒョウカが俺を上目遣いで見ている。

「えーっと?」

 マリーがジト目で俺を睨む。

「まぁ、いいんじゃねぇか?昔ならともかく、今の″百合の山道(リリーオブザバレー)″を越える手段を知ってるやつは必要だと思うぜ。」

 ブラウンが珍しく冷静な分析をした事に、ラルフの顔が引きつっていた。


 俺たちは役割確認を終えたあと、それぞれに散っていく村人たちを見送ると

 村の広場に向かった。

 俺は、ババ様のことを思い返しながら、広場の木の台にアイテムを積み上げた。

「あ、レイジ様。橋の修復に使う物資はレイジ様が持っていっていただけませんか?」

「ああ。そうか。ごめんごめん。」

 苦笑いしながらアイテムを回収する俺の手にヒョウカの手が当たった。

「私も手伝うわよ……。」

 顔を赤らめながらヒョウカがアイテムの収集をする。


 やはりマリーがジト目でこちらを睨んでいる気がする。

 なによりも、周囲の村人がヒョウカを見る目がキツかった。

(雨、降りそうだな……。)

 雲行きは怪しくなっていた。


 村の入口を出る時、ヒョウカが村を振り返った。

 俺は気付いた。

 その瞳には、深い後悔の色が浮かんでいた。

 俺はこの時ヒョウカの事を、心底悪い奴とは思えなかったんだ。


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