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異世界アプリ  作者: ヨシナリ
8/9

もう一人のスマホ持ち

 

 橋の近くまで走ってきた。

「レイジ様!馬の扱い、上手いじゃねぇか!」

 先頭を走るブラウンが俺を気にかけてくれている。


「乗馬クラブ、体験しておいて良かったなぁ。」

 感想を漏らしながら、ブラウンに親指を立てる。

「え?なんですか?」

 後ろで俺に抱きついているマリーはよく聞き取れなかったようだ。

「なんでもないよ。」


 橋を渡り、そのまま創生の森の中へ突っ込む。

 魔物の気配はなく、森はざわついているようだ。

「明らかに様子がおかしいぞ!みんな!気をつけて進めよ!」

 ラルフの声から緊迫が伝わる。


 もう少しで森を抜けようかという所で

 ラルフが手綱を引き、馬がのけぞって止まる。

 後ろに続いた御者たちも、続いて止まっていった。

「ブラウン、止まれ!」

「うおぉぉ!」

 ラルフがブラウンを止めようとしたが、

 ブラウンが一気に森の外へと抜け出した。


 一方、村の外ではババ様と軍隊が交渉をしていた。

 村の前方から広範囲に軍は広がっており、

 ほぼ包囲された状態になっている。


「この村に魔王がいる事は分かっているのよ!

 魔王を出さなければ村ごと攻撃するしかないわ!」

 エメラルド色に近いショートカットの女の子が軍隊の先頭に立っている。

 首からはヘッドホンを下げているようだ。

「だから、何の事かサッパリ分からんて!」

 ババ様が村の門で少女を迎え撃っている。


「私は…勇者よ!早く魔王を倒して現実に帰りたいの!弓兵!攻撃せよ!」

 森側に展開された弓兵たちが、村に向かって弓を引いた。


「うおぉぉ!」

 弓を放とうとする弓兵の小隊にブラウンが馬ごと突っ込んでいく。

「おらぁ!」

 ブラウンは騎乗したまま、背中に担いでいたハンマーを振り回し、

 大振りで弓兵を薙ぎ払っていく。


「うぉぉおお?!」

 俺はと言うと、ラルフの合図で止まろうとしたが止まれず、

 ブラウンの後を追う形になっていた。

 後ろにしがみついていたマリーは、振り落とされそうになったところを、

 ラルフが無事に抱き寄せてくれていた。


「オラオラオラァ!!」

 軽快に兵を蹴散らすブラウンが少女にハンマーを振りおろそうとした瞬間

「ぐあぁ!」

 ブラウンの右腕を剣が斬りつけ、馬ごと倒れ込んだ。


 ブラウンの倒れた馬に、俺の馬が引っ掛かり、俺は少女の前へと投げ出された。


 上体を起こすと、少女がスマホをこちらに向けている。少女の周りには複数の″剣″が浮いていた。

「何?そのぶっ壊れたステータス。どうやらあんたが魔王のようね。」

 少女がヘッドホンを装着した。

「一気に決めるわ。【闘争する鍵盤(バトルキーボード)】!」

 少女の前に湾曲したキーボードが浮き出す。

月光(ゲッコウ) 第3楽章 幻想即興曲(レインソード)

 奏でられる音色と合わせるように、剣が宙を舞う。

 刃先が此方へ向くと、一斉に突きが飛んできた。


「あぶねっ!」

 ギリギリのところで攻撃をかわすが、俺の後を追うように剣の突きが飛んでくる。

「剣兵!」

 少女が兵に指示を出す。

 周りにいた兵がレイジに向かって次々と剣を振り下ろす。

 たまらずアイテムアプリから棍棒を取り出し、剣戟を弾くレイジ。


「しぶといわね。【第6番 1分間の円舞曲(マイニュート ワルツ)】」

 少女の奏でる曲が変わる。

 周りの兵士が青色のオーラを纏い、再びレイジに襲いかかる。

 明らかに先ほどよりも攻撃速度が上がっている。


「もうダメだ…!当たる…!」

 レイジが目を瞑ったその時、

(ドゴォ---ン!!)

 少女と周辺の兵が吹っ飛び、岩や丸太が散乱した。


「何!?」

 思わぬ方向からの攻撃に驚く少女。


「よぉ、クソガキ。なぁに遊んでんだ?」

「うるせぇ…。クソじじぃ…。」

 大男がブラウンの襟を掴み、ひょいと持ち上げる。

「ハハハ!元気そうで何よりだ。おまえは少し休んでろ。」

 そう言うと大男は村に向かってブラウンを放り投げた。


「さぁて、寝起きのウォーミングアップといくか。」

 大男はそう言うと、近くの丸太を持ち上げて敵の歩兵へ攻撃を開始した。


「いくぞ!」

 今だとばかりに、ラルフと御者は二手に別れ、

 森側の弓兵を攻撃し始めた。

 大男とラルフたちの行動に、少女が気を取られている隙に、

 レイジはカメラアプリを起動して少女を見る。


 名前:ヒョウカ=クラワキ

 種族:人間

 レアリティ:GR

 ジョブ:運命の巫女

 レベル:120/120

 HP(生命力):61.250

 MP(魔力):133.000

 STR(物理攻撃力):72.610

 DEX(器用さ):136.500

 VIT(物理防御力):47.100

 AGI(敏捷性):47.100

 INT:(魔法攻撃力)131.200

 MND(魔法防御力):99.100

 スキル:<Shaaam><闘争する鍵盤>


「おいおい。どっちがぶっ壊れだよ…。」

 そう呟くと少女が俺の行動に気がつく。

「男が黙って女の子を盗撮とはいただけないねぇ!」

 少女は再びレイジを標的に激しい攻撃を仕掛ける。

(くそ!隙がない!)

(俺のアプリは戦闘用じゃないしな…。ん?HEROES(ヒーローズ)の起動を最後にしたのはいつだ?もしかしたら…!)


 幸い、カメラを起動したので手にはスマホを持っている。

 俺はギリギリのラインで攻撃をかわしながら、スマホを操作した。

HEROES(ヒーローズ)】!

 アプリの起動が成功すると、いつも通りアナウンスが流れる。


「‐‐‐ exp ヲ 21.600 獲得 シマシタ ‐‐‐」

「‐‐‐ LV ガ 14→15 ニ ナリマシタ ‐‐‐」


 急に攻撃を避けるのが楽になる。

「よし。まずは成功!」

 しかし、その違和感に少女はすぐに反応した。

「ちっ。あんた今、なんかしたね?これ以上スマホに触らせないよ!終わりにしてやる!【24回の輪廻(ラスト プレリュード)】!」


 宙に舞った剣は1.000?いや、2.000本か。

「ダメだ…。さすがに避けきれない…!」

 心が折れそうになったその時、

「‐‐‐ スキル ヲ 獲得 シマシタ ‐‐‐」

 頭に声が響く。

(スキルだって…?)

 レイジの体が剣によって徐々に傷つけられている。

 痛む体と、攻撃をかわし続ける緊張によってか、

 レイジは逆に冷静になっていた。


 なんとかスマホ画面を確認する。

 画面の戦士の下にはスキルボタンが光って見える。

 [戦士とリンクします。全ステータスが3倍になります。(30秒間)]

 レイジに思考する力は残っていなかった。


(グサッ)

 レイジに剣が突き刺さると、反動で指がスキルボタンへと触れた。


「【勇者の末裔(ブルーナイト)】」


 一瞬の青白い閃光がレイジを包むと、

 閃光が一時的ではあるが剣の雨を弾いた。


 光から現れたのは、蒼い鎧を着た戦士。いや、それは確かにレイジだった。

 右手には剣、左手には盾を装備している。

 レイジは剣と盾で、少女の攻撃を防ぎ始めた。


 剣を弾きながら、間合いを詰めてゆくレイジ。

「くそぉーーー!!」

 少女の鍵盤を叩く力が増してゆく。

 スキル発動から約17秒、1.000本の剣は防いだか。


(あ…あれ…?)

 自分の身体に異変を感じるレイジ。

 普段の3倍の力を発揮する意味を理解していなかったこと、

 そして、先ほど負った傷は決して治ってなどいなかったこと、

 そのことに気がつきかけた時、レイジの意識は途絶えた。


「‐‐‐ 接続 ガ オフライン 二 ナリマシタ ‐‐‐」

「‐‐‐ 放置モード デ 戦闘 ヲ 続行 シマス ‐‐‐」


(!!!)

 少女が認識した時には、蒼の戦士は遥か上空へ跳んでいた。

 持っていた剣と盾は消え、手には先も柄も鋭く尖った大きな槍へと持ち替えられている。


避雷の槍(インパクト)


 蒼の戦士が上空から槍を一気に叩きつける。

 槍が地面に触れ、周辺の地面が()()()()と共に

 凄まじい衝撃波が辺りを襲う。少し遅れて破裂音と共に閃光が響いた。


 舞っていた剣は全て地に落ち、付近の兵士は一掃される。

 爆風で少女は森側へ吹き飛ばされていた。


 少女が顔を上げた時にはもう遅かった。

 蒼の戦士は槍を引き抜き、少女に向かって振りかぶっている。


絶対神の戦槍(グングニル)


 無理な体制ながら必死に回避しようとする少女。

 蒼の戦士から槍が放たれた。

 兜から除く赤い眼光を見た少女は悟った。

(ああ…。私、ここで死ぬのね。)

 避けようとする力が抜け、自然と地面に寝そべった。


 槍が創生の森を貫き、宿場町サブレへの橋を過ぎた辺りで地に落ちる。

 空気が震えると共に橋は崩れ、森の一部が抉れる。


 幸か不幸か、少女の体は風圧で横に弾かれただけであったが、意識は失ってしまっていた。


「‐‐‐ 30秒 ガ 経過 シマシタ ‐‐‐」


 戦士の鎧はスッと消え、レイジはそのまま地面へと倒れ込んだ。


 翌朝の宿場町サブレにて、

 老騎士が眠気眼を擦りながら外へ出た。

 軽くストレッチをして振り返り、門と石壁を見て言った。

「この亀裂は…なんじゃ…。」


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