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有限は無限に語りだす。  作者: 向日雪音
本編
4/11

『天才』 ~上~

おはこんばんちは、向日です!

あっ、向日です……って言うと「無効です!」と勢いよく言っているみたいで、何かの効果を妨げたり無効化しているみたいでカッコいいですね、皆さんも使ってみてください!

さてさて、二週間ぶりの更新です。

宣言通りの更新でございます。

遅い?

ごめんなさい、遅いです……激遅の筆なので更新も遅めです(・・;)

ただ、出来るだけまとまった内容なのと、

少しでも「あっ!」と思う内容を書こうとすると、知らぬ間にこんな始末です。

どうぞご容赦頂ければと思います。

今回はタイトルの通り、前半と後半があります。

後半は今日のの19時に投稿しますので、それまで楽しみに待っていただければと言うことと、

結構世界観に関する文言が出てきて?マークが飛ぶかもしれませんが、

ゆったり読んで頂ければと思います!

あとがきも後半の最後に!


それでは、時間の許す限り貴方を御話の世界へと導きましょう。

 天才とは、未来からの落とし子だと私は思います。

 では、今回規定する天才とは?

 現代において生まれる予定ではなかった、理論やモノ……通常の進化の過程と異なる新たな概念を生み出す〝ソレ〟を指します。

 例えば、現代社会にワープ技術が出来てしまう――とか。

 こんなことを出来る人物が現れてしまえば、人間社会が大きく進歩するどころか、文明の特異点として未来永劫語り継がれる歴史の分岐点となるでしょうね。

 その時代だと、英雄扱いもされるでしょう。

 かつて、私が世界に持て(はや)されたように、価値ある未来への寄与に対する賞賛と残りゆく過去が見せる弾劾の二つを見るでしょう。

 そこに人間の醜悪や欲望を全て詰め込み、一人の人間に注ぎ込まれます。

 少し先の技術を知り、再現できる術を有するが故に人々の大罪の受け皿となります。

 不変性の御旗を掲げる社会の抑止力によって、大胆かつ強引に未来人は糾弾されます。未来、自分たちが使うツールだったとしても、彼らは抗うのです。

 理由なんてないまま――情動のままに。




     ◇◇◇



 

――カランコロンと……いつもなら扉を開くと鐘の音が来客を告げるのですが、


「たのもーっ!」


 ドガッと豪快かつ軽快、更にはパッションを感じさせる扉の開き方をしました。ぎりぎりドアが壊れない開き方なだけ、許しておくとしましょう。


「むむぅ」


 ただ私以外にも複雑な顔をする子はいるようで、ポーションの瓶を拭いていた私の弟子――アスカは唸り声をあげて、来たお客様を睨んでいました。


「おっ、ここが魔女の薬局かぁ。

 私のアトリエと雰囲気似ていて、気に入った!」


 しかし、そんなものはお構いなし。

 豪胆な振る舞いを続ける〝少女〟はアスカを無視して、隅から隅へと視線を巡らしながら店内を歩いて感動や賞賛を口々に述べておりました。

 そんな彼女の出で立ちを見て、私は息を呑んでいました。

 麦畑を彷彿とする艶やかな金髪は腰まで伸びていて、丁度腰の辺りで蒼いリボンを使ってまとめ上げています。サファイアの色をした瞳はギラギラと在るべき世界を捉えていて、スタイルは少女にしては引き締まっていて、へこむ部位と出る部位が弁えていました。

 だけど、なにより私の目が引いたものがありました。


(右腕――〝義手〟ですね)


 それも高い技術力を注ぎ込まれ作られたものと、科学分野に疎い私でも一目で分かってしまいました。

 精密に駆動する剥き出しのパーツの数々は、無駄を一切省いた最適な動きを続けています。どのパーツが何の動きに作用するかは、さっぱり分かりませんが機械美という言葉が具現化したならば、きっと右腕のようなものを指すのでしょう。

 素人にそう言わせるまでの芸術が、目の前に在ったのですから。


「いらっしゃいませ」


 私――シャルロットが恒例の挨拶を遅れてしまうのも、無理はないでしょう。最初からいつものようにカウンターで座っていたのですが、逆に仇となってしまったようです。


「おぉっ、あなたが〝有限の魔女〟さんね!」


 私が挨拶を終えると、彼女は足音を立てながらずんずんとカウンターの方に向かってきました。


「いかにも、それで……あなたの御用件は?」


「あのね」


 精神年齢は高めではないのか、明るい表情や醸し出す雰囲気は年相応の少女だったのですが、一変して表情を曇らせ、こう言ったのでした。




「私を――消して」




     ◇◇◇




 刹那、頭が真っ白になってしまいました。

 浮かない表情は変わらないのですが、瞳が差し迫った様子で訳アリの事情を抱えていそうです。まぁ、抱えてない方が私のお店に来るはずもないのですが。


「それは、どういう意味で〝消して〟ほしいのですか?」


 生憎、私は性格が良い方ではないので、敢えて御本人の口から要求を述べてもらいます。

 すると、お客様は唸り声をあげながら私の予想通りの答えが返ってきました。


「単刀直入に言うと、殺してほしいってことかな」


「しつれいですが、おきゃくさま」


 でもって、今まで我慢してきた小さな店員さんの堪忍袋の緒が切れたようで、幼くも目一杯大きな声を張り上げます。


「ここはあくまでやっきょくでございます。

 ひとのせいさつよだつをするばしょじゃありませんので、

 おきゃくさまのねがいはかなえられません」


 あら、生殺与奪(せいさつよだつ)なんて言葉をどこで習ったのでしょうか、後でどこかワンコに事情徴収をしなければなりませんね――なんて私が子供を育てる親の気持ちを噛みしめていると、


「おかえりください、おきゃくさま」


 アスカは小さな身体で大きな出入り口の扉を頑張って開けて、鋭い眼光でお客様を威圧しながら、最後まで言葉を言い切ってしまったようです。


「ありゃま、困ったなぁ」


 小さな店員さんによる行動に、流石のお客様も頬を掻きながらお困りの表情を私に向けてきましたので、私も事実を述べるとしましょう。


「お客様、当店はあくまで〝薬局〟でございます。

 人の命を厳守する場において、余りにも愚問ではございませんか?」


「やっぱりそっか、ダメかぁ」


 綺麗な風貌とは何処に「うがぁ~」と、まるで獣のような唸り声をあげながら両手で髪を掻いている姿は、生まれと育ちが完全に不一致だったという背景を想像させてしまい、何故かこのお客様のことを心配に思い始めてしまいました。

 それに近くない未来、首吊りで自殺したとか、他店で買った薬を大量投与して自殺した、なんて新聞記事を読むのも気が悪いです。


「でも、何かお困りごとでございましたら、相談ぐらいには乗りますよ?」


 何気ない提案、含まれる感情は店主としてお客様のお悩み解決が出来れば程度だったのですが……これが得策ではなかったようで、


「ほんとっ!

 じゃあね、一つ私の相談に乗ってほしいな。

 あっ、勿論報酬込々でいいかな!」


 死にかけた魚に水をあげてしまったようです。

 生き生きとして口からは言葉と感情が零れていきます。更には、自身のつなぎのポケットに手を突っ込んだと思えば、カウンターに荒々しく六枚の金貨が叩き付け、最後には太陽も顔負けのスマイルをお見舞いされました。


「おししょうさま?」


 むすぅと今にもお客様を帰せと言わんばかりのアスカに、私は少々困り果てた笑顔を浮かべてしまいました。


「アスカ、戻ってきて紅茶とお菓子の準備をしてください」


 ――本当はこんなつもりじゃなくて、アスカと同意見で他殺を任された時点でお帰り頂く予定だったのですが、一度は傍観者視点になってみるものだと改めて感じてしまいました。


「……はい、分かりました」


 純粋なアスカには、申し訳ないことをしてしまったと思います。その上でしっかりと店員として、弟子として、私の言葉を受け止めるアスカは私よりも何倍もお利口さんだなぁと思いました。

 渋々開けた扉を閉めると、パタパタと店の奥へと姿を消しました。あっ、横切る時に私だけに聞こえる声で「ごめんなさい、おししょうさま」と小さな声で言うのは反則です、しかも照れ隠しと出過ぎた真似をしたと分かっている表情だったので、尚のこと反則です。

 シャルロットとして、後で謝らなきゃいけないですね。

 店内には、私とお客様のみになり、


「いやぁ、後であの子には謝っとかなきゃね」


 ぼそりと呟いた一声目がこれでした。

 顔にも同じことが書いているので、裏表のない性格の持ち主なのでしょう。だからこそ、余計に先の言葉が気になってしまいました。


「お客様が気にすることではないのですよ、

 ただ少しだけあの子は生死に対しては敏感な面がございまして」


「ふむふむ、理由とかって聞かせてもらえたりする?」


「目の前で屍人グールに両親を殺されていまして、

 私が弟子として引き取ったのですよ」


「あぁ……そりゃぁ悪いことしちゃったなぁ。

 嫌だよね、お父さんとお母さんが殺されたのを目の当たりにしてさ、

 あんな話されたら」


 どうやらテンションに起伏が激しい方のようです。店内を見回っている時はテンションが高かったのに、まるで萎んだ風船のようです。


「しかし、それはお客様の知らない情報でしたから、

 知らないことまで気にされていましたら、胃に穴が開きますよ?」


「それでもね、それでも……気にならない?」


「私は〝気に出来ません〟ね、会ってすぐの方から手に入る情報なんて微々たるものですから」


「相手がどんな人でもそう言える?」


「そうです」


「そうだよね、普通はそうだよ」


 今度は頭を俯きがちにし、遠くの誰かに語るようでした。

 何やら、お客様の抱える闇が這い出てきている様子です。見たところでは魔女でもなければ錬金術師でもなさそうなので、一般的な人間なのでしょうが、余りにも〝異質〟さが溢れ出ております。

 果たしてそれが、私に理解出来ない感情か、それとも当人の問題なのか、はたまた義手を見てそう思うのか。

 その答えがもうすぐ目の当たりにするでしょう。

 きっと私は、()()してしまうでしょうね




     ◇◇◇




「こうちゃです、

 ほんじつはわんこさんがとってきてくれたちゃばをつかっていれてみました。

 おかしは〝ばーむくーへん〟です!」


 せっせと店の奥から二人分のティーセット一式とバームクーヘンの置かれたお皿とを持ってきて、私の隣の席に座ったアスカは先程までの高圧的な表情が消えて、いつもの明るいアスカに戻っていました。

 それでもアスカはまだ子供、お客様とは意図的に顔を合わせませんでした。代わりにですが、


「わぁぉ、こんな美味しそうなバームクーヘンは初めてだよ。

 ありがとうね、お弟子ちゃん。それとさっきはごめんね、

 唐突にあんなこと言っちゃって」

 

 相手の方が一つ大人な対応をして見せたのでした。

 ぷくりと頬を膨らませてアスカは、


「べつにきにしていません、

 わたしもですぎたまねをしたので、おあいこです」


 アスカなりに謝罪の言葉を述べたのでした。ただ私はよくても、接客としてはグレーゾーンですので、私が間を取り持つとします。


「改めて……失礼致しました、私の弟子がお客様に無礼を働いてしまって」


「いいよ、そんなに改まってもらわなくて。

 その丁寧に淹れてもらった紅茶を見たら、

 ツンデレな子だとも思えちゃったし、ねっ!」


 おやおや、アスカが顔を真っ赤にして更にお客様からそっぽを向いてしまいました。お客様もアスカの反応に満足だったらしく、笑顔でティーカップを手に持ち、一口……私もタイミングを合わせて一口頂きます。

 お客様はホッと一息吐くと、今度はカウンター越しに義手じゃない方の手が伸びてくると、アスカの頭をわしゃわしゃと撫で始めました。


「すっごく美味しいよ、ありがとうね!」


「やめてください、かみが、かみがみだれ……うぅっ!」


(あぁ、本当に可愛いな)


 はっ――平和な時が流れ過ぎていて、危うく本職を忘れかけていました。私はドッグテイマー、ドッグテイマー……いえ、違いますね。魔女です魔女、忘れてなんかいませんよ?


「こほんっ、それで悩みとは何ですか?」


 わざとらしく咳払いをして、仕切り直しをします。同時に、お客様が撫でる手を止めて、席に座りなおします。


「あのね、私はこれでも某国では御嬢様だったりする訳なのよね」


 それを察してか、ゆっくりと悩みを語り始めました。

 冒頭部分は悩みと言うより、羨ましい身分紹介ですが。


「でも、私の両親が厳格な人で、何でも品行や礼儀や儀式を重んじる人だった。

 私は二人が大嫌いでね、尚且つ私ってこんな性格だということもあって、

 父よりのおじいちゃんの所に逃げたの」


「両親とは相容れなかったのですね、でもどうして父よりの祖父の家へ?」


「ウチのお父様って平凡な身分でね、貴族のお母様の家に嫁ぎに行ったの。

 所謂(いわゆる)、階級差結婚だった訳なの。

 お母様側の家系は古くからの貴族だから、

 祖父母が厳しいのは昔から知っていたし、

 逃げる場所がお父様寄りのおじいちゃんしかなかったの。

 これが、私が十三歳のお話」


「その、おじいちゃんはやさしかったですか?」


 何か不穏な空気を感じ取ったのか、アスカも会話に混ざろうとします。お客様もそれに嫌な顔一つせずに、笑顔で答えました。


「うん、とても優しい人だったよ。

 六十歳を過ぎても自分のアトリエで多くの科学にまつわる製品を作っていて、

 町一番の科学技術者だった」


「もしかして、その義手も御爺様に作ってもらったものですか?」


「そうだよ、すごいでしょこれ」


 そう言って、お客様はカウンターに自らの義手を置いて、見せてくださいました。

 近くで見ると、その重厚たる煌めきはお爺様という職人の生涯が詰め込まれている気がしました。メンテナンスも丹精に行われているようで、錆び一つ付いていない新品同然の義手は、永遠に持ち主を守り抜く覚悟と共に在らんとしているようでした。


 ――私とは、似て非なる〝()()()〟でした。



「えぇ、とても。芸術品みたいですね」


「たはは、それをウチのおじいちゃんにも聞かせてやりたかったなぁ」

 

まるで自分の事みたいに喜ぶ姿には、年相応の表情が浮かんでいました。アスカも義手の甲を触ったりして、感嘆や驚きを隠せない様子で、こちらもやはり年相応の好奇心があるのだと、感心してしまいました。


「けど、一週間前に殺されちゃったの」


「えっ」


 声をあげたのはアスカ、私も声は出しませんでしたが驚きを隠せませんでした。悲愴に満ちた表情を浮かべ、お客様は続けます。



「理由はおじいちゃんが開発した技術――錬金術と魔法を同時に行使出来る術を、

 〝人間〟という身で完成させてしまったからかな」


 さらりと語った内容には魔法・錬金術・科学の三つの世界を震撼させる、世の事柄を平然と言ってのけるものでした。



 本来、魔法は勇者・魔女・魔法使いの血統を有している者しか使えず、錬金術師はそれ以外の特殊な血統の者しか使えない、科学は〝人間〟であればだれでも使えると言うのが、この世の中の定説です。


〝魔法〟は超越した今を具現化する術。

〝錬金術〟は過去の技術を今に最適化した状態で具現化する術。

〝科学〟は未来の技術を今に掴み取る為の術。


 三者は常に世の中の覇権を握り、争いを繰り広げています。そして、科学が今と過去を共に操る術を手にしてしまったとしたら、結果は決まっているでしょう。


 今と過去に、未来は潰されてしまいます。


 理由は簡単です、今と過去は未来を変える権利があるから、見据えた未来を見たくないと今と過去が否定すると、未来は自ずと閉じていきます。

 彼らは、来る未来を否定したのです。

 一人の天才を殺すことで、混沌を安寧と見立ててバランスを取ったともいえるのかもしれませんね。


「ということは、御爺様は〝錬金術師〟の〝科学者〟だったのですね」


「あれ、私一言もそんなこと言ってないけど、どうして?」


 不思議そうに頭を傾けるお客様、キョトンとした表情には愛らしさが詰まっていました。

 私は言葉にするか悩みましたが、意を決して口にしました。


「あの義手には錬金術を施した後があって、

 あそこまでの繊細な機械を作り上げるには相当な技術が必要です。

 尚且つ、錬金術師には魔法学の素養が無ければなれませんし、

 お客様の母寄りの血筋が貴族ということは、

 魔女や勇者の血が混ざっていてもおかしくはないはずですね。

 つまり、錬金術にも通じていて科学を深く享受している御方、

 そこに魔法を継承出来る混血であるお客様が存在しない限り、

 義手は制作不可能と私は推察してみましたが、如何でしょうか?」


「……なんだ、ほぼ的中じゃないの」


 困り果てた表情を浮かべるお客様は、生身の腕の方で頬を掻いた。

 彼女も相当に苦労人みたいです。

 言葉にすると簡単に聞こえると思いますが、彼女が受けてきた言葉の数々が反面教師となって、今の彼女の人格を形成している。果たして、どんな人生を経て私と相対し、消してほしいと言ったのかは笑顔の仮面を剥いだ先にしか見えないのかもしれません。

 なればこそ、ここからは本当の推論であり、私の直感でしかないのですが、この言葉を口にしないのは、お客様に失礼です。

 敬意を以って、私は言葉を口にします。



「そりゃ当然でしょう、私も()()と同じ〝()()〟と呼ばれた人ですから」



「……ホント、やな魔女さん」


 途端にお客様の醸し出す雰囲気が一転、嫌な気配が店の中を包み込みます。些細な影からも(うごめ)く何かを感じさせ、冷たい眼光は虚構に満ちていて私の瞳を射抜きます。

 魔法を撃つ為に必要な魔力の胎動を感じますが、肝心の殺意が感じられません。一つトリガーを引いてしまえば、私なんて簡単に失せるのにも関わらず。だからこそ、


「撃たないのですか?」


 私は問います。


「撃ちたいよ、殺したい。でも私には出来ないや」


 彼女は答えました。


「だって、撃ったら私も奴らと同じになっちゃう。

 そんな人間になるなら、私は潔く身投げするかな」


 ――静かに、宥めるように。


「恨みもない人を私には殺せない、殺せないよ」


 諦めるように。


「どうして、魔法使いはあんな非道なことが出来るのよ」


 怨嗟を吐くように。


「おじいちゃん……」


 悔恨が胸を握りつぶすように。


「なんで、()()()〝私〟が殺されないのよ」


 魔法が力なく霧散すると、カウンターでうつ伏せになった、生きる成功例の独白と嗚咽が混じった声が店内を包みます。

 左手は義手に添えて、誰かを思うように。

 店内の空気が外に感化してか、勢いよく雨が降り始める音が聞こえます。流れる雫は復讐を誓った仇敵への憎悪なのか、それとも愛する者を失った喪失感と慟哭(どうこく)なのか。

 私には分かりません。

 だけど一つ分かることは――この世は、一人の少女の心すら黒く染めてしまう、残酷な世界だということです。

 知識や力で上り詰めたとしても、世界が許容しなければ屠られる。教科書の一頁に掲載されてもおかしくない偉業を成し遂げても、評価されなければ、或いは殺してしまえば明るみには出ない。

 世界という、社会という抑止力が御爺様を誤認した。


 ただそれだけ。


 なのに――世界は少女に、今も()を向けようとする。




「……趣味が悪い魔法ね」


「おししょうさま?」


 未だ嗚咽が止まらないお客様はカウンターに頭を俯せ、アスカは私の呟きに何かを察したのか不安げに周囲をキョロキョロと見渡しています。

 私はというと、


()()()()()()()()


 新たな来客に事務的な挨拶を述べていました。

 扉に来客を告げるベルの音も、まして扉の開いた形跡すら無いにも関わらず、お客様は来客されておりました……()()()()



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