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巡りアイ

作者: 藤宮まりあ

別に積極的に死にたいと思ってた訳じゃない。

でも、そこまで人生楽しい訳でもなくて、自分に何か価値があるとも思えなくて、ただ、夜の街を彷徨いていた。


オトナ達は危ないなんて言うけど、あり得ない事件のニュースが連日のように放送されている現代で、夜が暗いなんて都市伝説なんじゃないかと思うくらい明かりで溢れた街だけが危ないなんて、私は思えなかった。


それでも、あまり人気の無い歩道橋の上で、独りぼーっと立ち止まるなんてことは、しない方が良かったのかもしれない。


「君、死にたいの?」


そんな私に声をかけてきたのは、いかにも真面目なサラリーマンって感じの男だった。

ちなみに私も、いかにも不良のギャルって見た目な訳じゃない。

特に何が学びたいって思って入った訳でもない大学も比較的真面目に通っている。


でも、そういう奴の方が本当は危なくて、いつ踏み外すともしれない場所を歩いていたりするんだ。


「……別に」


死にたいって言ったら殺されるのかなって思ったけど、死にたくないなんて嘘も付けなくて、そんな答えを返していた。


「そう」


男はそれ以上何も言わずに、でも立ち去る訳でもなく、私と少し間を空けて、同じように欄干に体重を預けた。


寄り添って居るわけではない。

でも、無関係な程離れている訳でもない。


そんな距離にいる人は初めてで、私は思わず逆に話しかけていた。


「私を、殺したいの?」


その言葉に、男はこっちを向いて、目を見開いた。


「どうしてそういう発想になるのかな?」

「だって、人気の無い所にいる他人を巻き込む犯罪の定番は殺人かなって。死にたいのかって聞かれたし」


そう言うと、男は何故か可笑しそうに笑った。


「普通は、女の子だったら強姦魔の方を心配すると思うんだけど」

「……貴方がすごい不細工だったら、疑ったかも」


別に、普段パートナーがいないからって理由で犯罪に走る奴だけじゃないと思うけどね、と前置きしてから、男は身体ごと私に向き直った。


「質問変更。君が思う、君の命の値段はいくらかな?」


命の値段。

そんな質問、マトモにされたんだったら怒るべきだ。

私にだって、産んでくれた両親がいる。でも、私には望まれて生まれた自信がない。

本当は家族にとって、私は邪魔だったんじゃないかと、生まれて来なければ良かったんじゃないかと思う日もある。


だから、少し悩んで私は答えた。


「0って言いたいところだけど、10000円、かな」

「そう」


さっきと同じように、ただそう言って、けど、今度は男は自分の財布を取りだし、福沢諭吉の顔の描かれたお札を1枚、私に差し出してきた。

余りにも手に取りやすい場所に差し出されて、思わず私は受け取ってしまった。


「じゃあ、この10000円で、君の命は俺が買った」

「買ったって、私はモノじゃないんだけど」

「別に、10000円ぽっちで君の自由を奪おうなんて思ってないよ。ただ、俺が買った命だから、勝手に死なないこと。死んでもいいなんて思わないこと」


男が言っていることは、冷静に考えれば、筋なんて通ってない気がする。

でも、私はそう言われた時に、確かに嬉しかったんだ。



そして私は少しずつ、人生が楽しいと思えるようになった。

子供の頃に大嫌いだったオトナ達と同じ年齢になったけど、何もかもが楽しくて、自分を中心に世界の全てが回っていた幼い頃のように、生きていたくて仕方ない。



今、私の中には、新しい小さな命が生まれている。



この命が生まれてくる場所は、ずっと変わらず、理想の楽園なんかじゃない。

泣く日もあるだろう。

胸が痛くて痛くて仕方ない日もあるだろう。

自分や、他人を傷つけたくなる時もあるかもしれない。


だけど、ここは楽しい所だって教えてあげたい。

どうか、貴方は自分に価値がないなんて思うことのないように。


上手く愛されなかった私でも、貴方をきちんと愛せるオトナになれるでしょうか?



きっと大丈夫だね。

私を愛してくれたあの人が、隣にいるから。

実は、以前は二次創作で書いたネタのリメイク版、といった形です。

当時は結末がもっと歪んだ愛情だった気がするのですが、こうなったのは、私自身の人生経験と想いの変化があったからだと思います。

親や家族との関係に悩む方、是非『毒親育ち』という本を手に取ってみてください。私も、いつかあのような影響を与えられる話を書けたらいいなと思っています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 内容を読んでいて、すごく共感しました。自分の存在価値なんて一人の人に必要とされれば、すごく価値のあるものになるんだと思い知りました。
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