我が家のお雑煮事情
かなめん様主催「エッセイ村」投稿作品。
エッセイです。
私は生まれも育ちも東京だ。
お正月のお雑煮は、醤油味のすまし汁、餅は焼いた角餅、それに鶏肉、みつば、里芋、にんじん、小松菜などの入ったものだ。これに、生まれた頃から慣れ親しんできた。
地方によってお雑煮にバリエーションがあるという話は以前から聞いていた。
従姉の嫁ぎ先は、エビの頭でだしを取った潮汁風だと言っていたし、テレビでもあちこちのお雑煮が紹介されたりする。
そしてそれが現実味を帯びてきたのは、やはり結婚したときだった。
旦那は生まれも育ちも生粋の京都人。
関西のほうでは、あまり醤油っからいのは好まれないという話は知っていたので、彼の味の好みをずいぶん模索した。京風料理の本を買ってみたり、姑に聞いてみたり。
当然、お雑煮の話も出てきた。
「ねえ、京都のお雑煮ってどんなの?」
「ああ、白味噌に丸餅やな」
さらりと旦那が答える。
「白味噌言うても、甘めの西京味噌やで。それに丸餅を入れて煮込むんや」
「え?お餅は焼かないの?」
「うん」
「ずいぶん違うんだねえ。それで、具は?」
「あらへん」
「え?」
「白味噌のお出汁の中に、丸餅だけやで。あ、かつお(かつおぶしのことね)をトッピングはするけどな」
これは実に驚いた。「そういう土地もあるんだなあ」と、東京のお雑煮とのあまりの違いに目から鱗が落ちたようだった。
さて、結婚直前、京都の家へ年末年始にかけてとまりがけで挨拶に行った。
正月を過ごすので、当然お雑煮も京都風のお雑煮を食べることになる。元旦に出されたお雑煮は、彼の言うとおり、西京味噌仕立てのおつゆの中に丸餅が鎮座していて、上に鰹節がどっさりトッピングされている。実に美味しかった。
「東京のお雑煮とずいぶん違って驚きました。東京はこれこれこういうお雑煮で、いろんな具が入るんですよ~」
と、猫被りつつ話をすると、笑いながら義母が言った。
「うちはな、お父さんが好き嫌いが多くてな、野菜とか一切食べへんねん。せやから、なんも具がはいってへんのや。ほかのうちは、大根やら京人参やら小松菜やら、いろいろ入ってんで」
なにっ!!
つまり旦那が説明したお雑煮は、「彼の実家のお雑煮」であって「京都のお雑煮」ではなかったのだ。
知らなかったら、あちこちで間違った情報をしゃべくりまくっていたかもしれない。
あとで旦那に文句を言ったら、「俺は小さい頃からそうやったからなあ」と、とぼけてるのか天然なのかわからない返事が返ってきた。
嫁ぎ先のお国事情を人に話すときは、きちんと確認してからにしようと心に誓ったのだった。




