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妖怪事件と銃少女後





ただ不必要に広い古教会で、私の足音だけが虚しくも響く。

ここ反響良すぎでしょう・・・?

と私は試しに手に持ったティーカップを地面に落としてみる。

ティーカップは簡単に砕け散ると、

とても甲高い音がずっと教会に響き渡る。


・・・ああイライラする・・・!

なんでだろう・・・

どうしてこうなったのか、私は自問自答を繰り返す。



「ねぇ・・・サンジェルマン・・・。

殺し屋に弟子入りって事なんだろうけど・・・。

これじゃあ・・・単なる使用人じゃない・・・!!」



私は積もりに積もった怒りを叫んだ

チクショウ・・・

あのパーバションと蝶亡との事件の後・・・

私は殺し屋修行を始められると思っていた、なのに・・・

肝心の師匠たる“悪魔憑き”のディアスは私をこき使うのだ


例えば皿洗いに古教会の掃除、洋服の洗濯に料理。

ディアスはカッコつけて“悪魔の教会”なんて言っているけど、

長年、ろくに人も訪ねてないせいで

ホコリまみれの汚れ廃教会じゃない・・・。


殺し屋らしい修行は最初の一回を最後に私は使用人状態である。

ちなみに最初で最後の殺し屋らしい修行は・・・

ディアスと一緒に広場に集まる一般市民の虐殺。

まぁ・・・修行というよりは鬱憤晴しに近い・・・。


何よ、女がぎゃーぎゃーうるさいから殺そう!って!

軽すぎやしない?そして贅沢すぎな悩みじゃない?

お兄ちゃんでも女共を鬱陶しいと思っていても我慢してたというのに!


今日と言う今日こそは・・・!

ディアスのひん曲がった根性叩き直して

真面目に修行をさせてもらうわ・・・!


私はそう、胸に誓い。

目の前の黒い扉・・・。

ディアスの部屋の扉を蹴破った。


黒い寝具が部屋の奥の方にあり

部屋の中は主に黒色で統一されている。

最初、この部屋に入った時は教会なのに都会的だなと思った。

が、今見ればこの部屋はとても変な部屋だ。


窓はたった一つしかなく、そこから差す日差しを避けるように

寝具が奥の方に置いてあるようだ。

生活感がある部屋にも関わらず、

よくよく考えてみると変な部屋・・・。


私はベットの上で寝ているディアスに近づく・・・



「ん?なんだラルー夜這いか?」


「この私がこんな男に夜這いをかけると思って・・・?

悪夢を見せてあげようか?アルム」



気配もなく私の隣に突然、現れた謎の男は

馴れ馴れしく私に話しかける。

コイツの名前はアールム・ケイだとか・・・。

でも面倒だという理由と、パーバションの真似で

アルムと略して呼んでいる。


黒に限りなく近い紺色の髪に深紅の瞳・・・。

頭の頂点から足の先まで、完全に計算し尽くされているのでは?

と疑問さえ感じさせるほどその男は完璧に整った容姿をしている。


コイツは悪魔。

ディアスと契約を交わしディアスに憑いている悪魔なのだ。


悪魔の姿にはあまり定まったモノはなく、

契約者に合わせて姿を変えるようだが

ディアス本人は別にどれだけの絶世の美女の姿をしていても

所詮は悪魔なのだと割り切っているので


アルムはディアスの好みに合った女の姿ではなく、

仲間として男の姿をしている。



「悪魔に悪夢を見せるとは、色々と無理があるぞ?

ラルー、何の用でこの部屋に来た?

どうせディアスの返り討ちに遭うぞ」


「はん!ここしばらく私が黙って使用人の立場に

甘んじていると思ったか・・・?

ディアスの致命的な弱点をようやく掴めたのさ・・・!」


「!?

それは本当か?」


「確かよ」



私は不敵に笑って見せた。

確かな勝算に自信で満ち満ちているのだ。


私は静かに眠るディアスの上に覆いかぶさる形で乗りかかる。

そしてディアスの耳元で



「ディアス」



そう囁いた。


するとすぐにディアスは眠たそうな重いまぶたを僅かに開いて

私の姿を確認すると



「・・・夜這いですか・・・?

眠いんです、勘弁してください・・・」


「・・・ディアス・・・今は朝だし、夜這いって何よ!

起きなさいっ・・・!」


「私は夜型人間なんだ、朝に目覚めるなど死ぬ・・・」


「・・・悪魔憑きって・・・日の光に弱いの?」


「そういうワケではありません・・・

ただ単に私が朝に弱いだけです」


「・・・なら、私がサンジェルマンと結婚すると言っても?」


「はいっ!?」



私がおもむろにそう発言すると

驚いたディアスはその紅い瞳を見開いて飛び起きた

あまりの力に私はディアスの上に乗りかかっていたのに

あっという間に逆に押し倒される形になる。

え?これじゃ、いつぞやの二の舞・・・?



「一体、どういう事なのか説明してもらえませんか・・・?

ラルー・・・」



ディアスは怒りが見え隠れするのを抑えつつ

無理やり笑っているように見える。

おいおい、怖いのは気のせいでしょうか・・・?



「クク、逆鱗に触れたなラルー」



視界の片隅でアルムがケタケタと笑っている。

え、逆鱗ですか・・・?

何で?


私の作戦では・・・。


弟子である私が突然、知り合いであるサンジェルマンと結婚する事になり

ここを出る事になりましたー、とディアスに伝えると大激怒。

大事な雑用人をあろう事か知り合いのサンジェルマンに取られて

怒りの末に飛び起きる、そしてサンジェルマンに殴り込み。

でもそんな事実などない事が判明。

ディアス赤っ恥をかく。という計画だったのだが・・・。



ディアスは何故かサンジェルマンとは妙な因縁があるようで

女の取り合いをしたとかなんとか・・・。

ま、サンジェルマンの方は純粋に女性の親しい友人として支持を得て

圧勝したとかなんとか・・・。


とにかくそういう事もあって、きっと私まで取られたら黙っていないだろう

と考えた次第ですが・・・。

逆鱗ってどゆこと・・・?



「えーと・・・あ、ドッキリ・・・でしたー!」


「・・・ドッキリですか」


「うん、ドッキリでーす・・・面白かったー?」


「・・・ちょっとコッチに来てもらいましょうか」


「コッチてどっちー?」


「・・・一旦、寝てください」


「え」



終始、ピリピリとした怒りのオーラを滲ませつつ

ディアスは笑顔で対応してくれたが、

私が間の抜けた返答を返すと癪に障ったのかディアスは私の頭に触れると

次の瞬間、私は気を失った・・・。


・・・てか、気絶し過ぎでしょ私ー?





・・・・






「ふあ・・・・?」


「目覚めましたか」


「・・・嗚呼、なんという奇遇。デジャブを感じます」



私は気が付くと走行中の車の助手席で座らせた状態で寝ていたようだ。



「えと・・・この車はどこに向かっているのかなー・・・?」



運転席で車の操縦をしているのはディアス。

車を持っていた事も知らなかったが・・・運転免許証は・・・?


後ろの座席で退屈そうに倒れているアルムは私が目覚めたら

やたら愉快そうにケタケタと笑っている。

な、何か嫌な予感が致しますねーコレ・・・?



「で、改めてどうしてあんな嘘を吐いたのか・・・

説明してもらいましょうか」


「それより行き先が気になりますが・・・」


「はい?何ですか?」


「・・・いえ、何でもありません!」



私は空気を切り替えようとするディアスに反抗して行き先を聞くと

ディアスは満面の笑みで私の言葉を聞き返す。

だがその笑みを見て私は・・・

この世の恐ろしい何かの一端を見たようだ・・・!?


ディアスは本当に何者なのだろうか・・・?


“悪魔憑き”は普通にこういうヤツばかりなの・・・?


そういう疑問ばかりが思い浮かぶが解決に至らない・・・。

その為、心には

ぷかぷかと水に浮かぶボールがたくさん漂っているような

そんな感覚でいっぱいになるのだ・・・。


本当に、止めてほしい。



「その、いい加減

殺し屋の修行をして欲しくて・・・。

このままじゃ、私は単なる使用人になりそうなので・・・。

それを阻止しようと思いまして・・・」


「ほう?そんなに人を殺したいのですか」


「・・・というよりは仕事が欲しい」


「殺し屋、という職業はあまり良いものではありません・・・

それでも殺し屋になるのですか」


「それしか、私が出来る仕事はないじゃないですか・・・。

あるんですか?こんな私に出来る仕事」


「貴女の状態次第ではいくつかありますよ?」


「・・・私の状態次第・・・?」



私はディアスの言い放った言葉の意味が分からず

考え込む。ディアスから目線を外し、自分の膝を見下ろし

より深く考え込む・・・。


状態・・・?

それって私の健康状態の事?

いや、そんな事など私の様子を見れば分かる事だ。

だとすればディアスの言う“状態”とは少なくとも

健康状態ではないのだろう・・・

・・・分からない・・・・



「ね、貴方の言う“私の状態”って・・・何の事・・・?」


「単純な事ですよ、精神状態の事です」


「・・・精神・・・?てことは・・・私の心を探りたいの?」


「要するにそう言う事ですね」


「・・・変人ね、貴方。

好き好んで明らかに狂っている私の心を知りたいなんて・・・」


「どれくらい狂っているのかが、ここでは問題なんです」


「・・・?つまりは、狂い具合が問題?」


「貴女の心が今、何を欲しているのか・・・

それをハッキリさせなくてはなりません」


「・・・!!

まさか、今までの事は全部、計算だったという事・・・?」



私はディアスの真の目的をようやく理解して驚愕した。


この男、只者じゃない・・・!

サンジェルマンもそうなのだが・・・。

コイツはサンジェルマンとは性質が異なる。


事を正しく運ぶのを目的とするのがサンジェルマンなら、

このディアスは・・・事をいかに自分の思い通りに操れるかが問題なのだ。

だからその為にわざわざ、まわりくどい手法を取り相手を翻弄する・・・。

なんと悪質この上ない事か・・・!


今、この男は私を試しているのだ。

私が、どれだけ“殺し屋”としての人格を有しているか、

それにふさわしいか・・・。

殺し屋以外になろうものなら平常であり続けるか・・・。


その為にわざわざこの男は、

ずっと私を使用人の如くこき扱った・・・。

その度に私がストレスを溜め・・・我慢をし続けるのを狙って・・・。


つまり、ディアスは私が殺戮衝動に支配される人間かを探っているのだ。

殺戮こそに喜びを覚えるほど、私が狂っているか・・・。

それほど狂っていたら私は殺し屋以外の道で生きていけるはずがない。

そうする事によってもたらされる殺戮の被害を・・・

確認しようとしているのだ。


我慢すればするほど衝動に駆られやすくなるという

特性を利用するなんて・・・!



「貴方・・・気は確か・・・?

この事で、どれだけの人間が死ぬか分からないとは言え・・・。

確実に一人以上は死ぬのよ・・・?」


「貴方が狂っているように、世の中

狂っている人間なんてたくさん存在している・・・。

私も、その中の一人だ・・・。

私の気など、とっくの昔に触れていますよ」


「っ・・・!」



さすがにそれはマズイ・・・!

この車がどこに向かっているかは定かではないが、

罪もない一般人がたくさんいる場所に向かっているのは確かだ。

真面目に生きている一般人を好んで殺戮する理由なんて私にはない・・・!


私の学校の生徒教師を殺戮したのは

曲がりなりにもれっきとした怨みを持って殺したのであって・・・!

私はッ・・・!



「罪もない一般人だぁ・・・?

人間など、誰だって罪を犯している・・・。

だからあちこちで色んな人間が殺されまくってんだろう?」


「でも私には殺す理由がないわ!」



後ろの席で未だに笑っているアルムが私をそそのかす。

これから楽しそうな事が起きそうだから楽しげにしているが、

起こさせるワケには行かないんだ、悪魔め・・・!



「私はただでさえ、900人を殺して

弟を悲しませたのに・・・!

これ以上、殺したら弟に合わせる顔がないわ・・・!」


「弟思いなのは結構ですが、

人殺しに躊躇いを覚えるなど・・・

これから“殺し屋”になると言っている人が何を・・・」


「殺し屋に殺されるようなヤツがマトモなヤツなワケがないでしょう!」


「それは言えてますね・・・」



ディアスは私を説得する気がサラサラ無いようだ。

嫌が応でも私に殺戮させるつもりか・・・!?



「本当にその一般人はお前にとって罪もない人間か?

試してみろよ・・・。

お前は既に自身の異常性には気付いているはずだ・・・」


「何を今さら・・・」



アルムは勝利を確信していると言わんばかりに背後から

私の髪を引っ張る。

なんだよ、地味に痛いんだよ・・・・。



「止めろ」



私はアルムの手を叩く。

それでもケタケタと相変わず笑っている・・・。

・・・この・・・なんだよ・・・気味が悪い。



「着きましたよ」


「わ、アルムのせいで抵抗出来る時間がなくなったじゃない!」


「残念ですね・・・いい加減、観念してください。

例え、意外にも貴女がそれほど狂っていなかったとしても

使用人として私が貴女を可愛がりますから」


「色々と危険な香りがするけど・・・!?

ただ単にメイド服とか着せて、私を弄びたいだけでしょう・・・?」


「そうですが?」


「やっぱりか!そんなに私にメイド服を着せたいか!?」


「着せたいですね、よく似合いそうだ」


「残念でしたー!

メイド服を着せようモノならサンジェルマンが黙っていない!」


「それは考慮の内には入れていませんでした・・・」



ディアスは本気で落ち込む。

・・・サンジェルマンは安っぽいコスプレとか

大嫌いなんですよ・・・。

どうせ化けるなら徹底的にやる人なんですよ・・・。


その為、メイドさんをやるとなると

皆様がご想像するメイドさんとはかなり

かけ離れたメイドさんになっちゃう。


いつぞや巫女さんに化けようとした時も徹底的に色んな

巫女のモットー?を叩き込まれたし・・・。

呪術だとか、舞だとか、基本笑顔だとか、かなりキツかった。

(しかし、そのおかげで命拾いしたのである意味、良かったかも知れないし・・・

それにおかげで演技が上手くなったワケですし・・・一石二鳥だろうか?)



「おい、降りるぞ?」


「あ、何をするッ!?」



いつの間にか外に降りていたアルムが私を無理やり車から降ろそうとする。

当然、私は必死にジタバタと滅茶苦茶に暴れて抵抗する。


だがこき扱われた事による疲労とアルムが予想以上に強く、

アッサリ、車から引きずり下ろされる・・・・。

悔しい・・・悔しい・・・。


なので私はアルムの頭を叩こうとしたが、

アルムは素早く私が振り下ろす拳を掴む。

・・・チッ、殴れもしないのか・・・!



「無駄な抵抗だな」


「・・・この・・・!」



ドヤ顔のアルムに私はまたもイラつく。

マズイ、落ち着け私!

アルムの策略にハマってどうする!


コイツの目的は私を殺戮衝動に駆られさせる事。

その為に私を感情的にさせようとしているのだから、

まずは冷静にならなくては・・・!



「て、ここって・・・!?」


「あ?駅の広場だが?」


「定番だけど・・・!

ちょっとダメじゃないコレ!」



その駅の広場はかなり大規模な為か、色んな人達が行き交っている・・・。

スーツに身を包むサラリーマンに、ベビーカーを引く女性。

若い女子学生達が、大声で騒いでとてもうるさい・・・。

あまりにも人が多すぎる・・・!

これでは何人が犠牲になる事か・・・!


それに場所も場所。

監視カメラがたくさん設置されているはずだから、

犯行の映像から最終的には身元が割れてしまう・・・!



「一応、これを着けてください」


「へ?」



ディアスは無理やり私にカツラを被せる。

・・・ロングの金髪である。

更にサングラスも付けられた。

・・・コレじゃ、私はただの不審な外人女性じゃない・・・!?



「ここは監視カメラの死角となっています。

だから変装の様子がカメラに映る心配はありませんよ」


「なんでそんな事が分かるの・・・」


「知り合いのハッカーが教えてくれたのですが?」


「・・・ハッカーって凄いね・・・」



私はディアスから目を逸らし、

言葉にわざと感情を込めないように笑う。



「とりあえず、試すか」


「え、何をッ!?」



アルムはもう飽きたのか、金髪サングラス姿の私の背中を押して

駅の広場中央に立たせられる。

広場の通行人達の視線が私にあっという間に集まる。


・・・嗚呼、またか・・・


私は飽き飽きして、諦めのため息を吐いた。

・・・私の異常性。

どうしてアルムが私の異常性を知っているかは定かではないが、

それこそが私をずっと悩ませていた事柄である・・・。


精神の異常が目立つが、それ以上に私は・・・



「止めて」



私は呟いた。

目の前のサラリーマンと思しき男性に向けてだ。


革の鞄を振りかざそうとする男性は、明らかに私に敵意を向けて

固い鞄で私を殴ろうとしているのだ。


幾多の通行人達は私を取り囲むように集まって

わざわざ私の耳に聞こえるように悪口を言い合っている。

どれも理不尽な内容だ。



「あの子、ダサい」


「不愉快だ、死ね」


「邪魔」



誰も、私を知らない赤の他人のはずなのに・・・。

これこそが私の異常性。


私にとっては最も自身を苦しめるタネであった。


私は、必要以上に人から嫌われる傾向にあるのだ。


初対面の人に、本気で殺意を向けられるほど

憎まれて、恨まれて、嫌わすぎて・・・。

どうして嫌われるのか、心当たりなどない。


体質的に嫌われるのだ。

人は皆、本能的に私を拒む。

そのために私はいじめられたのかも知れない。

もし、私のこの異常性など無ければ・・・


きっと私の人生はもっと変わっていただろう。


しかし、今はそんな私にとっては当たり前の

日常的なこの修羅場をどう切り抜けるかが問題だ。


必死にそう思考を巡らせていると・・・。


頭に強い衝撃が加えられ、私は後ろによろめいた。

最終的には重力に逆らいきれず、地面に座り込んでしまった。


何か熱いモノが私の顔を伝うのを感じ取り、

咄嗟に手を当てた。

・・・血。真っ赤な、鮮血だ。


・・・最悪。

サラリーマンに殴られたのだ。


普通なら警察沙汰モノだが・・・。


私を取り囲む人達が一斉に拍手をする。

興奮した人々は私に罵声を浴びせ始める。


嗚呼・・・面倒だ。


当の警察も人間。

私のような弱者を守るはずの法律は全て、

私の前では無いも同然である。


もはや、こういう異常な状況に慣れてしまって

悲しみも怒りも、忘れてしまった。

今日はどの程度で済むのだろうか・・・?


有り金全てを巻き上げられる程度?

動けないほどボコボコに殴られる?

・・・遂に、殺される・・・?


興奮した私を殴ったサラリーマンがまた鞄を振り上げた。

私は目を瞑り、その痛みの時が過ぎるのを待った。



「・・・アレ・・・?」



だが、しばらく待とうとも痛みが降りかかる気配すらない・・・。

どういう事・・・?

私はそう、疑問から目を開けた。



「・・・!!」



声にならない私の戸惑いは誰にも届かなかった。

当然なのか、偶然なのか―――

否、この男は普通とは明らかに違うのだから必然だったのだ。

が、案外、この結末はありきたりなのだろう・・・。


黒いコートを翻し、紅い瞳の―――

 “不明の悪魔憑き”ディアス


彼が無抵抗に座る私の前に立ち、サラリーマンが振りかざす革の鞄を

掴み取り、地面に投げ捨てた。


―――そうだった

この人は違うんだった・・・。


私は驚愕と戸惑いに肩を震わせていた。

・・・そもそも私が裏でしか生きていけない、と思ったのは

普通の人には拒絶されてしまうこの体質のせい。

裏にいるような人間は感覚そのものが狂っているのだ。

その為なのか、裏の人間だけは私を拒絶しなかった。


だから、私は裏でしか生きていけない

そう、ディアスと知り合い確信した。


初めてディアスと知り合った時、

冗談のつもりで、狂言自殺をほのめかす言葉と共に

教会を立ち去ろうとしたとき、ディアスは私を止めた。


もし、ディアスが普通の人間だったのなら

“なら、殺してやる”とでも言って私を殺すだろう。

それなのに、彼は私を止めたのだ。



「・・・驚きました。

アルムが確信して広場に連れ出せば襲われる、

と言ったワケが分かりました・・・。

まさか本当に体質的に人災を引き寄せる人間がいるなんて、

夢にも思いませんでしたね」


「・・・それさえも利用するつもり、だったなんて

無茶極まりないわ・・・ディアス」


「それは褒め言葉と取ってもいいですね?」


「やっぱり貴方の感覚だけは理解し難いわ。

“読心能力”のおかげでなんとかやっていけるけど」



呆れつつも私は立ち上がる。


私を取り囲む通行人達は非常に困惑した様子で

ザワザワと戸惑いの言葉を呟いている・・・。

突然、ワケのわからない男が排除すべき対象をかばったのだから仕方がない。



「本当にお前にとってこの人間共は憎むべき対象ではないのか?」



不意に背後から囁くように

私をそそのかす悪魔の声、実に悪魔らしいわね・・・?



「・・・仕方がない事よ、彼らに悪意は無い。

そんなただ本能に従っただけの彼らを罰するなんて・・・。

理由にならないわ」


「本能に従って邪魔者を排除しようとした?

同種の人間を邪魔者と認識して挙句に排除しようとするなんて

随分と笑っちまう程、馬鹿な本能だなぁ・・・!?

そんな本能、在って良いわけ無いだろうが」


「っ・・・!」


「お前をいじめ、最終的にお前が殺した900人と

今ここでお前を排除しようとしている連中は結局、同類なんだ。

お前が憎んで殺したヤツラと同じ連中を・・・許せるのか?

味わった地獄はその程度なのか?」


「・・・・・・っ・・・!!

アハハ、ハハッ・・・!

・・・許さないッ!許せない、許すワケ無い!許すものか

味わった地獄はその程度なワケ無いでしょう・・・!?

あの最低で最悪な日々はもはや現実の悪夢よッ・・・!

でも、もうそれは終わった・・・!私が終わらせたッ・・・!

これ以上、何をしろと言うのッ・・・!?」


「どうせ、しばらくすればまた同じ事を繰り返す。

今度は馬鹿なガキ共のちっぽけな悪意とは桁が違うぞ?

遂に殺されるかも知れないだろう?

お前は・・・生きたいのか?なら自分でやるべき事をしろ!」


「・・・!!」



・・・まさか、悪魔に喝を入れられる事となるとは・・・・。

私は、生きたい。

ならば生きる為には・・・立ち上がらなくてはならない。


―――嗚呼、すっかり忘れてしまっていた。


“私は無知ゆえの白さなんていらない

大切な人を、想い出を、・・・愛を守る為なら・・・

どんな大罪にも手を染められる・・・!

何も無い故の白さなんていらない、大切なモノを守り抜いた末に

罪と、鮮血と、負の想いに汚れて・・・真っ黒く在ろう”


この決意を、忘れてはいけない・・・。

私は“白”ではない・・・“黒”だ・・・!


そして、私は・・・意識を手放した。





・・・・





気付けば私は血だまりの道をフラフラと彷徨っていた。

血だまり、というよりは・・・

肉片が散らばる紅い道、と言ったほうが良さそうだ。


ふと、視線を感じ

私は顔をあげた。



「・・・ああ、そう。

ディアスだったっけ・・・?」



一瞬、紅い瞳のその男が誰なのか解らなかった。

幸い、すぐに思い出せたからこれは忘れたの内には入らないよね?



「本当に貴女は凄いですね・・・」


「・・・?

何が・・・?」


「・・・気付いて下さいよ・・・?」


「・・・」



深刻そうにディアスは愛想笑いを浮かべていた。

私はただ、言われるがままにぼんやりとしつつも何かを探して

辺りをゆっくりと見回した。


・・・死体が、首を失くした死体がたくさん転がっている。

この状況に度肝を抜かさない自分に少し驚いたが、

よくよく考えてみれば私は前にも900人の生徒教師を殺したんだった。

よって、今のこの状況は前の時と比べるとまだ控えめなくらいだ。


だが・・・いくら探してみても変な事は無い。

ただ首なし死体がたくさん転がって地面が真っ赤に染っているだけで、

それ以上にも又はそれ以下にも、異常なモノは無い。



「・・・分からないのですか」


「分からない」


「では、この人をよく見てください」



ディアスは転がっている死体を掴み上げ、

その姿を私によく見えるように私の前に持ってくる。


体つきから男だろう、死体。

首は私が撥ねたため無くなっており。

血まみれの死体と化している。


この死体のどこが変なのかしら・・・?



「・・・一つ、貴女は女性だ。

なのに、大鎌を召喚して、たったひと振りで首を完全に切断した。

重量のある大鎌を振るって一撃で首を撥ねるなど恐るべき怪力だ」


「そうね、確かに私は普通では有り得ない怪力持ちだわ。

でも、そんな事は別に気にしないわ・・・?」


「・・・二つ、この死体は・・・誰だと思いますか?」


「・・・え?」



ディアスは神妙な様子で

私に問いかけてくる。


改めて私はその死体をよく見てみた。


ただの人間、私に負けた弱者。

それがどう重要なの・・・?


だが、その死体が着ている服装に気付き

やっと私は自分がしてしまったことに驚いた。



「そうです、貴女の気付いた通り。


この男は・・・警察です。

貴女は銃を発砲して抵抗してくる警察を皆殺しにした、

弾丸を斬って・・・貴女は、一体何者ですか?」



ディアスは真剣な剣幕で私の正体を探る。

そう、私は恐るべき力を有している。

でも・・・私でも自分の正体が分からないのだ。


今の自分を、何と呼べば良いのか・・・


もう、ディアスの元にはいれない、か・・・



「ごめんなさい、私は・・・史上最悪の怪物。

これ以上は貴方の手を煩わせるわけにはいかないわ、

だから・・・」


「貴女は何を勘違いしているのですか?

怪物ですか?それは私も同じ事だ。

ならば同類同士、協力するべきだと私は思う」


「・・・へ・・・?」



私は諦めの気持ちと共に

その場を立ち去ろうとしたが、またもやディアスは私の手を掴み

歩みを強制的に止められた。


ディアスは私の事を同類だと感じたらしい


私と彼が同類・・・?

根本から何もかもが違うのに・・・?



「安心してください、私は貴女の事が気に入りました。

決して見捨てたりはしません、

それに加え、貴女に殺し屋以外の道が無い事が分かったので

本格的に修行を始めましょう」



優しい笑みを浮かべたままに

ディアスは私の未来を、守ってくれた。


彼は・・・本当にワケのわからない男だ。


だけれど・・・彼のそんな言葉に私は確かな喜びを感じていた。

彼ならば私の未来を委ねても良いかもしれない・・・。



「おい、ラブコメみたいな展開を迎えているところ

悪いが警官共がまた来たぞ?」


「アルム、空気くらい読んでください?

このまま行けばキスくらいは出来るかも知れないのに・・・」


「はっ!俺が空気を読んでやる理由は無いな!」


「・・・一瞬でも未来を委ねても良いかも、

なんて思った私が間違っていました・・・・!」



アルムが警察がやって来た事を知らせてくれるも

ディアスの魂胆が発覚した。

アルムがいなければ私のファーストキスが奪われるところだったのか・・・

恐るべしディアス、そして油断がならない・・・!



「ああ、バレてしまいました・・・。

全くアルムのせいですよ」


「すぐ女に手を出そうとするお前の欲深さが悪い」


「貴様ら・・・!

後でお仕置きしても良いかしら・・・!?」


「ラルーがブチ切れたぞ!?」



バカ丸出しの会話をするディアスとアルムに

私の怒りの炎が燃え上がった。

私はそんじょそこらの女と同じ扱いか・・・!



「ストレス発散にあの警察共を皆殺しにしましょう・・・?

ふふふ・・・!いいわね・・・?」


「異論も認めない雰囲気がありますが・・・

さすがにこれ以上を殺ってしまうとマズイので退散しましょう

お仕置きも勘弁してください」


「あらら?そう・・・残念」



手にした大鎌を構え、再び警察共を殺ろうと思ったが

ディアスに止められた。

・・・・・・ちっ



「いい感じに狂っている女で良かったな。

長持ちしそうだ」


「何よ?ディアスの記憶にも残らないほど

持たない女と思われていたワケ?」


「弱そうだからな」


「弱そうなクセして狂っていて悪かったですね・・・!」


「そう怒るな」



アルムに馬鹿にされて私は思いっきり睨みつけた。

・・・だが、どんなに睨んでもへっちゃらと言わんばかりに

アルムは平静な様子を見せる。


この二人に敵うようになる日が来る事を全力で祈る。



ディアスが私の手を取り、近くに置かれたバイクに乗り込む。

アルムはいつの間にか消え失せていた。

ディアスの心の中にでも逃げ込んだか・・・。


鍵が掛かっているはずのバイクなのに、

ロックを解き、エンジンを吹かしていきなりバイクは走り出した。


バイクから振り落とされそうになり、

私は咄嗟にディアスに抱きついてしまった。


それにディアスは満足そうに笑っているのが見えた。


・・・にゃろう・・・いつか地獄を味あわせてやる・・・!


そう、私は心に誓い。

諦めながらディアスに左腕を回し、右手には召喚した銃を構え

私は後を追ってくる警察車両のタイヤに発砲した―――


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