月希姫の物語後 2。
「ご主人様~。ワン~・・・。」
「狐。ワンと鳴くな。狐じゃなくて犬かと錯覚してしまうでしょう?」
「狐はワンと鳴くんです~。」
「・・・。じゃ、コンと鳴け。」
「あくまでもイメージ通りにさせる気だ・・・!?」
酒に酔った狐と雑談をする。
昨日、盛大な宴を開いてみんなで楽しく酒の飲み比べなんかしてたが、
私とお兄ちゃん、カルムは酒にめちゃくちゃ強い為、
狐と猫、撃沈。
え?13歳の私が酒を飲んでもいいのか?ですって?
・・・。殺し屋という犯罪を既に犯している私に言う事かな?
「うー、ラルー、酒に強すぎ~・・・。どんな分野でも勝ち目がないとか
ラルーはチート・・・?」
「チートって事になるわね、私。
そしてお前は酒に弱過ぎだ、猫。」
「頭痛ー・・・。」
「おい、人の、それもご主人様の話を聞け、猫。」
「・・・。」
「チッ・・・。無視かよ・・・。」
「アンタ、口が凄く悪くなったね・・・。」
「・・・。お黙り。」
猫は酒に酔っているようだが、酔っ払ってる奴みたいな妙な行動はしない、
酒には弱くても酔いには強いって事?
飲み比べで生き残った私とお兄ちゃんとカルムはしばらく
飲み比べを続けてたが、全く決着がつかず先程、解散したばかりだ。
そういえば13歳の私がめちゃくちゃ酒に強いなんておかしな話ね?
「んー。退屈だなー。メイにゃん早く帰って来ないかなー。」
ちなみにメイにゃんはというと、
私が家に帰ってすぐ、月希姫達の住所を教えたら、出掛けて行った。
当然、月希姫達の下に行ったのだろう。
メイにゃんのご主人様は月希姫だから、一刻も早く、
月希姫の無事を確認したかったのだろう。
「そんなに退屈なら、あの仮面男を拷問しに行ったらどうなんですか?
ご主人様があの男を拷問していれば、欲求を満たすから
私が拷問されずに済むんで~。」
「狐。そう言う考えは隠す物でしょう?
それにそんな事言われたら狐を拷問したくなるわねー?」
「ひっ・・・!ご主人様、ドSにも程がッ・・・!!」
「誰がドSじゃ阿呆!!」
私は狐の尻尾を引っ張って叫ぶ。
そしたら涙目でイテテ、止めて。と呟く狐。
全然、痛そうにしてないのでつまんなくなり手を離す。
「はぁ・・・。ま、やる事なんてそれしかないし、
やって来るかー。」
かったるそうに私は拷問部屋に瞬間移動する。
この屋敷には様々な部屋が存在する。
ダンスホール、隠し部屋、礼拝堂、財宝部屋、
磔部屋、などなど・・・。
その中でも最も異彩を放つ部屋がある。
それが“拷問部屋”だ。
この屋敷を購入当時、拷問部屋はなかった。
私が拷問好きだったので、とある天井の高い部屋を拷問部屋とした。
そこには様々な拷問器具が置かれている。
メジャーな拷問器具から、珍しい物まで、なので様々な組み合わせで
拷問を行う事が出来る。うん、我ながら最高な部屋を作れたよ。
え?悪趣味だって?OK、悪趣味と思った人、親指潰し器の刑な。
「ぐ・・・。また私を拷問にかけるつもりか・・・。」
「あら?結構、悦んでたじゃない?」
「あれは悦んでいたのではなく、苦痛にもがいていたのだ。」
「その差がイマイチ解らないわねー?」
「思えば、歴史の人物の多くがサディストだった・・・。
何故、人はそんなサディストに従ったのだろう・・・?理解出来ぬ。」
「人類は誰しも敵に残酷なリーダーを求める物よ。
だからこそ、私やソノカみたいなリーダーが最も支持されやすい。」
「真に残虐だったのは、そのリーダーを支持していた民衆だったとな?」
「そう言う事ー。」
結構、深い話をする。
もし、イヲナが敵ではなく味方だったのなら、いいパートナーになれたの
かしら・・・・?
「さて・・・。西洋拷問フルコースだからね、
次は何にしようかしら・・・?」
そこで私はイヲナを縛っている鎖を掴み、
イヲナを踏みつける。そして鎖を引っ張ってイヲナの身体をより強く
縛りつける。
「っ・・・!ぬしは何がしたいのだ・・・!」
「私はイヲナの苦痛に歪んだ叫びを聞きたいのさ!
出来れば苦痛に歪んだ顔を見たいけど、イヲナの場合は出来ないから
ちょっと前はイヲナを拷問してもいい物なんてないって思ってたよ。
でもね・・・。気付いたの・・・。
イヲナを拷問して他にない楽しみ方が合った事にね・・・!
イヲナは顔が見れない代わりに叫び声を楽しめるって・・・!
だから!もっと!叫べ!悶え、苦しめ!そして私を満たせ!
クックック・・・!!アハハハハ・・・・!!」
狂喜の笑い声を漏らしながら私はイヲナを腕を掴み、
引き千切ろうと引っ張る。
イヲナの骨が軋む音と感触をじっくり味わいながらより力を強める。
そして遂に・・・。腕を・・・!
ここで私の意識がプッツリと、そう、張り詰めた糸が切れるように、
飛んだ。
「・・・!う、うああああ・・・!!」
私はとびきりの叫び声を上げて、激しい電気を辺りに走らせる。
だが、走った電気が何かに吸収され、消えた事を感じ取り、
私は飛び起きた。
「はぁ・・・!!くッ・・・!はぁ・・・・!!」
荒い息遣いを整えながら、私は辺りを見回す。
ここは拷問部屋だ。
・・・。イヲナを縛ってたはずの鎖がイヤミのつもりなのか、
私の前に転がっている。
チッ、イヲナを逃したか・・・。不愉快だなぁ・・・。
「私は逃げも隠れもせん、そう不愉快そうに鎖を睨むでない。」
「・・・?あれ・・・?」
背後からイヲナの声がするので、まさかと思い後ろを振り向く。
確かにイヲナだ。しかも、引きちぎったはずの腕も綺麗に再生されている。
「・・・。何で逃げなかったの・・・。」
「そなたを捕獲するのが私の使命なのだぞ?逃げる訳がなかろう。
それに、お前を放置する訳にもいかなかった。」
「・・・?何があったの・・・?」
「突然、倒れたのだ。
極度の睡眠不足だ。一体、どれだけの間、寝ていないのだ?」
「・・・!!ふん、腐っても私は人間って事・・・。」
「答えろ、どれだけの間、寝ておらんのだ?」
「・・・。多分・・・。一ヶ月。」
「・・・。一ヶ月の間、数多くの殺人の依頼をこなし、
数多くの我らの研究施設を破壊しながら、一睡もしていなかったとな?
本当にぬしは只者ではないな・・・。尚更、惚れ直すぞ?」
「黙れ変態。」
「変態のつもりなどないぞ?」
「ソーデスネー・・・。」
うん、確かに変態ではないわね、イヲナは・・・。
ただ単純に、美の感覚が狂っているだけだものね・・・。
私が狂っているのなら、イヲナだって狂っている。
「所で最初の作品。何故、起きて早々・・・」
「悪夢を見たのよ。」
「悪夢とな?」
「・・・。そうよ、理由なんて察しがつくでしょう?
貴方の知識なら・・・・。」
「・・・。ああ、察しがつく。」
イヲナは私の言いたい事を理解すると、
返事を返す。
「で、貴方はどうするつもり?また戦う?」
「いや、ここはぬしにとって有利過ぎる場所だ。
だから戦うとなれば私に勝ち目はないだろうな。」
「じゃ、どうするつもり?」
「・・・。どうしたものか・・・。」
「は?」
「今、私がすべき事が分からぬのだ。
出し抜かれてしまったカルムを取り返すか、
行方を眩ませてしまったナラスを探すか、
私の成すべき事が多すぎて、一体どうすればいいのかが、
分からぬ・・・。」
「・・・。ふーん・・・。じゃ、自分の好きな風に休んだら?」
「・・・!?ぬし、私に助言をするのか・・・?」
「助言のつもりなんてないわよ。
ただ、イヲナはずっと昔から邪魔男にずっと忠実に、
自分の意思を押さえて、休んでいる様子なんて見た事がないから・・・。」
「・・・。そうか、私の好きな風にすれば良いのだな?」
「ええ、そう言って・・・。」
すると、突然、私はイヲナに押し倒される。
は?何この状況。え?待って、どういう事?え?え?
「ならば、私はずっと欲しかった物を奪う事にしよう。
ラルー・・・。」
背筋に冷たい物を感じる・・・。
え?今、イヲナ私をラルーって呼んだ・・・?嘘だ嘘だ。
イヲナは私の事は最初の作品って呼ぶもん、そう、
これは悪夢の続きに違いない・・・。いつもと質が全然、違うけど・・・。
「あ、アハハハ・・・。そっかそっか、欲しい物を奪うんだね・・・。
うん・・・。それなら銀行とかに・・・・。」
「私が欲しいのは、ラルー。お前に決まっておろう。」
「・・・!嫌だ嫌だ。絶対、嫌だ。マジ勘弁して、
イヲナの“愛し方”はとっても嫌だ!!」
そう、イヲナの“愛し方”はハッキリ言って異常だ。
私が言うのもなんだが・・・。
ああゆう口説き方は女なので、心を奪われそうになるがしかし・・・!
ダメだ・・・!イヲナは・・・!マズイ・・・!
誰か・・・!助けて・・・!!
「ラルー?どうしたんだ?叫んで・・・。」
そこで、私の叫びを聞いたお兄ちゃんが拷問部屋に入って来る。
そして今の状態の私達を見る・・・。
「ちょっと、そこの仮面男・・・。僕の絶世の美女な妹から
離れてくんないかなぁ・・・!!」
未だかつてない怒りのオーラを滲ませながらお兄ちゃんがイヲナを
私から引き剥がす。
助かった・・・!さすがは兄弟、私の心の叫びを察知してくれたんだね!
お兄ちゃん!
「・・・。まぁ、事を急ぐ必要はないな・・・。」
「はぁ・・・!?事を急ぐ必要ってどういう意味だよ、仮面野郎!」
「いずれ必ず結ばれるのだから、急ぐ必要はないと言ったのだ。」
「結ばれる・・・。だと・・・!?僕の妹をそう安々と
結ばれると思ってんのかよ・・・!?」
「ああ、私がこやつを奪うのだからな?」
「ラルーは僕の妹だ!!お前なんかに渡す訳がない!!」
何故かお兄ちゃんとイヲナが口論を始める。
疲れた・・・。もう・・・。色々と疲れた・・・。
危うくイヲナに“愛される”所だったよ・・・。
イヲナの人の“愛し方”が異常な理由・・・。それは・・・。
「人を殺す事で“愛する”・・・。
つまり、イヲナに“愛される”事はすなわちイヲナに殺される事。
だからイヲナは嫌なのよ・・・!お兄ちゃん、私をイヲナに渡さないでね。
後、イヲナ、ここから出てけ、これ以上は私の身が危険だからね・・・。」
「私からすればぬしの方が異常だ。
人を殺す事で“救済”し“希望”を見い出そうとするその考えがな・・・。
そもそも首を片手だけで撥ねる時点、“救済”や“希望”からは
程遠いだろうに・・・。」
「うるさいわね・・・。
とにかく、出てけ!ここは私の家だ!」
「・・・。今日は少しばかり怒りを買いすぎたか・・・。
では、失礼する・・・・。」
そう言うと、イヲナは消える・・・。
「一体、何なんだよ!!
“愛してる”だぁ・・・!!?
おかしいだろ!昔のイヲナは僕やラルーを憎んでなかったっけ!!?」
「確かに昔は私達の事を憎んでたけど・・・。
最近、状況が変わったのよ・・・。ほら、愛と憎しみは紙一重って言う
でしょう?」
「本当、意味が解らない・・・・。」
「ええ、私も同じ気持ちよ・・・。」
確かに、ここ最近で状況が明らかに変わった・・・。
全く・・・。こういう状況の変化はあまり好きじゃないのよね・・・。
だって、どんなに状況が変化しても、結局は私にとって尚更、悪くなる
だけなんだもの・・・。
「ていうか、何でイヲナがここに・・・?」
「あ、そういえば説明していなかったわね・・・?」
「説明、頼みます・・・。」
そして私は月希姫達の出来事を説明した・・・。
「・・・。正義の味方的に暴れたな?」
「そんなつもりはないわよ・・・。」
「でも、良かったじゃないか、月希姫を幸せに導いたんだから。」
「・・・。そうね。」
「所で、ナラスはどうしたんだ?」
「・・・。説明・・・。したくはないわ・・・。」
「ナラスが・・・。どうしたんだよ・・・?
そもそも、カルムが何で戻ってきたのかも知らないし・・・。」
「ッ・・・!いつか・・・。いつか説明するわ・・・。
だから・・・。今は勘弁して・・・。」
「・・・。分かった・・・。ラルーがそう言うんだったら・・・。」
「ごめんなさい・・・。」
「ラルーが謝ることないだろ?辛い事があったって事が分かったし」
「・・・。ここで立ち話するのもなんだし・・・。リビングに
戻りましょう・・・?」
「そうだな。」
いずれは説明・・・。しなければね・・・。
その時が来るまで・・・。少しだけ状況を改善してみせるわ・・・!
私の物語は・・・。まだ終わっていないのだから・・・!