世田谷重症ニート殺人事件
「士郎さん! この部屋どうですか……」
「うむ、非常にアレだな。現代っ子と言うか。」
警部である摩奈川 士郎と新米刑事の遠坂 綸児は、遺体よりもまずその住んでいたアパートの一室を見た。
「イタイな。遺体だけに。」
「こんな時にオヤジギャグですか。」
「だって、イタイんだもん。」
そこらじゅうに散らばるエロそうな雑誌とお菓子のゴミ、二次元な女の子のポスターとアイドルのポスターで埋め尽くされた壁、色々なものが見えているフィギュア、血濡れた抱き枕、等身大のガチャピン、口では言えないもの、アニメキャラの着ぐるみの頭部、着せ替え人形、ピンク色のガンタンク。見れば見るほどに二人とはかけ離れたアクの強い空間。そこに、素っ裸であおむけになる小太りの男の死体。顔はなぜか幸せそうにすら見えた。
「死因は、出血性ショックか。」
「そうでしょうね、心臓をチョクですから。凶器は室内には残されていませんでした。」
「むう、で、この男は?」
綸児は、手に持った書類を読む。
「名前は、坂崎 台三郎34歳、独身無職。出身は愛知県春日井市で、両親は健在。この東京に単身暮らし始めたのは、6年前だそうです。」
「なんでまた東京に来たんだ?」士郎は首を傾げる。
「おそらく、仕事探しでもしようと思ったんじゃないですか? 東京ならチャンスがある! そう思ってくる人も少なくないでしょうから。そして、こんな風になったり鬱になったりして上手くいかない事も少なくないわけですが。」
「東京なんてそんなに良いかね? 俺はずっと住んでるけど、空気悪いし、物騒だし、ロクでもないヤツが多いし。田舎でのびのび生きてる方がよっぽど幸せだと思うがなぁ。で、犯人の目星は付いてるのか?」
「そうですね、被害者は殆ど人づきあいがなかったようです。このアパートの住人も、彼しか見ていないようですから。」
「寂しいもんだな。」
「両親は殺害時刻には地元の愛知にいたとの事です。そのうち、ここに来ると思いますが、この部屋を見たら……何と言いますかね?」
「目を、覆いそうだな。」
士郎はそう言って、額に手を当てた。