防犯のアナ
先日、なんの気なしにネットのサイトをぼんやり眺めていたら、ある賃貸マンションで起きたおそろしい事件の話が目に飛び込んできたのだった。
話によると、一人暮らしを始めたばかりの女子大学生が、駅で偶然目があっただけの男に勝手に「自分に気がある」と思い込まれ、尾行の末に部屋を特定されてしまったらしい。
しかも男は外壁やバルコニーをよじ登り、彼女の部屋のベランダに半日も潜伏。
その半日もバルコニーで耐える気概を別に生かせば、どのような困難でも突破できると思うのだが、性欲とは業なものである。
彼女が知らずに窓を開けた瞬間襲いかかり、取り返しのつかない卑劣な暴行をくわえたというのだから恐ろしい。
後書きには「自分が裁判官なら麻酔無しで睾丸を砕いてチン子切断の刑にしてやる」なんていう強い憤りの言葉まで書かれていたが、それほどの凄惨な性的暴行と危害を加えられたのだと思うと、命が助かったにせよ、まったく踏んだり蹴ったりというか、憤りを通り越して心底気の毒でならない。
彼女が住んでいたのはオートロックも防犯カメラも揃った最新マンションだったというのに、ガラスを割らずに鍵が開くのをじっと待つという手口のせいで、折角のシステムが作動しなかったらしい。
それだけでも恐ろしいのだが、被害に遭った4階の端部屋というのは、屋根や隣の建物からベランダへ降り立ちやすく、人通りからも死角になりやすいという「立地上の罠」まで抱えていたようなのだ。
ここでよくよく考えてみれば、実に理不尽で不気味な問題に行き当たる。
隣の建物の屋根や構造が足場になっていると言っても、借り手である個人が他人の敷地に勝手に防犯砂利を敷いたり、隣家の屋根を改修して忍び返しを取り付けたりすることなど、権利上できるはずもない。 つまり、自分の権利が及ばない外部環境に決定的な抜け穴が存在する時点で、どんなに高価なオートロックや防犯カメラを備えていようと、そのセキュリティ設備は「最初から機能していない(有ってもないモノ)」と同義なのだ。
建物単体にどんなに立派な防犯設備を整えておいても、周辺環境や建物の配置そのものに穴があれば、スキを突いてあっさり突破されてしまう。防犯は一軒や一室だけの閉じたシステムでは完結せず、その地域や立地の構造全体で成立していなければ、どんな優秀な防犯装置も、鍵のかからない金庫、ドロボウにも懐く番犬と変わらないのである。
そして理不尽なことに、建物の構造的な欠陥や外部環境の盲点を一個人の力で改修することはできない。結局のところ、自分が契約している防犯設備がどれほど最新であろうと「他人の敷地からの死角があるなら最初から無力化されている」と冷徹に割り切り、防犯設備そのものをハナからアテにせず警戒し続けるしかないのが現実なのだろう。
どんな場合でも、性犯罪被害と弁当は自分持ちなのだから。




