『身近でリアルな夢と現実』
航が高校生だった頃、兄は結婚した。
義姉は美人で、愛想もよく、誰からも「いいお嫁さんね」と言われていた。
だが、結婚を急いでいたのは兄ではなく義姉だった。
「二十六までには絶対結婚したいの。」
その言葉を、航も聞いていた。
当時は深く考えなかった。
早く結婚したい人なんだな、くらいにしか思わなかった。
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兄が結婚して数年。
義姉の口癖は変わっていた。
「私ばっかり損してる。」
「もっと稼いできてよ。」
「家族なんだから当たり前でしょ。」
兄は仕事を増やし、小遣いを減らし、休日は家事と育児に追われた。
それでも義姉は満足しなかった。
兄の誕生日は忘れるのに、自分の記念日は当然のように祝わせる。
兄が体調を崩して寝込んでも、
「病院行けば?」
その一言で終わり。
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ある日、航は兄に聞いた。
「兄ちゃん、義姉さんのこと好き?」
兄は少し困ったように笑った。
「好きだったよ。」
"だった。"
その過去形だけで十分だった。
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航は気づいた。
義姉が好きだったのは兄ではない。
"結婚"だった。
結婚という肩書き。
安定した生活。
周囲から「奥さん」と呼ばれる立場。
その相手が兄だっただけ、なのだ。
もちろん、最初は多少好意もあったのだろう。
だが、愛する相手だから結婚したというより、結婚したかったから兄を選んだ。
そんな印象が、年々強くなっていった。
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それ以来、航は女性を見る目が少し変わった。
「結婚したい。」
そう言われても、航は喜ばない。
「どうして結婚したいの?」
と相手に理由を聞くようになった。
「あなたと一緒に生きていきたいから。」
そう答える人や、
「年齢的に。」
「子どもが欲しい。」
「安心したい。」
と、答える人。
同じ"結婚したい"でも、その中身は人それぞれ、まるで違った。
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兄の結婚は、幸せな家庭の身近な手本にはならなかった。
けれど、一つだけ航が学んだものがある。
相手の言葉より、行動を見ること。
「結婚したい人」と、「あなたと人生を歩みたい人」は、似ているようで、全然違う。
兄はその違いに気付いていなかった。自分は後者で相手も同じ思いで結婚すると思っていたら、相手は最初から前者だった…みたいな…。
だからこそ航は、相手が「結婚」というゴールだけを見ているのか、それとも「一緒に生きる相手」として自分を見ているのかを、時間をかけて見極めようと決めた。
兄の結婚は報われなかった、かもしれない。
でも弟にとっては、人を見る目を養う最高の教材になった。




