表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者協会 冒険録  作者: 蒼識or惣菊
第一章 幼少期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/9

1-8 10歳の時の日常

僕は10歳になった!


ドモール国西部の山脈は、相変わらずそこに在った。

標高1500m級の山がいくつも連なり、空を裂くようにそびえ立っている。


けれど、7歳の頃と違って――僕の見え方は変わっていた。


「ほら、荷物は重さで分けなさい。軽い物を上、重い物は背中側に寄せるの」


母が言う。僕はそれに従って、旅人の荷物を丁寧に仕分けていく。


「うん、分かってるよ」


もう子ども扱いはされない。

少なくとも、この山脈で生きていく術については。


僕は10歳になった時点で、村の“準山越え手”として認められていた。


――簡単に言えば、見習いの山越え案内人だ。


初めて山に入ったのは、9歳の終わり頃だった。

母に連れられ、命綱の結び方、雪の踏み方、風の読み方を叩き込まれた。


冒険者になる人は基本的にどこかの山の山越え案内人になってから冒険者の学校に入る。


最初は怖かった。

足を滑らせれば、谷底まで真っ逆さま。

吹雪に巻かれれば、そのまま凍りつく。


でも――


「風、右から来る。尾根の上は危ない、少し下を通ろう」


そう口にした時、母は少しだけ目を細めた。


「……よく見てるじゃない」


その一言が、嬉しかった。


――そして今。


僕は一人で、小さな荷物を背負っていた。

今日の仕事は、次に山を越える旅人の“先導の練習”だ。


「無理だと思ったら、すぐ戻ること。いいわね?」


「うん」


母の声を背に受けて、僕は山へと足を踏み出す。


白い息が空に溶けていく。

雪はまだ浅い。足元の感触はしっかりしている。


(このくらいなら、大丈夫だ)


一歩、また一歩。


僕は山を登る。


途中、見覚えのある岩場に差し掛かった。

そこは、あの時――救助隊が来た場所の近くだった。


7歳の冬、遭難した旅人を救うために大人たちが命懸けで登っていった場所。


僕はその時、遠くから見ていただけだった。

けれど今は違う。


(……いつか、僕も)


救助隊の一員として、誰かを助けに行く日が来るのだろうか。


そんなことを考えながら、僕は尾根に立つ。


風が吹き抜ける。

冷たいけれど、嫌いじゃない。


むしろ――


「……綺麗だな」


見下ろすと、山々が連なり、その向こうに国境線が見える。

あの向こうには、まだ見ぬ世界が広がっている。


僕は、まだ10歳だ。


けれどこの山脈で生きて、

この山脈を越えていく人たちを見てきた。


だから思う。


(いつか、この山の向こうへ)


そのために、今は――


「……よし、帰ろう」


僕は踵を返し、来た道を戻り始めた。


一歩一歩、確実に。


この険しい山脈を、当たり前のように歩けるようになるために。


それが――

ドモール国西部で生きる、僕の10歳の日常だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ