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冒険者協会 冒険録  作者: 青識or惣菊
第一章 幼少期

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1-7 救助隊

さっきの青年の顔が浮かぶ。

怒りと悔しさと、どうしようもない後悔が混ざった顔。


そして、母の言葉。


――“引く判断力”。


僕は唇を噛んだ。


そのとき、母が静かに言った。


「……答えは、今出さなくていい」


僕は顔を上げる。


母は僕の方を見ていなかった。

山の方――救助隊が消えていった方向を見ている。


「いざその場に立った時にしか、分からないものもある」


「……でも、怖いよ」


正直な言葉だった。


「怖いのは正しいわ」


母はすぐに返した。


「怖くない人間は、無茶をするから死ぬ。怖いと思える人間は、状況を見るから生き残る」


そのまま母は、ゆっくりと歩き出す。


「来なさい。今のうちにやることがある」


「え?」


「救助隊が帰ってきた時の準備よ」


母の背中を追いながら、僕は首をかしげた。


「準備って……」


「生きて帰ってくる人のための準備と、帰ってこられなかった人のための準備」


その言葉に、足が一瞬止まりかけた。


でも、母は振り返らない。


「どちらも、この拠点の仕事よ」


僕は小さく息を吸って、歩き出す。


補給拠点の奥、医療区画。


白い布が敷かれたベッドがいくつも並んでいて、既に戻ってきた負傷者が横たえられていた。

医療班が忙しく動き回っている。


「ライズ、その棚から包帯を三束」


「は、はい!」


言われた通りに包帯を運ぶ。

手が少し震えているのが分かった。


その震えを見て、近くの医療員のおばさんが小さく笑った。


「初めて見る光景かい?」


「……はい」


「すぐ慣れるさ。慣れちゃいけない部分もあるけどね」


意味がよく分からないまま、僕は頷いた。


次に母に連れられて向かったのは、拠点の裏手。


そこには、簡易的なテントがいくつか並んでいた。


「ここは……?」


「回収班の受け入れ場所」


母は静かに答える。


「救助で“助けられなかった場合”は、ここに運ばれる」


胸の奥が、ぎゅっと縮む。


母はそれ以上何も言わず、テントの布を整え始めた。

僕も黙って手伝う。


風が吹いて、布がぱたぱたと鳴る。


遠くで、山から吹き下ろす風の音がした。


その時だった。


――パァン!!


乾いた音が、山の方から響いた。


僕はびくりと肩を跳ねさせる。


「今のは……」


母が顔を上げる。


「信号弾」


空を見上げると、遠くの山の上に小さな光が一瞬だけ弾けて、消えた。


「位置共有……それとも、救援要請?」


僕は息を呑む。


母は少しだけ目を細めた。


「色が見えなかったわね……距離が遠すぎる」


しばらく沈黙が落ちる。


その間にも、時間は進んでいく。


一分。

五分。

十分。


やがて、また一発。


――パァン!!


今度は、少しだけはっきり見えた。


赤い光。


母が小さく呟く。


「……救援要請」


その言葉の意味を、僕はもう知っている。


“予定通りではない”という合図。


胸の奥が、またざわつく。


「間に合う……よね」


自分でも弱々しいと思う声だった。


母は少しだけ間を置いてから答えた。


「魔道空車が先遣隊として向かっているから問題ないわ」




僕は拳を握った。


時間が、やけに長く感じる。


日が少しずつ傾いていく。


影が伸びる。


空気が冷たくなっていく。


三時間が過ぎた頃、拠点の門の方がざわついた。


「……来た!!」


誰かの声。


僕は思わず駆け出す。


母の「走らない!」という声が背中に飛んできたけど、止まれなかった。


門の向こうから、三台の魔道加速小車が戻ってくる。


車体は泥だらけで、ところどころ焦げ跡があった。


でも――


担架が、見える。


一つ。

二つ。

三つ。


「三人……!」


僕は息を止めた。


車が止まり、隊員たちが一斉に降りてくる。


「医療班!!」


父の声が響く。


僕はその声を聞いた瞬間、力が抜けた。


――生きてる。


そう思った。


担架が運ばれていく。

三人とも、動いている。

意識は朦朧としているみたいだけど、確かに息をしている。


その光景を見た瞬間、さっきの青年がその場に崩れ落ちた。


「……っ、よかった……!」


顔を覆って、声を押し殺して泣いている。


母はその様子を見て、静かに息を吐いた。


父がこちらに歩いてくる。


鎧には深い傷がいくつも刻まれていたけど、しっかりと立っていた。


「三名、全員回収。重軽傷だが、命に別状なし」




時間は少し遡る事 2時間前


――ドモール国西部山脈・第七峰付近――


「視界、さらに悪化! 風速上がってる!」


怒鳴り声が白い吹雪にかき消される。救助隊の隊長は、顔に巻き付けた防寒布を押さえながら前方をにらみつけた。粉雪が横殴りに叩きつけてきて、目を開けているだけで痛い。


「全員、ロープ確認! 間隔を詰めろ! この先は雪庇だ、踏み抜くなよ!」


「信号弾はこの辺であがってんだ!

全員死ぬ気で探せ!」


隊員たちは互いの腰に繋いだ命綱を確かめ合いながら、一歩一歩、足場を探るように進んでいく。ここは標高1500メートル級の山々が連なった“中級”の山脈。だが今の状況では、上級の魔境と何ら変わらない。


「……隊長、反応、弱いけど残ってます」


後方の調査員が、掌の上に淡い光を浮かべて報告する。人の生命力を探知する魔術だ。光は吹雪の向こう、さらに上方を指していた。


「生存者あり、か。急ぐぞ!

だが焦るなよ!ここで足を滑らせたら、全員谷底だ」


ロンドは短く言い切り、先頭に立って斜面を登る。足元の氷は固く、ピッケルを打ち込むたびに乾いた音が響いた。


やがて、尾根に出た瞬間――


「……っ!」


前方に、崩れた雪と岩の塊が見えた。小規模な雪崩の跡だ。その端に、半分雪に埋もれた人影がある。


「いたぞ!!」


隊員の一人が駆け寄ろうとした瞬間、隊長が腕を掴んで止める。


「待て! 周囲確認! 二次崩落が来る可能性がある!」


全員が素早く周囲の斜面を見渡す。風に削られた雪面が、不気味に軋む音を立てていた。


「……大丈夫だ、行け!」


合図と同時に二人の隊員が飛び出し、雪を掻き分けて人影を引きずり出す。


「息は……ある! まだ温かい!」


「担架を出せ! 防寒布で包め!魔道空車で先導しろ!」


素早く処置が進められる。魔導士が手をかざし、かすかな治癒の光が負傷者の身体を包み込んだ。


「他にもいる可能性がある。探査を続けろ!」


再び魔術の光が揺らめく。だが、先ほどよりもさらに弱く、断続的だ。


「……もう一つ、微弱反応。少し下だ」


隊長は歯を食いしばる。


「時間がないな……よし、二班に分ける。第一班はこのまま下方へ捜索、第二班は救助した者を麓まで搬送! 日没までに帰還できなければ、全員凍死だ!」


「了解!」


吹雪の中、救助隊は再び動き出した。


彼らは知っている。この山は“中級”でしかないということを。


それでも――


ここで諦める理由にはならない。


「――必ず、生きて連れ帰るぞ!」


隊長の声が、荒れ狂う風の中に力強く響いた。

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