1-2 転生
目が覚めると知らない木の天井がそこにはあった。
背中には薄い布一枚を挟んで硬い木の感触が伝わってきた。
…どこだ??
確か僕はあの時…
あれ…
なにも思い出せないぞ??
なにか前世みたいなものがあったと思うんだけど…
思い出せない…
あれ…首が動かせない…
まだ首も座ってないな…
これ…
目を頑張って左右に動かしてみると隣に20代前半に見える金髪の男性がこちらに笑顔を向けている。
誰だ?
ああ…彼が父親なのか…
あれだけの美形ならば僕もさぞイケメンなのだろうな…
そう思うほど彼の顔を整っていて服を着ていてもうっすらと筋肉がついているのが分かる。
服もどこか中世の時代の簡易的なぼろい服を着ているが
丁寧にしまっていたりクリーニングしているのだろう…
ほこり一つ纏っていないのだ。
「aiifv!
oigbhoioggbhogibfgoib?]
ごめん…
なんて?
「shoifbhosfhvgbio!
suifgiyihi!」
言語の壁高すぎやろがい!
日本語しゃべれや!
あれ…
なんか下半身が急に熱く…
あっ!
取り敢えず泣こう!
「shi!
saei!」
父がなにか言っている。
あっ
母親を呼んだのか!
金髪の若い女性が早歩きでこちらに向かってくる。
おいおいなんだこの美男美女のカップルは…
女性が俺を見て、にっこり笑って何かを言った。
やはり何を言っているのだろうか。
なんだかボンヤリして聞き取りにくいし、全然わからない。
もしかして、日本語じゃないのか?
いやそりゃそうか…
ここ異世界だし…
「sfeovhrojrogjoiefvi」
男の方も、ゆるい顔で返事を返す。
ごめんほんと、何言ってるのかわからない。
とりあえずここで転生初めての言葉をしゃべってみよう!
まずはこんにちはからだ!
「あー、うあー」
だめやんけ!
舌が思うように動かない。
というか、そもそも口の使い方が分からない。
え?
人間ってどうやって喋ってたっけ?
脳内では完璧な日本語が流れているのに、
実際に出てくる音は謎の生命体の鳴き声だけだ。
「あーぶ、ぶぇ……」
やめろ俺。
その音は知性を疑われる。
だが、そんな俺の必死の発声練習を見て、
両親――らしき二人は、顔を見合わせて笑った。
「sai… saifv!」
母親が優しく、何かを言いながら俺を抱き上げる。
うわっ、視界が急に動いた!?
酔う!三半規管が弱すぎる!
しかも近い。
顔が近い。
金髪。
碧い目。
柔らかい匂い。
……あっ、これ母親だわ。
本能が理解した。
理屈じゃない。
腕の中はあったかくて、
さっきまで感じていた木の硬さが嘘みたいに消えた。
安心感、やばい。
あ、だめだ。
意識が……ぼんやりして……
「sfei…?」
母親が心配そうに覗き込む。
いや違う!
寝るな俺!
今は状況把握が最優先だ!
えーと、整理しよう。
俺は赤ん坊、言語は日本語じゃない、首が座ってない、パンツ事情が最悪
……詰んでない?
いやいや待てよ…
転生もののテンプレ的にはめちゃくちゃ良スタートじゃないか?
そもそも前世の記憶ほぼないからテンプレとかよくわかんないんだけど…
少なくとも愛情はある。
父親がこちらを見て、なにか言いながら俺の頭を撫でた。
「oigb… shiofe…」
声が低くて落ち着いている。
ああ、いい声だなこの人。
……あれ?
音が、少しだけ「意味」を持って聞こえた。
いや、正確には――
繰り返しのリズムが、頭に残る。
さっきから父は、同じ音を何度か使っている。
名前か?
俺の……名前?
「……おい」
声に出したつもりだった。
だが、出てきたのはやっぱり、
「あー……おい……あー」
惜しい!
惜しいけど全然違う!
父が一瞬、目を見開いた。
母親も、ぴたりと動きを止める。
……え?
もしかして今の、
この世界的には意味のある音だった?
二人が顔を見合わせ、少しだけざわつく。
「sai?」
「…oif?」
ち、違う!
今のは日本語の「おい」だ!
呼びかけだ!
決して父親を雑に呼んだわけじゃない!
弁明したい!
したいのに!
「あーうー!」
無理だ!
そのまま、
限界が来た。
視界がふわっと白くなって、
意識が遠のいていく。
最後に聞こえたのは、
母親の優しい声と、
父親の少し誇らしげな笑い声。
……まあ、いいか。
言葉は出なくても、
ここは安全そうだ。
――転生一日目。
発語失敗。
だが、生存確認。
上々のスタートだろ。




