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40話 原点を思い出しなさい。



 列の最後尾。とは言っても一直線に並んで歩いてるわけではないと思うから最後尾と言っていいのかはわからない。ただ僕はみんなの声が前から聞こえてくるからそう思っているだけ。


 ダレスさんとトオルが何やら周囲の状況を話しているみたいで、今までこの数時間何事もなく比較的平和に進めてこれたのが実はダレスさんとシノネさんが敵を排除してくれていたかららしい。


「ダレスさんはいつも魔法を打つ時名称を唱えて打ってましたが声に出さなくても打てるのですか?」


 今まで唱えてたのに省略しているもんだから気になってしまってふと気づくと聞いていた。


「あー……はい……一応……そうですね…………」


 ダレスさんなんか歯切れ悪いな。


「あま……り誇ってい……いもので……はあ……りませ……んがね。」


 なんだ!?歯切れが悪いとかじゃない!声が遅く聞こえてくる!!おかしいぞ!


「み……ん…………っ!」


 なんだよ!声が思う様に出せない。自分の声でさえ遅れてるのか?くそ!みんな!


「なんせ……省……略……魔……法は……」


 霧が揺れる。音が引き延ばされ次第に意味を汲み取るのも困難になっていった。


「いぃぃぃりょぉぉくははぁぁぁん……げぇぇぇ」


 だめだ。何言ってるかわからない。早くこのこと伝えないと。


 ――みんな待って!!


 文字通り声にならない僕の叫びは目の前の濃霧に吸われた様だった。


「…………しぃぃぃまぁぁぁ……かぁらぁぁぁ…ね。」


 僕は声がスローモーションに聞こえると言う異常事態に気を取られすぎていたのかもう一つの異常に気づくことができなかった。


 ――離れていっている。


 さっきまでと歩く速度は変わっていないはずなのに……

 濃霧越しではあるがみんなの後ろ姿は見えていた。

 でも……今は……


「って…………いっ……ても……」


 無情にも微かな見えていた人影も遂には見えなくなり、スローモーションに聞こえたダレスさんの声はもう僕の耳に届くことはなくなっていた。


 くそっ!何が起こってるんだ?

 みんなも同じ状況なのか?

 一人一人ばらけたのか?僕だけなのか?


 シノネさんに口酸っぱく言われた忠告が一瞬で脳裏に浮かぶ。


「一人になるな。助けを呼ぶな。世界樹まで走れ。」


 

 まさか本当に一人になるなんて……早くこの状況をなんとかしないと……


 ――冷静になれ!

 ――冷静になれ!

 ――冷静になれ!


 一度走る脚を緩めてしまえばもう2度と走れなくなってしまいそうな自分を必死に誤魔化す様に何度も頭の中で考え続けた。


 ――怖い……違う今は考えるな。

 ――助けて……絶対呼ぶな。

 ――逃げたい……世界樹に向かえ!


 冷静にと何度も頭で考えているのに心は常に後ろ向き。

 その都度頭で無理矢理に方向修正する。


 そんな堂々巡りをしながらも僕は走った。必死に走った。世界樹へ。


 走ってる最中自分が遅くなったあの時の感覚は不思議ともうなかった。

 道中魔物の気配もしたが無視して走った。枝に引っ掻かれ、時々木にもぶつかった。

 それでも走り続けた。


 ――そして僕はついた。世界樹の麓へ。

 

 魔物が襲ってこなかったのは本当に不幸中の幸いだった。


 僕は麓へ着いたことに少し安堵し、すぐに全てを後悔した。

 ――迷宮へ入ること。

 ――エルフの国へ来たこと。

 ――アークヴェリアを出たこと。

 ――7つの厄災者(ラクシャ)を倒すと言ったこと。

 ――アークヴェリアに入ったこと。

 ――この世界に来たこと。

 ――コックリさんをしたこと。


 全てに後悔した。全てが間違っていた。

 そう思ってしまうほどにここに眠る奴の、ラクシャの声があまりに憎悪に満ち、あまりに殺意に満ちた()()()()()()()()を僕の脳に直接訴えかけてきている。


「謌代′蜷阪?繧ェ繝ォ繝輔ぉ繧ッ繧ケ縲ゅう繝翫せ繝医Ν讒倥?蜻ス縺ォ繧医j陬丞?繧願???諠第弌縺ォ豁サ繧帝剄繧峨◎縺?シ?シ∵サ?⊂縺吶?よサ?⊂縺吶?よオ√l縺ッ荳?螳壹?∽ク?迸ャ縲√?縺溘∪縺滓あ荵?°縲」



 絶対の死?ははは。あそこに魔物なんかいやしない。

 あるのは奴の、ラクシャの殺気だけ。


 無理だ……死ぬ……生きたい……死にたくない。

 助けて……たすけて……………………


 気づくと僕は森と麓の境目の木の裏に隠れて泣きながら叫んでいた。


「だれ゙がぁああ!!だずげでぇええ!!」


 


 〜〜


「お前ちょっと頭がいいからって調子乗んなよ!」


 ――ガン――

 ――ボコ――


 放課後いつもの様に僕は同級生数人に呼び出され、リンチにされる。

 これが僕が中学生になって始まった習慣だ。


 

「お前小学校の時から気に食わなかったんだよな。いつも自分が正しいみたいな顔して俺らのやることなすこと先生にチクリやがって。」


 苦しい……息ができない……


 僕は間違ってないのに……


 圧倒的な暴力により怖くて声が出せない。そして数少ない目撃者も自分に火の粉が降りかかることを恐れてか皆見て見ぬ振りをする。


 当然だよ。誰もこんな惨めにはなりたくないだろう。



「じゃじゃーん!今日はこんなものを用意しましたー!」


 すでに何発も入れられ、すでに地面に突っ伏している僕の上で奴らの一人が何やらニヤニヤしながらそんなことを言うのが聞こえた。


「ジュンくんは頭がいいからわかってもらえると思うんだけどさ、殴る方も痛いんだよ?あはは!つまりジュンくんも俺たちに攻撃してるわけ。って事で今日はバット持ってきましたー!」


 何を言っているんだ、殴るの痛いならやめればいいだけじゃないか……なぜ……なぜそこまで残酷になれるんだ……


 今日は本当にやばいかもしれない……


 助けて…………


 目が合った生徒はすぐに目を逸らし足早に去っていく。


 あぁ誰も助けてくれない……苦しい……

 誰でもいい……お願いだから……


「じゃ、早速1発目〜」


 振り上げた動作は目に映った。それからは目を瞑り手で頭を覆い衝撃に備えた。


 ――衝撃はなかった。


 その代わり奴らの悲鳴やら何か鈍い音まで聞こえてきて怖くて頭を抱えたまま目を開けることができなかった。


そして同じクラスの男の声がした。


「お前をいじめる奴は俺が筋肉で懲らしめてやるから安心しろよ。今まで気づいてやれずごめんな。お前はもう1人じゃないぞ。俺らがいる。」


 そう言いながら男は中腰になり僕の髪の毛をくしゃくしゃに荒く掻き回した。


 遠くで女子が先生を呼んでいる声がしたり、他の男子が奇声を上げながら僕を殴っていた奴らを追いかけ回している音が聞こえたが、その時の僕はこの荒々しい手の感触と心臓の脈打つ音が火照って真っ赤になった耳にこだまし続け、気づけば周りも憚らず大声で泣いていた。


 

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