3話 しっかり寝なさい。
「トオル!!ジュン頼んだ。」
俺は気絶しているジュンをトオルめがけて投げた。
ジュンちゃんもうちょっと食べたほうがいいぜ、軽過ぎてトオル越しちゃう所だ。まぁそんなことより、まずは目の前のクマシカだよな。いい感じに炎で行き手阻まれちまったし、野生のくせに頭働くじゃねーの。あっちの状況はわからないがトオルがなんとかしてくれてるだろ。となれば俺がすべきなのはクマシカの足止め、あわよくば倒すってところだな。
「まぁなるようになるだろ!かかってこいやぁ!クマシカぁ!」
「グオ゙オ゙オ゙オ゙」
ああ、何分経った?クマシカの攻撃パターンは大体わかったが血を流し過ぎたか……頭が回らねーし力も入らなくなってきたな。。実際今膝ついちまってるし、人間にしては頑張ったほうだろ?あと1発重い一撃当てられたらよかったな。
ああ、やばいな前足で地面を引っ掻いている。突進してくる合図だ。あいつも終わらす気だな。てか牛だったのかよ。熊みてーな図体しやがって、上等だ牛!かかってこいよ!
「グオ゙オ゙オ゙オ゙」
「簡単には食われねーぞぉ!」
「ドスン」
「てな感じで最後振り絞った力で目一杯奴の顎めがけて右フック喰らわしたらなんか首もげたんだわ!あはっはっは!」
アオイが俺たちと合流した時、平然を装ってはいるがかなり出血していた。手当てをしたいがまたあんな奴みたいのに襲われたら次こそ終わりだ。だから気絶したジュンを叩き起こして、まだ混乱しているジュンにとにかく安全な場所を一緒に探してもらった。そこで見つけたのが岩の小さなの割れ目。人四人入るのが精々だ。安全を確保し、アオイの簡単な手当てを済ました後、あのクマシカをジュンと二人でなんとか運んできた。もちろん食べるために。
なんとか火を焚き、皮を剥ぎ、食事の準備はできた。ここまでスムーズにいったのは、案外ジュンがサバイバル術に長けていたからだ。ジュンはやるのは初めてと言っていたがやはり頭がいい奴はこう言う時の重要な知識も持っているようだ。クマシカの丸焼きを4人で囲っているとき、アオイはそんな話をし始めたのだ。
「今そんな話すんなよクマシカが不味くなるだろ。てかクマシカってなんだよ、まぁでも結構壮絶な戦いだったんだな。ありがとうアオイ。」
「……アオイ迷惑かけてごめん。僕が倒れてなかったら戦わず逃げ切れたかもしれなくて、怪我もすることなかったのに。」
「ジュンちゃんらしくないな!言ったろ俺が筋肉で守ってやるって。こんな傷食って寝りゃすぐ治る!気にすんな。それにあいつは逃がしてくれなかったと思うしな。戦ったからわかるけどあいつ多分お前達の場所もわかってるみたいだった。索敵能力もある程度あったんじゃねーかな。だからここに逃げ込んでてもあいつは来てたよ。」
「………み、皆ごめんね、私ここに飛ばされてから色々考え込んじゃってトオルにも皆にもいっぱい迷惑かけちゃった……今日は先に寝るね……おやすみなさい」
モネはアオイの話を聞きたくないとでも言うように会話に割り込み一人岩の割れ目へ入って行った。
「……姉崎さん大丈夫かな…明日になったら元気になってるといいけど。」
「状況が状況だもんな。無理もないだろ。今はゆっくりさせておこーぜ。」
「そうだな。」
「あ、そうだ!それでよ、俺一つ気になることがあってよ。」
アオイはそう言うと徐に食べ終えたクマシカの骨を木に向かって投げた。力が入らないのか骨は直線上ではなく綺麗な放物線を描きながら木へと向かっていく。
「アオイまだ安静にしてろよ、力入ってねーじゃん。あんな山なりの骨…」
「まぁ見てろって」
俺の心配をよそに骨を凝視しているアオイ。ジュンもつられて骨を見ている。一体なんだって言うんだ?
そしてその綺麗な放物線を描きながら飛んでいく骨は十数メートル先の木に当然当たった。当たりはしたんだが思ってたのと違いすぎる。それは木を突き破り一本薙ぎ倒しているではないか……
「なー!これすごくない?俺の筋肉すげーってクマシカ倒した時思ったんだけどよくよく考えたら殴って首もげるとか人間離れし過ぎだろって。だから倒してから今までのことを考えてたのよ。そしたら最初は気のせいだと思ってたんだけどジュンちゃん投げてから疑問に変わって今骨投げて確信に変わったわ!トオル、ジュンこの世界俺たちも魔法使えるぞ。」
「……確かにあの骨を見れば信じざるを得ないね……でもどうやって、て言うか何したの?」
「そうだぞ!あんなのどうやってんだよ!」
「んー、たとえばジュンを投げた時、俺はトオルのところまで絶対に届かせないといけないと思ったわけよ。そしたらジュンが軽いことに気づいた。まぁ、最初は単純に軽いなジュンとしか思わなかったけど。次にクマシカを倒した一撃。俺はこれでもかってくらい重い一撃を最後に喰らわしてやるって思ったのよ、そしたらもげた。でも戦闘中だったこともあって、深く考えてなかった。で冷静になって考えた結果、無意識に拳の重さを物理的に重くしたと推測したわけよ。そしてあの骨。俺は意識的にあの骨を重くしてみた。俺の考えは間違っていなかった。俺は自分、モノの重さを変えられる能力がある!
これほど俺に合ってる能力もねーよな!あっはっは。」
俺とジュンはそれを聞いて同じように何回か骨を投げた。意識的に重くしてみた?意味がわからない。センスで動く奴の説明ほど意味がわからないものはない。ジュンも同じことを思っているのか時折、アオイの方を見ては骨に視線を移している。もっと具体的に聞ききたい、でも返ってくる返事は変わらないか、の葛藤だろう。
「……トオル、思ったんだけどこれってアオイ特有のものだったりしない?魔法というよりは固有スキル的なさ。仮に魔法なら僕たちが扱えてもいいはずでしょ?でも使えない。なら答えはそもそもアオイしか使えない。こっちの方がしっくりくる。」
「確かにかれこれ1時間は骨と睨めっこしてるな。でもそういうことならアオイだけが持ってるとは思えないよな?なんらかの固有スキルが俺たちにもあるって言いたいんだな?」
「……うん。多分、まだわからないけど僕、トオル、姉崎さんにも何かしらのスキルがあると見ていい。」
「なるほどな、でも今日のところはこの辺にしとくか。アオイも体力回復してもらわねと困るし。それぞれのスキルがなんなのかはまた明日以降に調べるとするか。」
異世界にきて初めての夜、俺たちはあまりの情報量の多さに頭がついて行けずとりあえず岩の割れ目で横になり泥のように眠りについた。割れ目の外は月明かりで少しばかりか辺りが分かる。それでも地球の月明かりには程遠い明るさだ。