38話 ◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️
トオル……ねぇトオル……起きてよ……
私の人生は他の人と比べれば少しだけ変わっている。それに気づいたのは10歳くらいの時かな。
何故かすれ違う人々誰もが私を怯えた眼差しで見てくる。子供はもちろん大人までも。
避けられ続けたあの時の小さな体に入っている私の小さな心はそんな些細なことでいとも簡単に壊れ、世界が敵だ、味方なんかいない、私は他の人とは何かが違うんだ、
自分では何が違うのか分かりもしない、誰も教えてくれない。でもみんな避ける。孤児だから?親がいないから?施設に入っているから?わからない。見た目は普通のみんなと変わらない―人族―なのに。
今考えると、些細なことだと笑って吹き飛ばせるが当時の子供の時の私の心を壊すのにはこんな些細なことで事足りた。
私が心を閉ざしてから少しした頃、私はいつもの様に施設の庭で何をするでもなくただ悪戯に時間を貪っていた。
――いつ死のうか。
そんなことばかり考えては、怖くなって考えるのをやめる。
そんな可愛げもない女の子一人いる施設にある日新たな孤児がやってくることになった。
ここの施設の管理者で尚且つ私を育ててくれているダレスさんに連れられやってきた男の子は名前をトオルと言うらしい。
彼がやってきた当時は私は当然心を閉ざし、味方なんかいないと思っていたので、彼が話しかけてきても無視していた。と言うより怖かった。
彼は私と同じ孤児で、ある街からここへ連れてこられたらしい。後に私が立ち直った際にダレスさんに聞いたんだけど、彼も私と同じ境遇だったらしい。
だけど彼は心を閉ざすことはしなかった。いつも元気で何か施設内での新たな発見があったら逐一私に報告してきた。勿論当時の私は彼が私と同じ境遇、つまり意味もわからず人々から避けられ続けていたなんて知るはずもないから、ただただ元気で能天気な男の子くらいにしか思っていなかった。
反応も碌にしない可愛げのない女の子に良くもまあ毎日同じテンションで話しかけられるなと不思議に思い気づけばその日は何故か私から話しかけていた。
「ねぇ、トオル君は何で私にそんな話しかけてくるの?」
初めて話しかけられた彼はそれはもうびっくりしていた。当然だよね、彼が来てから数ヶ月は経っていた。その間話しかけたこともなければ言葉を発してすらいなかったから。でもその反応も一瞬で次の瞬間には私がこれまで見てきた、そしてこれから見るであろう有象無象の顔とは比べ物にならないくらい強烈に彼の満面の笑顔が脳裏に焼き付いた。
「おお!!!話しかけられたぁああ!!よっしゃ!!今日も気張っていくぞー!!ってあれ?俺なんで話しかけてたんだっけ?まぁ細かいことは気にせずこれからよろしくな!ちょっとずつで良いから話せると嬉しいな!」
「……なんで……?」
「なんでって言われてもな、そんなの決まってるよ!俺は人生でこれだけは無いといけない物を知ってる!それは人とのつながり。つまり友達!話し相手!そして君が最初の一人というわけだ!」
そう言って豪快に笑っている彼を見て私はその笑顔に、そして彼の太陽の様な性格にいとも簡単に籠絡しトオルを好きになっていた。
こんな時に思い浮かぶのが私がトオルを好きになった場面なんて……
なんて……神様は残酷な事をするんだろう……
ねぇトオル……起きてよ……
もう私はこの目で光を見ることはできなくなったけど、今でもあなたのあの笑顔は鮮明に覚えてる……だから見えなくてもいい……目を覚まして……お願い…………
この日、私は世界の光と共に心の光を失った。
私の腕の中で徐々に彼が冷たくなっていく感覚と、とめどなく溢れる生暖かい彼の血の匂いが、私を再び壊した。




