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29話 相変わらず元気そうですね。



 何段登っただろうか。非常階段の様な外付けの階段には落下防止の柵も特に設置されていない。大きく太い木の外周をそんな階段がぐるぐる上へ伸びている。

 途中幾つか部屋があったが、シノネさんは見向きもせずひたすら登っていく。

 

 ダレスさん曰く、この木はオルディムの首都―アークロア―でいうところの双権院みたいな立ち位置だそうだ。まず双権院が何か知らないが、まぁ政治の中心みたいな事だろう。


 しばらく無心で登り続け、気づけば頂上付近まで来ていた。上にやってくると次第に枝や葉っぱなどが見られる様になったが、枝と呼んで良いのかと思うくらいのサイズはしている。葉っぱも言わずもがなである。それのおかげでほぼ米粒としか見えなかった地上の人々をこの枝や葉っぱが隠してくれて、そこまで高さで怯えることは無かった。


 階段が終わり開けた場所についた。登ってくる間に見たくり抜いた部屋とは違いこの大きな木の先端を切り落としそこに部屋、いや屋敷が立っていた。



「ほな、ここが大女将のいる直月邸やけども。準備はよろしいやろか?」


 ここに来るまでに体力のほぼ全てを使い切りへとへとな俺たちに涼しい顔で問いかけてくるシノネさん。

 俺たちは最大限の強がりの笑顔でこう答えた。



「もちろん!」




 

 


 中へ入ると薄暗く、外観の大きさに反して、そこにはただ小さな居間があるだけだった。天井からぶら下がってる簾が手前と奥に部屋を分け尚更狭く感じる。簾の奥に座っている人影が見える。薄暗くて良くは見えないが。



「大女将。例の者たちを連れて参りました。」


「…………。苦労をかけたな。シノネ少し休んでおれ。」


「えぇ、大女将。」



 膝をつき挨拶したシノネさんに習い俺たちも真似して膝をついている。


 んんー?なんか違和感あるな。何だろう?



「ダレスと言ったか?其方らも楽な姿勢にして良いぞ。」


「は、はい。」

 流石のダレスさんも緊張で声が浮ついている。


「ようやく現れたか。それにしてもよく下の朴念仁の老人共が妾に会うことを許したのぉ。さてはシノネ、お主何かやったかの?」


「…………。」


「あはは!、っ!…………おほん。まぁ良い。ひさかたの客人じゃ。オルディアンに会うのはあの時以来かの?いやぁ、もっと(ちこ)う寄れ。顔をよく見せとくれ。」



 落ち着いた優しい声に少し安堵し、言われるがまま簾の近くまで俺たちは寄って行った。


 さっきからすごく違和感がある。これはスキルとかじゃなく単純になんか引っかかってる。なにに引っ掛かってるのかは自分自身よくわからない。


 そんなことを考えていたが、すぐにそれが無意味だと理解した。なぜなら違和感の正体が助走をつけて勢いよく簾を突き破り座り直そうとした俺目掛けて突っ込んできたのだから。




 

 ――――どん!――――




 

「あはは!!どうじゃ?びびったか?いやー、人を騙すのはいつ誰にやっても堪らんのぉ。妾のあの小芝居どうじゃった?ちゃんと想像する大女将じゃったか?ん?あぁお主らオルディアンは大長老と言っておったな確か。でどうじゃった?」


 俺を馬乗りにして無邪気な笑顔で見下ろしているこの人物が大長老?


 ああ、違和感てそう言うことか。大長老はあの戦争を生き抜き、その時代を記憶として持ってる4000年以上生きてる人物。当然老人だと思う。それもそんじょそこらの老人とは訳が違う。ヨボヨボで話すことすらままならないような。だって4000年だぞ。エルフと言ってもな?

 だが、シノネさんとの挨拶の声、小芝居だかで低く落ち着いてる様に変えていたが、流石に無理がある。だって、今俺に馬乗りしてるこの人物。


 ――どう見たって俺らと変わらない若いエルフなんですけどぉおお!?



「い、いや?あの大長老様?い、一旦退いていただけますか?」


「おう、そうじゃな!悪かったの!驚いた顔が見たくてついな!」



 ついな!じゃねーよと心の中で叫び、俺は座り直した。この状況を飲み込めていないのはどうやら俺だけでなく、ダレスさん含めオルディアン側皆戸惑っていた。

 そんな中意を決してダレスさんが口を開いた。



「あ、あの、これはどう言う?シノネさん?このお方は一体?」


「ダレス()()、このお方こそ我らエルフ族―シルヴァリアンの頂点、大女将で在られる、ラン=カスミネ様です。」


「…………冗談では……」


「っ!!」シノネさんがダレスさんをキツく睨む。


「ないですよね!そうですよね……」



 変な空気になり皆黙り込んでいるとこの空気を作り出した張本人様が喋り始めた。



「ま、まぁ?其方らの戸惑いもわかる。妾もちとはしゃぎすぎた。すまんかったの。もう遅いとは思うが、安心してくれ、妾が大長老で違いない。」


 

さっきのはしゃぎ様とは打って変わり、俺から離れ座り直した大長老は静かに言った。



「して、ダレスよ。妾に用事があると聞いておるが何だ?できる限りの事はするつもりだぞ?でも妾に出来ることなど無いに等しいんだがの。」


 やっと本題に行けるな!

 


「はい、恐れながら申し上げます。その……ラン=カスミネ様にとっては思い出したくも無いことだとは思いますがあの時代のこと、予言について、そしてシルヴァリエに眠る厄災者(ラクシャ)の封印場所を教えて頂きたく参上致しました。全て教えて頂けるとは思っておりませんが何卒よろしくお願いします。」



 そうだよな。単純に考えてその時代はまさに地獄絵図だったろうし思い出すのも億劫だよな。

 予言のことも別に彼女がってわけでも無いだろうし、

 ラクシャの封印場所に至ってはダレスさんから以前聞いた話だと、たとえ種族間で争いがないにしてもそれだけはお互いに秘匿しているそうだ。

 どれか一つ、いや一欠片でも教えてくれたら御の字か。



「何だそんなことか。よいぞ!どれからが良いかのぉ?」



 ――え?

 

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