2話 異世界を受け入れなさい。
俺たちは死に物狂いで薄暗い森の中を駆け抜けている。
「モネ絶対手を放すなよ!おいアオイ!ジュン背負ってとにかく走れ!!逃げるぞ!」
「わかってるわ!なんだあの気色悪い生物は!ジュンは気絶しちまったしよー!どうする!?このままだと追いつかれるぞ!」
――時は少し遡り――
見渡す限りの草原、青々としたそれは草独特の香りを辺りに放っている。風は心地いいくらいの強さだ。
そう至って普通の草原だ。普通の……草原……だ?。
なんだここ……見慣れない景色。
いやそもそも草原と言うのがおかしい。
教室にいただろさっきまで。なんで外にいるんだ?
何が起きた?
コックリさんをしてて……それから……飛ばされた?え?俗に言う異世界召喚てやつ?だめだ頭が回らない。そうだ皆は!?
「おいどうなってやがる?なんだここ?もしかして俺たちコックリさんに呪われてそのままポックリ逝っちまったか?コックリさんだけに。あっはっは」
「……アオイもうちょっと真剣になりなよ。僕でも今の状況で冗談に突っかかるほど余裕はないよ……理解できない事が多すぎる……全然科学的じゃ無い、説明がつかない。」
「アオイ流石の俺も無理だ……とにかくまだ死んではいないみたいだけど。なんか擦りむいて血出てるし。ちゃんと痛い。」
「それじゃ何か?変な世界に迷い込んじゃった的なやつか?未世界冗談的なやつかこれ。」
「未だ見ぬ世界で冗談言ってるのはアオイでしょ。違う異世界召喚。ファンタジーもので最近よくある設定だけどまさか本当に?とにかく一旦落ち着いて状況を整理しよう……」
「…………」
それからはアオイも、9割真剣に話し合ってくれ、どうにか現状を把握できた、それと今後の目標も決めることができた。
まず俺たちはどうやら本当に地球以外の世界に来てしまったようだ。
目に入るもので異世界と判断するには難しいほど地球と変わらない景色だったが、明らかに地球とは違うとわかることがある。
俺たちは最初、言い方は変だがこの地上しか見ていなかった。
空を見ていなかった。でかい。デカすぎる。見上げると地球で見るそれとは遥かにスケールが違うそれは、
――太陽だ。
その桁外れの大きさに一瞬で地球でないことを解らせられた。
次にこの草原の終わりには森が茂っていてそれを超えた先に目を凝らさなければ見えないが確かに建物が見えた。
俺たち以外に人がいない訳じゃなさそうだと安堵し、時間がかかりそうだが、まずはあの建物を目指していくことに俺含め三人の意見が一致した。
三人の意見というのもここにきてからというものモネが怖がってか一言も喋らない。
ここまで喋らないモネを見るのは初めてだ。
まぁ無理もないか、異世界なんて小説の中だけだもんな。
そして今後の目標。それは意外に思えるかもしれないが地球に帰ることだ。
ファンタジーものではなぜかその世界に居座る事が多いように思えるが俺には無理だ。
帰る。絶対に帰ってやる。
これは小説じゃない、紛れもなく現実なのだから。
ずっと喋らなかったモネも何故かこれには頷いてくれた。
「じゃあとにかくまずはあの建物目指して歩くか。日が暮れるまでに野宿できるとこ探さないとだし」
「おっけー!ていうかさこういうのお決まりの魔法使えたりとかしねーの?魔法使いたいよな?ジュンちゃん」
「うーん……本当にあるなら使っては見たいかも……でもそんな都合のいい話あるかな。さっき試しにステータスって言ってみたけどなんも起こらなかったし……」
「ステータス!ほんとだなんも起きねー、ファイアー!ダメか〜。放り出されただけは勘弁してもらいたいけどな。まぁ俺には筋肉があるからいいけどよ。」
「はいはい筋肉で俺たちを守ってくれ。それにしてもさ、この森なんか嫌な感じするのは俺だけ?」
「ん?」
「…うーん」
「……」
歩きながら魔法を使えないか試すアオイとジュン。相変わらず無言なモネ。草原を抜け森の中を少し歩いている時だった。
なんか嫌な感じがする。
それは例えようがないが、無理矢理に例えるなら、眉間に触れないギリギリのところに指差された時のなんとも言えない不快感と言ったところか。
伝わるか分からないが、確かに感じる。
そしてその勘は当たった。数秒もしないうちに森から見たことのない生物?が俺たちの前に現れた。
「なんだあれ?流石に筋肉だけじゃ荷が重いぞ!」
「うわーーーー!!………………」
「おい!ジュン大丈夫か!」
現れた生物は熊?の様な見た目だが地球にいるものとは明らかに違う、頭には枝角が生え、その角には等間隔に穴が空いている。
首のあたりに鰓のようなものまで見える。地球のクマと同じところといえば大きさと四足歩行くらいか。
……鰓呼吸なのかな、いやそんなことどうでもいいだろ!完全に狩る目だ。俺たちを獲物としてみている。なんとか逃げないと。
――そして今に至る――
「…………なんで……」
「モネなんか言ったか?それより頼むから手は離さないでくれ!」
やっと喋ってくれたことに安堵するが今はそれどころじゃない。
追いかけてくるその熊の様な動物は、鰓をかっぴらき何やら空気を勢いよく吸い込んでいる。
何をしているのか分からないがこれだけはわかる。
多分やばい。多分ていうか絶対にやばい。
次の瞬間角の穴から無数の火球が発現し今にもこちらに撃ち込まれそうだ。
そんなの聞いてない。やばいどころじゃねーじゃねーか!
「うおーー!!ふざけんじゃねーぞあの熊公!!」
「トオル!!ジュン頼んだ。」
アオイはそういうと俺目掛けてジュンを投げた。火球はアオイと俺たち三人の間に着弾すると、勢いよく燃え上り、炎の壁と化した。
それに遮られたアオイは完全に孤立してしまった。
「へへ、やっぱよ、あるんじゃねーか!魔法!それ魔法だろ?そうだよな!その角に可燃物を仕込んである訳じゃねーんだろ!俺にも使わせろやぁ!」
「グオ゙オ゙オ゙オ゙」
「俺の重ーい拳を餌にしな!!いくらでも食らっていいぞお!オラぁ!」
炎の壁に遮られアオイの姿は見えないが。時折地響きのような咆哮があがり、鈍い音と共にアオイの怒声が聞こえてくる。
あんな生物を相手にするなんて、いくら筋肉バカのアオイとはいえ大丈夫なわけがない。
体感5分が過ぎたころ、喧騒は止み辺りも暗くなってきた。
その時弱り始めた炎の壁の向こうからこちらに歩いてくる影が見えた。アオイだ。
「いやーまじ焦ったわ!死ぬかと思ったけど案外人間その気になればあんな奴の首もねじ切れるってもんだな。」
俺の心配を他所に、血まみれになりながらも元気な姿で戻ってきたアオイの手にはさっきまで俺たちを獲物と見ていた動物のねじ切れた首があった。




