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24話 ここから始まるのです。



「グハッ……ちょ……ちょっと強すぎませんか……」



 訓練という名の拷問を散々好き勝手にしてくれていたダレスさんの顔は先ほどまでの町の悪ガキを少し懲らしめて楽しんでいるような乾いた笑みから一転して、横腹を抑え痛みで顔は歪んでしまっている。



「ごめんごめん!ダレスのおっさん。でも…………あぁスッキリしたぁ!!」



 ダレスさんには悪いが、俺もアオイの言葉には同意するわ。

 

 (ざまぁみろ!!散々ボコボコにしてくれやがって!)



 もうちょっとダレスさんへ文句の一つや二つ言いたいところではあるが、そんなことよりも今は何より問い詰めるべき相手がいる。



「おい、モネ!お前いつの間にスキル使えるようになったんだよ!」


「そうだよなー!いやータイミングもバッチリだったよ!モネちゃん!」


姉崎(アネサキ)さんのはなんだろ?瞬間移動とか?」



 俺たちはダレスさんが苦しんでいる姿など最早どうでも良く、モネに詰め寄っていた。



「びっくりした!?そうだよね!私自身もびっくりしちゃったもん。」


姉崎(アネサキ)さん、どうわかったの?」


「えっと、遠くから見てて、あの盾邪魔だなーとか、なくなれば良いのになーとか考えてたらなんか急にできそうな気がしてきてきたの。それをトオルに伝えようと思ったんだけど遠いからさ、飛んで行けないかなって。試しにやってみたら気づいたらトオルの隣にいたんだよね!」



 これはあれだ。アオイと同じタイプだ。さっぱりわからん。まぁともあれこれで4人とも無事スキル発現出来たことだし、一旦一安心だな。それにしても瞬間移動か……いいなぁ。



「ちょっと皆さん……少しは私の心配をしてくれても良いんじゃないですか……。」



 声がして振り向くと膝をつき痛みで顔が歪んでいたダレスさんはすっかりいつもの顔に戻っており、横腹を軽くさすって立っていた。



「まぁ、それでもこれで四人全員がご自身のお力を理解できましたね。モネさんおめでとうございます!じゃここで、必要ないかもしれませんが今一度ご自身のお力について整理しますか!」


「おけ、じゃ俺から。―危険察知―。俺の意思とは関係なく、周りの危険に関して知らせてくれる。何なら少し未来が見える。攻撃して来るタイミング、位置とかね。」


「次は俺だな!俺は―重量操作―だ!自分自身と触れた物の重さを一時的に変化させることができる。体感だとその物の10-20倍くらいまで行けるかな。軽いやつならそれよりももっと行けそう。後軽くするのは苦手だ。」


「僕の番だね。改めてこの力に名前を付けるなら多分―念力―だと思う。今までの訓練で分かったことは、まず、視界内のあらゆる物質を操れるかな。人1人分くらいの重さに限定されるけど。僕らは魔法は使えないけど、これを使えば火も水も好きなように操れるから擬似魔法的なことができるかも。」


「じゃ私ね。あまりまだ分かってないけど、さっき馬酔木(アセビ)くんが言っていた瞬間移動というよりかは―ワープ―の方がしっくり来るような気がするの。指を鳴らしたら対象を任意の場所にワープさせることができる。多分私も今は人1人分くらいしかできないと思う。」


「皆さん、この短時間で本当に成長したと思います!まだ少しばかり不安ではありますが、私に攻撃を当て、膝をつかせたのなら今は及第点でしょう!訓練はここまでにしましょうか。後は、教皇様達からの返事を待ちましょう。」

 


 そういうと、ダレスさんは1人部屋を出ていき、俺たちもそれについて部屋を出た。





 ――――8日後――――


「皆さん、返事が返ってきました。無事私たちは大長老様にお会いできるみたいです!よかったですね!それで急で申し訳ございませんが明日発とうと思います。いかんせん時間がないものでして。」


 

 この8日間特に大きな出来事はなく、やることがないので、各々地下で自主訓練に勤しんでいた。ペトラさんの晩ごはんを食べ終え俺たちは部屋でいつものように駄弁っていた。ダレスさんはと言うとあれから休む暇もなく冒険者の仕事をしていて暫く家を空けていた。そんなダレスさんがやっと帰ってきたと思ったらそんなことを言いに部屋へ入ってきた。



「そっかー。じゃいよいよここともお別れか。ペトラの姉さんのご飯も食べられなくなるのかぁ。」


「そうですね……暫くは戻ってこれませんので、明日の朝ごはんしっかり食べましょう!」




――翌日――


「そっか……みんな今日でここを出ていくんだね。そっかぁ……しょうがないね。じゃあ最後の私のご飯しっかりとお食べ!何か困ったことがあったらいつでもここへ戻ってきて良いからね!もうあんたらは家族みたいなもんだからね!」


 ここへきてほぼ一ヶ月。ペトラさんには本当にお世話になった。根を詰め過ぎた時には優しく寄り添い、時には厳しくしてくれた事もあった。いつしかここは俺たちにとってかけがえのない場所になっていた。


 

「相変わらず、うまいっす!絶対また帰ってくるんでその時はお願いします!」


「任せなさい!」


 



 朝食を食べ終え、各々が準備を終え、ダレス宅の門の前まで来て残すはダレスさんだけとなった。



「いやはや、お待たせ致しました!ささ、早速出発致しましょうか!」



 そういうとダレスさんはさっさと歩き始めた。なんか緊張感がないな。この旅って世界を救う旅だよな。こんなスタートでいいのか?………………まぁいっか。


 ん?この都市の門ってこっちだったか?



「あのダレスさん、今どこに向かってます?なんか門から遠ざかっている気がするんですけど。」


「あはは、そうですね。時にトオルさん、貴方は素晴らしい能力をお持ちです。トオルさんだけじゃありません。皆さん全員です。ですが、これからの旅を考えた時に余りにも皆さんの装備……貧弱すぎません?いや装備なんていうレベルじゃありませんよ。服だけじゃないですか。ピクニックに行くんじゃないんですよ?」


 

 あ、完全に忘れていた。俺たちは今何にも持っていない。何でこんな当たり前なことに気づかなかったのか。


 

「そこで、私ダレス、皆さんにプレゼントをご用意させていただきました!今はそれを取りに向かっています。」



 (ダレスさん、ありがとう!!!)



「さぁ!ここですよ!入りましょう!」



 ダレスさんが連れてきたのは、大通りを少し外れ細道を進んだ少し日当たりの悪い、いかにも人が寄り付かなそうな場所のあるお店だった。


 怪しい場所だけど大丈夫かな?

 いつも能天気のアオイですら少しこの場所の雰囲気には緊張しているのか、しきりに周りを見渡している。




 ――カランカラン……



「おはようございます!依頼してたもの取りに来たんですけどもー?」


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