23話 少しの躊躇いも必要ないのです。
とんぼ返りで3日ですかぁ。やはり首都は少しばかり遠いですね。祭りも終わってしまっていつものアークヴェリアですね。まぁ、皆さんは良い息抜きになった事でしょう!
ガチャ……ギィイイ……
「ただいま戻りました!」
「やぁ!あんたかい!お帰り!首都は変わりなかったかい?」
「ええ、いつもと変わらず活気溢れる所でしたよ。皆さん祭りは楽しんでいただけましたか!?」
「…………」
「…………」
「…………」
「お、ダレスのおっさんお帰り〜!おう!俺は楽しめたが、なんかな3人がかれこれ2日はぎこちなくてなー」
はて、どうしたのでしょうか。まぁ、皆さんは既にこの祭りが偽りの祭りだと知ってますから、それが楽しめなかった原因でしょうか。
「あの……ダレスさん。帰ってきて早々で悪いんですが、少しお話いいですか?みんなも」
ジュンさんはそう言うとぺトラを居間に残し、全員を地下の修行部屋へと連れて行きました。
「ダレスさん。ペトラさん含めこの都市の人全員はあの時計がルイナ様復活のカウントダウンだとそう言って祭りをしていました。」
「はい。この都市だけではありませんよ。各種族のほぼ全都市がそう言ってあの日は祭りを致しますね。」
「極秘なのはわかりますが、ペトラさんにまで言ってないんですか?言ってないんだとしたら僕たちの事も?」
「はい。たとえ身内であろうと予言に関する事だけは口外できません。それから皆さんのことは新米冒険者で右も左も分からないからしばらく修行に付き合うとしか言ってません。」
「はぁ……僕らが口を滑らしたらどうしてたんですか!」
「あはは、ジュンさんなら無闇に素性をばらさないようにすると信じておりましたよ。」
「……まぁ、実際そうしてましたけど……次からはちゃんと教えといてください。それと話は戻りますがほぼ全都市ですか。混乱を避ける為とはいえ放置していていいんですか?」
「まぁ、今騒いだところで信じてくれそうにありませんし、真実を知ったからと言って、人類には対抗する手段なんて持ち合わせておりません。なので私たちが秘密裏に対処するしかないんです。仮に私たちが失敗して厄災者が復活し、あの時計の本当の意味を知ったところで後の祭りですよ。」
そう失敗は許されません。ジュンさんも、この話を聞いていた3人もそれ以降話を続けようとはしませんでした。
「ジュンさんは解決したとして、なんですかこのお二人のぎこちなさは?」
ジュンさんがなんか言ってきそうなのはある程度予想はしていましたが、このお二人は予想外です。
「いや、別にぎこちないって言うか、な?俺はただあの時なんて言ったか聞こえなかったからもう一回言ってくれって頼んでるだけなんだけど。」
「もぉ、大したことじゃないからいいの。って何回も言ってる!」
「まあまあ、もうトオルもその辺にしとけよ。察してやれよ!花火見ながら言うなんてな?」
「アオイは黙ってろ……」
あああ、そう言うことでしたか!なるほど、まぁ理由はともあれ祭りは祭りですからね。ロマンチックでいい雰囲気だったんでしょう!大事な言葉を聞き逃すとはトオルさんは運がないですねぇ。
アオイ違うんだよ。あの時のモネの横顔は。お前が想像しているような事なんかじゃ絶対にない。長年一緒にいるんだ、そんな雰囲気じゃないって事はわかる。
何を伝えたかったんだ俺に。何か大事なことを言ったはずなんだ。でもあれ以降大したことないの一点張り。あの様子じゃもう言ってはくれないだろうな。
「まぁ、じゃもういいけどよ。……で、ダレスさんは用事は済んだの?」
「あ、はい。実は皆さんのことを人族の教皇と首相にお伝えしに行っておりました。これから私たちがすべきことの相談も兼ねて。」
ダレスさんはそう言うと、一人部屋の半ばまで歩き始め振り返りこう続けた。
「以前お伝えしたように、エルフの大長老に謁見できるように嘆願して参りました。追って返事が来るそうです。ですが万が一、その返事が私たちの願いに反した場合は、勝手に会いに行っちゃいましょう!」
いや、ノリ軽ぅ!絶対そんなノリで会いに行っちゃダメだろ!嘆願したんだろ。
俺たちの反応が薄かったのかダレスさんは改めて語った。
「おほん、えー言い方はあれでしたが、ご安心ください。あのお二方なら必ず場を用意して下さると信じておりますから。」
どこからその自信が来るのだろうかと不思議に思ったがそれ以上に不思議なのはなぜダレスさんはあんな遠くにわざわざ言って話すのだろうか。まぁ、すぐに理由はわかったが。
「話し合いはこのくらいにして、早速修行の続きといきましょうか!水の牢獄」
「ちょっ!!うわぁああ!」
「アオイ!右によけろ!」 「水の三重槍」
叫ぶと同時に、アオイは右にかろうじて避け、元いた場所には鋭い水の槍が3本突き刺さっている。
「っぶね!あんなの当たったらまじで死ねるな。おい!少しは手加減してくれよ!」
アオイの叫びも虚しく、ダレスさんは不穏な笑みを浮かべながら攻撃を続けた。
くそ、俺とアオイ、ジュンの3人でかれこれ30分は戦ってるけど全くダレスさんに攻撃が当たる気配がないな。
モネはこちらの戦闘の被害に遭いたくないのか遠くの方で見守っている。見物するくらいなら体力作りとかすれば良いのに……って、ダメだ今は目の前のダレスさんに集中だ。
「水の三重槍」
「水の大楯」
「くそ、さっきから俺の攻撃があの楯に防がれて全然あたんねー。ジュンちゃんあれどうにかならねーか。」
「さっきから僕もやってはみてるんだけど、まだコツを掴み切ってないのかあの大きさの物は掴めない……槍ならなんとか行けそうだけど掴もうとした時にはもう飛んできてるんだよね……」
二人とも結構限界に近いな。なんとかアオイの攻撃を入れられないものか。あの楯をどうにかできればあるいは…
「トオル、このままじゃ負けちゃうね?」「え?」
急にモネの声がしたと思ったら気づけばモネが隣で声を上げていた。
「アオイくーん!!!全力で殴って!」
俺とジュンはその無謀とも言える言葉とモネが戦闘に参加したことで呆気に取られて一瞬動きを止めてしまったが、アオイはその言葉に誰よりもすぐ反応し、俺がモネから再びアオイの方を見た時には既に振りかぶっていた。
「なんだかよくわからねーけどこれでいいのか!?モネちゃん!!」
ダレスさんはモネの急な参戦に少しは驚いた様子ではあったが、すぐにアオイの動きに反応して宙に浮いている楯をアオイの方に向けた。
今までアオイの攻撃がダレスさん本人に当たる事はなかった。その全てがこの水の大楯に防がれているからだ。
そしてこの瞬間のアオイの攻撃も今まで殴ってきたものと差はない。
水の大楯めがけ否、それを壊してさらにその先のダレスさんの横っ腹めがけアオイは拳を最大限重くし振り抜いた。
――パチンっ!
モネが指を鳴らしたその直後ダレスさんとアオイの間にあった大楯は一瞬で姿を消し、そしてまた現れた、俺の目の前に。
――ドスゥン!!!
鈍い音を立ててアオイの拳がダレスさんの横っ腹にめり込み、初めてダレスさんが膝をついた。
アオイの一発がようやくダレスさんに届いた瞬間だった。




