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22話 歯車を回すのです。



「あれから随分時間が経ってしまいましたが、再びここへ来ることができて良かったです。」


 私が絶望し、そして人生の再出発を誓ったこの場所は、今も変わらず、首都―アークロア―でも一際荘厳で近寄りがたい。

 一つの塔にはルナ正教会のシンボルの旗が、

 もう一つの塔にはこの人族の国―オルディム―の国旗が掲げられているこの双権院に来る者は自然と姿勢を正す。

 

 もちろん今、双権院の前に立っている私も例外ではありません。2度目だというのに私の体は、私の意識など存ぜぬ様子でこの偉大さに打ちひしがれ少しの間立ち尽くすほかありませんでした。


 ようやく慣れ、中へ入ると可愛らしい受付の女性がこちらに気付き軽く会釈をしてくれています。


「あの、急で申し訳ございませんが至急、教皇―エルドレア・サン=ヴィステ様と首相―フェリクス・ラングレー殿にお伝えしたいことがありまして。お目通り願えますでしょうか。」


 もちろんここは国を運営する上で最も重要な建物である。それゆえにこの国の重鎮、教会のお偉い方、それに大商人の方までもが夜通し会議し、常に忙しなく動いている。そんな場所で、この国トップ2人を名指しし、あまつさえアポも取らず急に合わせろと言う私を受付の女性がゴミを見るような目で見たって仕方がたいですよね。


「えぇ……申し訳ございませんが、お引き取りください。一般の方がアポ無しであの方達に会えるわけないじゃないですか。まぁ仮にアポ有りだと言われても個人で会おうとする方はいらっしゃいませんので、どちらにしろお通ししませんけどね。このまま居座るおつもりでしたら、通報します。お早めにお帰りください。」


 おっと、これはまずいですね。不審者だと思われたようです。無理ないですね。急ぐあまり、名乗るの忘れておりました……


「あ、アポを取らず来てしまったことは大変申し訳ございませんでした。私はダレスと申します。満月級冒険者です。」


 そう言って私は、何年も自室の机に閉まっていた、自分でも見るのは久々の満月級冒険者の証のペンダントを内ポケットから出し受付嬢に提示致しました。


 余談ですが、身分証として働くこのペンダントを持っていなくて大丈夫かと聞かれれば答えは、

 

 ――大丈夫です。

 

 普段の活動拠点のアークヴェリアでは顔パスですし、他国、周辺で予言に関する捜索をする際には偽装の身分証を使っておりましたから。満月級冒険者が意味もなくふらついていては怪しまれますからね。


 

「満月級?ダレスさん?………………!!!!」


 

 あ、びっくりさせてしまって申し訳ございません。彼女の顔がみるみる青ざめて行くのがわかります。私が名乗らなかったのが悪がったのです。


 

「あ、あ、申し訳ございませんでしたぁああ!少々お待ちいただけますか!」


 

 そう言って彼女は私を1人残し裏へ走って行きました。


 あっ戻ってきましたね。


 

「はぁ、はぁ、ダレス様、待合室にご案内いたしますのでどうぞコチラへ……」

 

「はい。お手数おかけします。」



 以前と変わらない待合室です。今回はどれくらい待たされるのでしょうか。以前は呼び出しで小一時間だったのでそれよりは待ちますよねぇ。


 


 誰かが近づいてきますね。意外と早かったですね。


 私は案内され、冠光の間へと赴きました。

 中には以前お会いしたお二人が座っておられます。お二人とも少しばかりお痩せになったでしょうか。



 

「……ダレス、久しいのぉ。」

 

「教皇猊下(げいか)におかれましては、変わらずご壮健にてあられること、まことに光栄に存じます。」

 

「ほっほっほ。お主も老けたのぉ。してワシらを呼んだと言うことは予言に関して何か進展があったのかのぉ。」

 

「はい。本日はその事で参上した次第でございます。」

 

「ふむ、では聞かせてもらおうかのぉ。」


 

 私はあの森の出来事、彼らの出自、今まで彼らと過ごした少ない時間を全てヴィステ様とラングレー殿に報告いたしました。


 

「なんと……、ここへ来て本当に見つかるとは……」

 

「それはどう言う?ラングレー殿。」

 

「いやすまん。其方には悪いが正直もう諦めかけておってな……見つからなかった場合の対策を各国と協議しておった所だったのだ。しかしそれももう……」


 

 まぁ仕方がありません。最悪の状況を想定し動くのは国のトップとして当然のことです。


 

「いえ、遅くなり申し訳ございません。しかし、まだ彼らは自らの力を使いこなせておりません。即戦力とはいかないでしょう。」

 

「うーむ。、なるほどのぉ。簡単には行かんものよのぉ。ダレスよ、何か案はあるのか?」

 

「一応……はい。まずここ1週間私が修行を付けておりました。それをこれからも続行し一刻も早く戦える状態にしあげるつもりです。それから、本日はこの報告と別にもう一つお願いを聞いていただきたく。」

 

「ん?なんだ?」

 

「エルフの大長老への謁見の打診をして頂きたく。」



 私の言葉に2人は暫く考え、ラングレー殿が返事をくれました。


「うむ。其方はそれがどう言うことか理解していっておるのか?」

 

「もちろんでございます。冗談で言うには余りにも恐れ多いことです。」

 

「うむ……確かに予言の子らが見つかったとあれば或いは……」

 

「あいわかった!ダレス、お主はこの絶望的な状況に一筋の光を灯した。ともあればワシらも一肌脱がねば名折れと言うものじゃ。のぉラングレーよ。」

 

「そうですな。わかった。その件はコチラでなんとかする。返事はおって伝えよう。」

 

「ありがとうございます!」



 トオルさんたちには予め言っちゃいましたが、エルフの大長老に会うことなど普通は出来るものではありません。同じエルフ族ですらほぼ全員会ったことはないでしょう。もちろん他の種族となれば一人もいません。例外なくね。


 それを私はあのお二人に会えるように取り次いでくれとお願いをしたのです。気が狂っていると思われても仕方がありません。


 しかし、必ず会わねばなりません。仮にあのお二人が断っていたとしても私たちは会いに行きます。その覚悟があったからすでにトオルさんたちに言っておいたのですから。


 この今の人類の中でほぼその時代が神話と語り継がれている中、世界でただ一人未だ昔話として話ができるそのお方に。

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