20話 押し潰されないで。
私は今すごく気分がいい。何故か。久々にトオルとデートができるから!いつもイベントごとは4人で行ってたから本当に久しぶり。ここ1週間は気持ちが落ち込んじゃっていたけど、ダレスさんの粋な計らいと、2人の気遣いもあって俄然元気になって来た!
唯一出鼻を挫かれてないじゃない?と何と無く無意味に思ってみたりもして。
内心ウキウキで出たは良いもののなんかいつものトオルと変わらない気がする。おーい、絶世の美女が隣を歩いていますよー。
うーん。こうなったら意地でも意識させてやるんだから。
「へへ、2人ともさては私から逃げたな?ご機嫌取りするのめんどくさんもんね。」
「そ、そんな事ないんじゃないか?それよりモネさん?その……手が当たってますが。」
「ん?当たってるも何も繋いでるんだけど?昔はよく手繋いでくれてたよね!迷子になるといけないからって。それに今日はトオルが私を元気付けてくれるんでしょ?これくらいして貰わなきゃ」
どうだ?少しは意識したか?うん?子供の頃とはお互い違うよね。ま、かく言う私も絶賛緊張で手足のつま先辺りはひどく冷たいが。
って何1人で盛り上がってるんだろう。トオルはあくまで私を元気づけるために一緒にいてくれてるだけなのに。
ってダメダメ。また凹む所だった。今はただ楽しむことだけに集中しよ!最後まではね……
ん?あれって大道芸人かな?昔は良く両方の家族で見たっけ。
「トオル見て見て!大道芸人かな?氷とか火とか飛んでって……わぁああ!綺麗!」
空に飛んでいく青と赤の塊がぶつかり霧散する。氷の粒に太陽の光が反射して、その眩しさに目を覆いたくなるが、あまりの綺麗さに自然と笑みが溢れた。後ろめたさもその光で包み込んでくれたら良いのに。
大道芸人を見た後私たちは屋台がいっぱい出ている道に来ていた。そこでちょっとしたハプニングが起きた。
「そこの兄ちゃん!あんただよあんた!ほら、可愛い彼女といるあんた!珍しいベルの串焼きなんかどうだい?美味しいよ!」
お、―ドワーフ族―のおじ様、見る目あるね!
おっといけないいけない。またこのモードに入る所だった。
「モネ、ベルって確かあのクマシカだよな?ちゃんと料理されたの見ると本当に美味そうだな!おっちゃん2本もらって良い?」
「へー、朝食で出した素焼きはお気に召さなかったんだね?ごめんなさいね?料理してなくて?」
「お?なんだ?痴話喧嘩はよそでやってくんな。ほれベルの串焼き2本お待ち!2本で2000メルだな!それ食ったら自然と仲直りするってもんだ。はっはっは!」
「すみません。少しからかっただけです。ほらトオル2000メル出して。」
そう言うとトオルはダレスさんに借りたお金を出そうとしたが、一向に出す気配がない。
「あ?なんだ兄ちゃん金がないのか?なんだよ冷やかしか?返しな!そんで帰れ!」
「あ、違うんです!あるとは思うんだけどさ……」
そうかメルを知らないんだ。
「ごめんなさい、すぐ払います!はい、2000メル」
「なんだあるじゃねーか。さっさと出さないから冷やかしだと思ったじゃねーか。気ぃ付けろよー俺みたいな優しい奴ばかりじゃねーからよ!あっはっは!」
「どこが優しいんだ?」
「こらっ!」
「モネよくこの世界のお金の勘定なんて知ってたな?」
「あー、うん。ペトラさんに教えてもらったからね。」
「そうか、俺も聞いとくべきだったな!悪い!にしてもこの串本当美味いな!」
そんなトオルの金勘定わからないプチハプニングがあり、暫く経った頃。急にトオルが繋いだ手を離し、自分の耳を塞いだ。
「モネもやった方がいいぞ。」
なんのこと?と不思議に思っていると、トオルは自分の耳から手を離し今度は私の耳を塞いだ。
「ほら、自分で塞げよな?もう、鼓膜破れません様に!」
次の瞬間、すごく鈍い音と金属音が町中に響いた。耳を塞いで貰っていてもすごく大きな音だったけど、トオルは大丈夫かなと顔を上げるとそこにはいつも飄々としてどこか澄まし顔のトオルはいなかった。すごく苦しそうな顔である。
「あーやっぱこんだけデカかったかー。鼓膜破れそうになったぞ?しかしなんだこの音は?多分ギルドの方からだと思うけど。」
祭りに来ている人達も仕切りに音のした方角を不思議そうに眺めていたが、5分もしないうちに祭りの活気は元通りになった。
そんな原因不明の騒音もすっかり忘れて辺りは少し日が暮れていた。そろそろこの時間も終わりかー。まぁそうだよね。今日があっただけよしとしよう!
「そろそろ2人と合流しよっか。」
「そうだな。確かペトラさんが言うにはこっちだったよな?」
そう言うと私たちはペトラさんに教えてもらった穴場へ向かった。
「それにしても2人とも遅いな。もうそろそろじゃないか?ペトラさんが言ってた綺麗な光景が見えるって言う時間は。」
「そうだよね、もう本当2人は自由人なんだから。まぁ後でどれだけ自分たちは価値のある光景を見れなかったか、力説してあげましょ!」
そうよね、伝えるならここよね。
次々と打ち上がる花火はこれまで見た中で一番感動しなかった。ただ夜空を彩り暗闇を一瞬照らすだけ。
今の私には到底感動できるものではなかった。
そもそも花火を見てはいるけど多分視界に入っているだけ。
あぁ終わる。終わってほしくない。言うしかない。言いたくない。
……………………言うしかない。覚悟はできた。
ドオーーーーーン
私の言葉を遮る様に最後の花火が爆音を立てて上がる。私はただ光るだけの夜空の装飾を眺めながら真っ直ぐ夜空に向かい言った。
それまで彼はこちらを向いていたであろうが私が見た時にはすでに夜空を眺めていた。
その一段とでかい花火に照らされた彼の横顔は遥か昔の記憶とは似ても似つかなかった。
「トオル……本当に覚えてないの?」




