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1話 コックリさんを信じなさい。

夏休み前の最後の授業が終わり、皆往往にして浮かれきっている。部活に精を見出している坊主グループ、オンラインゲームで姫を救うと誓い合う自称勇者グループ、海・祭り・花火、夏の風物詩をこれでもかと謳歌しようとしている絶対健全男女グループ。


ホームルームで先生に言われた言葉を覚えているものなど誰一人としていないようだ。それも無理はない。高校最後の夏休みなのだから。皆にとっては明日から砂漠にポツンとオアシスなのだ。それぞれのオアシスに心躍らせ教室を次々と出ていく。

あれほど五月蝿かった教室は数分もしないうちに俺たちだけとなった。

 


「さっきも言ったけど、今回夏休みの計画を立てるために集まってもらったわけじゃねーの。」



俺はまだ教室が五月蝿い時、アオイ・モネ・ジュンから質問攻めにあっていた。

――海で水着女子を見たい

――可愛い水着を見て欲しい、

――外に出たくない。

まぁ色々言われたがそんなことはどうでもいい。



「じゃあなんで放課後集めたの?」少し不満そうにそれでいてクリスマスプレゼントを開ける時の期待に満ちたような目でモネは尋ねた。

アオイもジュンもまだ文句を言いたげな表情をしていたがグッと抑えて俺の返答を待っていた。



「やっと本題にいけるな!それでは今日俺がお前らを呼んだのは他でもありません。コックリさんをしたいと思います!」



体感十秒、いやもっとか。俺の言葉が三人の耳から脳、言語中枢を経て口を開けるまでの時間。友達四人が集まってここまで静かになる事も珍しいのではないか。この短くて長いような静寂を破ったのはアオイだった。



「ぷっ、あっははは!!トオルお前やっぱ最高だな!今の時代にコックリさんやろーなんていう奴いねーよ!!面白そうじゃん!やろーぜ!妖怪でもなんでもかかってきやがれ!」


「アオイ、コックリさんは妖怪じゃない。19世紀末に日本で流行った降霊術だからどっちかって言ったら幽霊。まあ、そんな非科学的なものは僕は信じちゃいないけど。やる分には構わないよ。」


「え?無理……絶対いや……呪われちゃうよ……」



コックリさんと聞いて意外と肯定的な二人とは裏腹にさっきまでの期待に満ちた目でこちらを見ていたモネの目にはもはや期待のきの字も見当たらない。


だが、これは予想通りだ。


何年モネと一緒にいると思っている?モネをその気にさせる方法ならいくらでもある。



「モネ、この前北海道でしか売ってないキャラメル?食べたいって言ってたよね?最近父親が仕事で行ってきt」


「生ミルクモカチョコキャラメル(練乳入)!?!?あるの!?よし!真っ暗にならないうちに始めよう!すぐ始めよう!」



俺の言葉を遮り身を乗り出して俄然やる気の様子だ。普段着こなし、前髪など几帳面に揃えているが今や見る影もない。着崩れし、アホ毛が二、三立っている。後どうでもいいがモネ、そのキャラメルもはや何味か分からなくないか?

まぁ、とにかくモネもやる気が出た事だしこの疑問は胸にしまっておこう。


三人の了解を得たところで、俺はカバンからコックリさんに必要な紙を机に広げた。言わずもがな常日頃からカバンに忍ばせている。



「準備も終わったしルール説明とかいる?有名だから知ってると思うけど。」


「いらん!(知らんが大丈夫だろう)」


「……いらないよ(どうせ何も起きないよ)」


「始めよう!すぐ始めよう!(生ミルク♪モカチョコキャラメル♪」




机に用意された十円に全員指を置き、最初の言葉を言った。

「コックリさんコックリさんどうぞおいでください。 もしおいでになられましたら『はい』へお進みください」




 

ズズ……ズズズ……





はぁアオイか?ふざけて『はい』に動かしてるやつは。

俺だってやりたいとは言ったもののこんなすぐに来てもらっては緊張感というか風情がないじゃないか。


「おいアオイだろ?ふざけるなって、呪われるぞ?」


「俺じゃねーよ!こういうのはふざけないのが一番面白いんだっつーの。どうせそこのメガネ理論武装ジュンちゃんのイタズラだろ!幽霊なんて非科学なもの呼び出せるわけないじゃないですか。なので僕が動かしてみました、てへってよ」


「また僕に突っかかってくるんですか?そもそも僕が幽霊や妖怪、超能力といった非科学的なものを信じてないのは僕が見た事がないからです。なので見れるかもしれない機会をわざわざ自分で台無しになんかしません。トオルか姉崎(あねさき)さんでしょう?」


「私もやってないよ!私がやったなら『いいえ』にして早く帰ってキャラメルをトオルパパにもらいに行くもん…」


「モネ、いますかって言って『いいえ』はもういるんじゃないか?それはそうと残念だけど俺でもないぞ?」


「…………まじか!?」

「…………本当に?」

「…………まじ?」

「…………嘘でしょ……」



三人の顔は冗談を言っているようには見えない、もちろん俺もそんな白けたことをするはずが無い。それをやって楽しいのは小学生までだろう。高校生は本気でバカをするのが本分だろう?四人が動かしてないとすると


……本当に?


三人の顔は徐々に強張っていき、アオイは十円玉を潰す勢いで力が入っている。

ジュンは顔は強張っているが何故だか目は嬉しそうである。

モネは……今にも泣き出しそうな顔である。

本当に来るとは……だがモネには悪いが来てもらった以上は、どうしても答えてもらいたい質問が俺にはある。物心ついた頃から脳裏に焼きついている。

その答えを知りたいがために今日これをやっているわけである。本当に聞けるとは思っていなかったが。

 


「一旦!一旦落ち着こう、ガチなら願ったり叶ったりだ。俺の質問に答えてくれ。俺に……は……」

 


ズズ……ズズズ……ズズズズズ



おかしい……俺はまだ質問を最後まで言っていない。この期に及んで三人がふざけるなんてあり得ないし、顔を見れば一目瞭然だ。皆何が起きているのか分からずただただ呆然と十円玉を見ていることしかしていない。じゃあなんだ?


 


「……オ………モ…イ…………ダ……」



 


「皆さんこんばんは。午後のニュース番組の時間です。最初のニュースは、本日某高校で四人の学生が行方不明となった事件からです。

四人のご家族の方が8時になっても帰ってこないと警察に通報があり発覚致しました。

その後警察は最後の目撃情報である4人の生徒の教室で彼らの持ち物と思われるバッグと机に置いてあった紙を発見したとのことです。

警察は四人がなんらかの事件に巻き込まれた可能性があるとして調査を進めているとのことです。

続いてのニュースです。………」




ズズ………

 


教室には黄色いキープアウトが貼られ、現場保存がされている。

誰もいない教室に月明かりが差し込み、その光を反射して異様な存在感を放つそれは『セ』を指し示し止まっている。




『オ モ イ ダ セ』

 

 

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