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18話 強くなりなさい。


 俺は今結構凹んでいる。何故か。この1週間、ダレスのおっさんにコテンパンにされ続けているからだ。俺はどこか自分を過信しているところがある。


 まぁ事実、地球では体を動かすことに関しては得意だった。誰よりも。しかし、ここ1週間でその自信も、ダレスのおっさんが訓練用に貸してくれた盾諸共見事粉々に砕け散っていた。

 これからどうなるか分からないが俺が先陣切って踏ん張らないといけない場面が必ず出てくる。分かってるから気合い入れようとしたのに!



 休日だぁ?祭りだぁ?出鼻挫いてんじゃねーよ。時間がないって言ったのはおっさんじゃねーか。



 まぁ確かに俺同様他の3人もさほど成果は上がってなかったし、モネちゃんは結構キてるみたいだったから仕方ないけどよ。祭りかぁ……



 お?待てよ?いいこと思いついた!



「あー悪い。ちょっと俺1人で気分転換したいって言うか?だから3人で楽しんでこいよ!」



 ふふふ、俺がこんな事を言ったら当然?



「ごめん。いつもはアオイに強制的に連行されてたから行ってたけどそのアオイも行かないなら今回は僕もパスさせてもらうよ。そもそも僕外出たくないし。」



 そうだよな!ジュンちゃんはそう言うやつだぜ。これでトオルとモネちゃんは2人きりで祭りに行くだろ。

 もうそろそろこの2人の曖昧な関係にもうんざりしてたんだ。これを機に傷心のモネちゃんを元気付けてその勢いで行くとこまで行けトオル!男を見せろ!



 今更俺の考えに気づいてトオルは俺を睨んできた。当然満面の笑みで返す。



「……で、2人とも行っちまったけど、ジュンちゃんはこれからどうすんの?」


「はぁ……姉崎(アネサキ)さんが心配ではあるけどトオルがいればなんとかなるでしょ。とりあえずペトラさんには追い出されちゃったし、どこか静かな場所を探してのんびりするよ。」


「ま、そうなるか。ところで、最後ペトラの姉さんに言われた場所には行くつもりか?」


「……行くわけないでしょ。」


「ははは、違いねぇ!そんじゃまぁ俺もどっかで暇つぶしてくるわ。」



 そう言ってジュンちゃんとも別れ1人になった俺だが、まぁ何もトオルとモネちゃんの関係をどうにかするためだけに1人になったわけじゃない。俺だって理由があって1人になったんだ。それはやはり訓練。

 ダレスのおっさんには申し訳ないが、俺だけでも強くなってなきゃ行けないんだ。今のままで呑気に祭りなんて楽しめるわけねーよ。



「そう言うわけで、……おはようございまぁす!」バンッ



 俺は冒険者ギルドの訓練所のドアを勢いよく開けた。ダレスのおっさんから依然ギルド内にも訓練所があることは聞いていた。

 入口の方で大きな音がしたので中にいる人は一様にこちらを向いた。その中にはチラホラ見知った顔があった。なんてったっけ?ほら食堂の時の。



「おう、何だオメェ。妙に意気がいいなぁ、えぇ?ってオメェこの間の友達ごっこの奴じゃねーか。こんな日に1人でここに来るたぁ愛想尽かされたのか?」



 あははははは

 訓練所にいる奴らが皆笑ってこちらを見ている。




 そうそうこいつ。あの時も最初に突っかかって来て今回もか。えー名前名前……あ、



「コメットさんでしたっけ?奇遇っすね。()()()()にここにいるなんて、やっぱり悲しい人生歩んでますねぇ冒険者ってのは。」



 一気にその場の空気が変わった。まずかったか?あいつだけを煽ろうとしたらどうやら全員釣れた様だ。



「相変わらずの減らず口だなおい!そんで俺はコメットじゃねぇ。ピシットだ小僧。丁度いい。ここに来たってことはお前も訓練しに来たんだろ?付き合ってやるよ。」



 おお、これは煽った甲斐があったな。早速訓練できそうだ。



「一応ここのルールとしてまず遠距離魔法は直接当たった時点で戦闘やめだ。危ねぇからな。

 まぁ防御魔法で受ければ何の問題もない。次、近距離武器は木刀、盾以外禁止だ。危ねぇからな。

 最後、相手が戦闘不能または戦意喪失した場合は直ちに戦闘を止めること。何でそんなこと言うかわかるか?そらぁ」


「危ねぇからだろ?分かったよ。意外としっかりしてんだな」


「当たり前ぇだろ。訓練で死んだら元も子もねーってんだ。一応お前もこのギルドの端くれだ。気に入らねぇがルールはルールだ。その範疇でボコボコにしてやるよ。かかってこい。」



 ピシット、こいつ案外いい奴なのか?まぁルール説明もご丁寧にしてもらったことだし、始めるか!



「はぁはぁ、アオイって言ったか?中々やるじゃねーか。そろそろとっておき見せてやるよ。鋼鉄の身体(サヴィラ・アモス)


「ふぅ、そんじゃこっちも1発重いの行きますわ!」



 ガンッ

 ドスッ



 身体強化魔法により全身が鋼の如く硬くなったピシットの拳と重心を低くし拳だけじゃなく体から捻り繰り出す俺の重い(物理的に)拳がそれぞれの脇腹に命中した時、初めてお互いに膝をついた。



「引き分けか……オメェ気に入った!最後の1発は強化魔法か?何にせよ中々骨があるじゃねーか!」


「まあそんなところだよ。あんたもダレスのおっさんと比べれば大したことなかったけどいい相手だった。」


「あっはっは!あんな化け物と一緒にすんじゃねーよ。っと、そうだ、お前これから暇か?」



 そう言ってすんなり立ち上がるピシットは帰り支度を始めた。引き分け?冗談きついぜ。

こっちは立つのもしんどいってのに。完敗だな。

でも最後の一撃、確かに感触は良かった。これまでよりもずっと。少しは成長できたか?


 それよりこれからなんかあるのか?

 気づけば訓練所にいる皆はとっくに外へ出ていた。



「ピシットさん、これからなんかあんの?」


「まぁ()()()()だからな。俺たち()()()()()()()()()()()()()にも役割ってのがあんのよ。」




 そう言うと俺はピシットさんに連れられある河原に着いた。辺りはすっかり暗くなっておりそこには多くの冒険者と人だかりがあった。



「そろそろだな。そんじゃあ、野郎ども今年も景気良く打ち上げるとするか!」



 ピシットさんの掛け声で皆河原に用意された筒に魔法をかけ始めた。

 そして……



 バアーーーン!!



 爆音と共に空に打ち上げられた花火はこれまで見た花火のどれよりも綺麗で、どれよりも力強かった。



 今どれくらい打ち上げたんだ?軽く数千は行っている気がする。日本の花火は大きい所だと万単位だと聞いたことあるが、こちらは一個が様々な形に変化してるし長持ちだ。日本の花火に勝るとも劣らない。


 



「よし、アオイ最後の花火だ。お前が入れな。それクソ重い上に落としたらその場で暴発するから慎重にな?あとそれは筒に入れるだけでいいからな。」



「おう!任せろ、運ぶくらいは俺にだってできるぜ。」



 そう言って俺は50号はあろうかと言う巨大な花火玉をいとも容易く持ち上げ筒にセットした。そんな俺をピシットさんは幽霊でも見たかの様に目をぱちくりしながら見ていたが、とりあえず気付かないふりをした。人前であまりスキルを使わない方がいいな。



 ドオーーーーーン!!!


 

 

その花火は魔法が掛けられていないのか夜空一面に咲いた後、変化する事なく静かに散っていった。

 

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