14話 腹を括りなさい。
「一つ。神話とも言えるくらい昔の出来事の中に厄災者がおり封印が事実だとしたら、月の女神様って言う方も実在したんですよね。その方にまた封印をお願いすることはできないのですか?女神って言うくらいだから死んではないのでは?」
「……いえ、ルイナ様は既に亡くなっているとお聞きしております。詳しくはエルフ族の大長老様が知っているらしいですが。」
「……はい。わかりました。では2つ。先ほど8人の救世主が現れると予言にあったと言っていましたが、他の4人はどうなってますか?」
「予言が出された時、あの忌まわしい時計の針はまだ進んでおりませんでした。その時から、私たち満月級冒険者は秘密裏にその救世主を探して参りました。各地の不思議な力を使う者の目撃証言、噂話に至るまで少しの可能性があれば直接赴き確認して行きました。そして分かったことは既に3名は亡くなっているということでした。1人は未だ見つかっておりません。」
!?なんだって?俺たちを除いて4人中3人が死んでいる?そして1人はこんな時間が過ぎても見つけられていないだって?そんな状況で本当に大丈夫なのか。
「はあ、わかりました。三つ目、ダレスさんに限らずこの世界に僕たちを地球に帰す方法を知っている方はいらっしゃいますか?」
「いや、異世界など存在自体まだ信じられません。私含めこの世界ではその様な伝承はなく長命のエルフ達ですら知らないと思います。」
「まあ、これは何となく分かっていましたが、じゃあ最後に僕たちがこの訳もわからない何のゆかりもない世界を命をかけて救う理由なんてないと、断ったらどうなりますか?」
「!?……ええ、それはおっしゃる通りですね。そうなった場合、私たち人類は最後まで戦い、そして滅びることになりますね。人類だけでは厄災者には勝てませんので。大丈夫です。断っても軍隊に差し出すことは致しません。だってどうせ皆死にますから。その後皆さんがどうなろうが知ったことではありません。ラクシャを仮に倒せたとしてももう人類は皆さんしかいませんしね。」
全く嫌な言い方しやがる。まさしく進むも地獄退くも地獄だ。この頃になると俺たち3人はジュンの意向に従おうと、特に話し合いとか目配せなどしなかったが各々がそう思っていた。そしてジュンは決断した。
「まだ考えないといけないことは沢山ありますが、現状協力せざるを得ないですね。まず、僕たちは自分の力についてまだ扱い切れてませんし、姉崎さんに至ってはまだどんなスキルかわかっていない。なら少しでもこの世界の人々の協力がいる。僕たちだけじゃ当然倒せない。」
「はあ…………そうおっしゃっていただけると信じておりました!本当にありがとうございます!」
分かっていた。ジュンはこういう時に感情で決断はしない。仮に帰る方法があると分かっていたなら迷わず、切り捨てただろう。究極の理性派、泣き落としなど効かない。だけど、現状帰る方法がわからない以上付き合うしかないと決めると。やっぱそうなるよなとでも言いたげにアオイは特に何もない天井を見上げ、モネはとにかく小刻みに震え、ジュンの服を掴み少し抵抗している様に見える。
「それでは、今日は遅いですのでギルドの部屋でおやすみください。これからのことはまた明日話しましょう!あ、後、これ」
そういうとほぼ放心状態の俺たちにダレスさんは、あるペンダントを渡してきた。
「これは新米冒険者の証である新月のペンダントになります。これは当初私が申し上げた身元保証として使えますので無くさない様にお願いしますね!皆さんはほぼ冒険者稼業をすることはないと思いますが、等級だけは最後にお伝えして今日はお暇させて頂きますね!」
ダレスさん曰く、上から満月級、上弦級、半月級、下弦級、新月級らしい。これから会うかもしれない強者の等級を知っておいて損はないとのとこでこれだけ教えてダレスさんとガルシアさんは応接室を出て行った。それから俺たちはギルドの従業員に案内され寝床がある部屋へ案内された。
「んー、よくわかんねーけどえらいことに巻き込まれちまったな!まぁでも訳もわからず時間が過ぎるくらいなら目的があるだけ良いってもんだ!な!ジュン!」
「僕は帰れればそれでよかったんだけど、現状はしょうがないね。」
「皆よく受け入れられるね……ちょっと私はまだ整理できないかも……へへ。」
「と、と、当然だよ!姉崎さんは全然変なんかじゃないからね!ほら、ダレスさんを引っ叩いた時なんてすごいスカッとしたし……」
「ジュン、何のフォローになってない気がするけど。」
「あはは!馬酔木君ありがとね!そうだよ!ダレスさんは当分許さないんだから!」
「!!!…………」
ジュンはモネに笑ってもらえて嬉しかったのか、フォローしたつもりが頓珍漢なことを言ってしまった恥ずかしさからか耳を真っ赤にして少し俯いた。
「でもありがとな。俺たちだけじゃ只々訳もわからず何も言えなかったと思う。お前がいてくれてよかったよ。」
「え、トオル気持ち悪いんだけど。こういうのは適材適所だよ。君たちに任したら僕が後々困るのは目に見えてるからね、あ、姉崎さんは違うからね。」
この後俺やアオイが文句を言ったり茶化したりして、この世界に来て一番長く感じた夜のこの出来事を俺たちは各々自分なりに噛み砕いて納得して行った。それでもまだ完全に飲み込めた奴は居ないだろうが。気づけば俺、アオイ、ジュンは疲れ切っていたのかすっかり寝息を立てていた。
ただモネだけは未だ見慣れぬ夜空を見上げ、1人只々息を殺して泣いている姿がそこにはあった。