10話 ひと時の安息を噛み締めなさい。
「なー、トオル。暇だし賭けしようぜ!」
「なんだよ急に。賭け?何やるつもりだよ。てか何賭けるんだよ。今の俺たち何も待ってないぞ。」
「んーそうだな負けた方は、今日1日いうことを聞く。これでどうだ!」
「アオイ言ったな?まぁ暇だしその話乗った!」
なんでこんなしょうもないことをしているかというと、今俺たちが置かれてる状況がそうさせている。俺たちはかれこれ30分はこの街の門前で立ち往生している。理由は言わずもがなこの入国もとい入街審査の長蛇の列。まるで某夢の国の人気アトラクションを並んでる気分だ。一向に進む様子がない。こんな状況だ。アオイがしょうもないことを言い出すのも無理はない。
「よし!じゃあ今俺たちが最後尾だから、次来る人種を当てようぜ!そうだな俺はエルフの綺麗な姉ちゃんにするわ!この列にもエルフはいるしなかなかいい線行ってると思うぜ!」
「アオイただ綺麗な姉ちゃん見たいだけだろ。それより俺の番だな。んー、じゃあ俺は獣人族の……あ、いや、やっぱドワーフのおっさんで。」
「ドワーフのおっさんか。俺の予想の対極を出してきたってことか!さぁどっちだ!」
アオイ悪い。この勝負俺の勝ちだ。アオイはただ俺がアオイの対極にいる種族を言ったと思っているが、モネとジュンは俺が言い直した理由を理解しているみたいだった。そして仕切に後ろを警戒し始めた。そうだ、俺のスキルが告げている。揉め事が起こると。だがそれほどの不快感はないため2人には小声で伝えた。
「多分そんな危険ではないと思うから安心して。ちょっと小言言われるだけだから。」
「え?ああ、そうなの?もうびっくりさせないでよ!」
「そうだよ。あんな意味ありげな変更はアオイ以外はすぐわかるって。スキル使ってわかるとか反則じゃないの?」
「ジュン、これは不可抗力だ。またまた選ぶ時に勝手にスキルが告げてきたんだから。まぁそろそろ来るから準備しといて、って言っても用があるのは俺たちじゃないみたいだけどな。」
程なくして後ろから人影が見えてきた。遠近感だろうか。まだ小さく遠くにいるみたいだ。
「よう!ダレス!今日は一段と間抜けなツラしてやがんな。この街の顔のダレス様がそんなんじゃ示しがつかねーってもんだがな!ええ!」
急に声が聞こえたもんだからびっくりした。遠くにいたと思った人物がすぐそばにいるではないか。そうか遠近感じゃなくて、普通に小さいのかドワーフって人種は。
「これはこれは、ノットさん。いやぁこの顔は変えられませんもので。それにこの街の顔だなんてそんな恐れ多いですよぉ。」
「なんだよ!まじでドワーフのおっさんじゃねーかよ!くそ綺麗なエルフの姉ちゃんがよかったのによー!」
おーいアオイ。なんかまずいことになりそうだぞ。これはスキル使わなくてもわかる。
「あ?ダレスなんだこのガキどもは?特にそこのたっぱだけ無駄にでけぇ世間知らずの能無しは?」
「まあまあノットさん落ち着いて下さい!この方達は森で保護いたしましてこれから教会へご案内するところでして、世間知らずなのは見逃してやって下さい。」
「ああ、なんだお前ら未開拓地出身か。んじゃ今回は許してやる。だがあまりドワーフの前でエルフがどうのとか言うんじゃねーぞ。それとそこの能無し。俺はおっさんじゃねー、まだ20半ばだアホんだら。っといけねーこんなことしてる場合じゃなかった。そんじゃなダレス。また武器壊しやがったら承知しねーぞ。」
そう捨て台詞を残してノットさんは列に並ばずそそくさと最前列へと向かっていった。嵐の様に過ぎ去っていったノットさんを見てジュンが口を開いた。
「ダレスさん、あのノットという方とはどういうご関係で?」
「あの方はこの街で一番腕が立つと言われている鍛冶屋の棟梁です。言葉遣いは少しきついですが、とても心優しいお方ですよ。勿論武器も一級品ですしね。それに若くして棟梁になるのは本当にすごいことなんですよ!」
「ダレスさんさっきノットさんが言っていたドワーフの前でエルフがなんとかってどういうことですか?やっぱり種族間の仲はあんまり良くないんですか?」
「あーー、いえ、そういうわけではないですけど。これはノットさん、いえ、ドワーフ族の名誉のために言いますけど、決してドワーフ族が劣ってるわけではないのです。」
なんか歯切れが悪いな。そんなに言いにくいことなのかな。気になるけど聞かない方が良さそうか?
そんなことを思っているとあの能無し野郎はまたもズケズケと理由を聞いた。
「何が劣ってるんだ?すげ〜鍛冶屋なんだろ?」
「そこではなくてですね、分かりました。お話ししますけど決して、そのことでドワーフ族を刺激しないでくださいね?」
当然みんな頷いた。
「その、ドワーフ族はですね、エルフ族がすごく好きなんです………恋愛対象として。当然です。エルフ族は美男美女ですからね。でも方や一方のエルフ族はというとこれまでドワーフと結ばれた者は一切おりません。他の人種はあるのですが、ドワーフだけおりません。理由は至ってシンプルなものです。背が低いからだそうです……。それだけ。だからドワーフはどれだけ恋焦がれようと側から眺めるほかないのです。それがドワーフ族にとってすごくコンプレックスであり、エルフと聞くだけで取り乱してしまうのです。でも何度も言いますがこれによりドワーフとエルフが犬猿な仲というわけではないので悪しからず。皆友達として仲良くやっております。」
「…………」
「なんか私ドワーフを応援したくなっちゃった……」
なんか泣きたくなってくるな。相当拗らせちゃってるじゃん。まあ好きな人に見向きもされないのは流石に辛いか。しかも身長が低いってだけで。じゃあアオイのことも多分半分は八つ当たりだったんだろうな。タッパだけある能無しとかいうんだもの。アオイもこれを聞いて、聞いたことを後悔している様だ。すごく顔にノットさんへの同情が伺える。
そんな説明を受けていると、やっと門の前に来ることができた。次は俺たちの番だ。
「それはそうと、なんでノットさんは列に並ばずすんなり通れたんだ?」
「それは当然この街に住んでる住民ですからね、住民権の証を持っている方ならすんなり入れますよ。この列の方々は皆商売人や他国からの観光の方々達です。」
じゃあダレスさんも入れるんじゃ?と思ったがすぐに気がついた。
「ダレスさん俺たちのせいですみません。」
「いえいえ。これも務めですので。さぁ私たちの番です!行きましょう!」
ダレスさんは門番に俺たちの事をあらかた話し、門番の方もダレスさんがいうならと、特段気にもとめず、わりかしすんなり街へ入れてくれた。ノットさんの話でもあったがどうやらダレスさんはこの街でかなり有名らしい。
門を潜った先そこには、地球では見たことがない様な建物が並んでおり、人種も様々、何から何まで初めて見る光景で圧倒された。周りを見て回りたいがダレスさんの言葉で我にかえる。
「色々見たいのは分かりますが、すみませんこれから皆さんには以前申し上げた様にこの道の先にある、ここからでも見えていますが、教会へ行ってもらいます。」
やや日が落ちてきた頃その夕焼けの光が教会のステンドグラスに反射し、なんとも幻想的だ。
よし、あとのことは魔法が使える様になってから考えるとするか。
俺たちは足早に教会へと向かった。