9話 危機感を持ちなさい。
ダレスさんがこの世界について饒舌に語っていると気づけば森を抜け、街へと続く整備された道を歩いていた。
その頃になると一番初めに草原から目を凝らさないと見えなかった建物ははっきりと見えるまでの距離になっていた。
よかった、今日は野宿する必要はなさそうだ。
そんな中ダレスさんは急に立ち止まり、何か考えた後これまでになく真剣な顔でこう語った。
「すみません止まってしまって。少し皆様に言っていいものか考えておりました。
ささ、先を急ぎましょう。そしてこれから聞いていただく事は皆様には少し酷な話になりますのでご容赦ください。」
「なんですか?改まって。もしかして街に入れないとかですか?」
「あーいえ!ジュンさんそう言うわけでは無いですよ!私がおりますのでそこはご安心ください。
これでもこの街では少しばかり名が通りますので。
少し失礼を承知で申し上げますが皆様はあまりにもこの世界に対して知らな過ぎる気がします。
なのでこれからこのアヌエルが抱える問題について言うべきか考えておりました。
そして言うべきだと判断いたしました。無知のままでは旅を続けられないかもしれませんので。」
「おお!それはきちんと聞いておかねーとな!じゃジュン頼んだぞ!俺の脳に難しい話は記憶できないからな!」
「はあ、アオイは文字通りの脳筋だね……わかったよ。でもアオイ以外はちゃんと聞いていてよ。」
急に振られたもんだからモネと俺は一瞬呆気に取られたがすぐに当たり前だよとジュンに返事をした。
「では申し上げますね。私は最初多くの人種がいると申し上げましたね?正確には7種族存在します。まず皆様と私の様な一般的な人族―オルディアン―がいます。人族の中で一番人口が多い種族ですね。
オルディアンの特徴としては平均的な魔法使いという点です。
苦手な属性魔法がない代わりに特に秀でた属性も持たない。
次に多いのが獣人族―セリオント―。
セリオントは主に身体強化系の魔法に秀でています。ただ彼らは複雑な詠唱を伴う魔法は苦手としています。
3番目はドワーフ族―グラニート―。
得意魔法は大地魔法、付与魔法ですかね。流動性が高い水、氷などの魔法は苦手としています。
次にエルフ族―シルヴァリアン―。
精霊魔法、治癒魔法に秀でています。火属性魔法が苦手です。
続いて海人族―マリナリアン―。
彼らは言わずもがな水系統の魔法が得意です。逆にそれ以外はからっきしです。
6番目は天空族―セレスティアン―。
得意魔法は風、雷魔法です。彼らは大地魔法が使えません。
最後に影人族―ノクティアン―。
影魔法を得意とし、逆に光魔法が苦手です。」
「……ダレスさん、今更人種の特徴を聞かされても……これが何か問題に繋がるんですか?人種ごとで争いはしてないと仰っていたはずですけど。」
「ジュンさん。もちろんです。人種間の問題ではありません。ここで私が先に述べたことをまた思い出して欲しいのですが、遥か昔、7つの災厄者が現れ、
それをルイナ様率いる人類が封印して勝利したと申し上げましたよね?もうお分かりだと思いますが、完全には倒しきれていないのです。
そしてその封印はそれぞれ7つの種族の国に一つずつ管理されております。
7つのラクシャはそれぞれ特徴があるとされており、その特徴に有利な種族が封印を守っています。」
「なるほど、それでわざわざそれぞれの特徴を細かく説明してくれたんですね。
でもそれでもまだ僕たちに関してさほど酷な話には聞こえないんですけど。」
「それがそうでもないんです。教会からある予言に関することが冒険者ギルドに言い渡されました。
その内容は、
――『災厄再び降臨の兆しあり』というものです。
これが本当なら必ず止めなければなりません。そしてそれはおそらく本当なのです。
あの夜空を見れば皆様も納得するはずですがそれはひとまず置いといて、
この復活の予言が皆様に酷な話の大部分ですが身近な話をすると、あの光景が出始めてからと言うものの魔物の活性化が確認されています。
そして皆様は旅人ですよね。
当然他の街や国へ行くことと思います。道中凶暴化した魔物との遭遇は正直避けられないと思います。
なので酷な話だと言ったのです。
皆様と森で出会いここまで護衛させて頂きました。
そして私は確信しております。皆様は魔法が使えませんね?まぁ未開拓地出身であれば納得はします。
道中魔法が使えないとなると旅は続けられません。」
「なるほどな。まぁ確かに俺たちは魔法は使えねー。だけど俺には…」
「!!!ぁああ!えっとそうなんですよ。だからどうしようか悩んでたところでして。」
あぶねー!アオイの野郎何言うつもりだったんだ。スキルのことはジュンに口止めされてただろ!アオイもハッとして目配せで必死に謝ってきている。俺もアオイに目配せをしといた。(もう喋るな!)
「ああ酷な話とは言いましたが、使えないのなら使える様になればいいのです。仮にラクシャが復活しないとなっても魔法は便利ですからね。」
「え!?魔法使える様になるんですか!?是非とも方法を教えて頂きたいです!」
ジュンは少し高揚しながら答えた。まあスキルがあるとは言え、魔法の方が何かしら便利そうではあるか。
「ジュンさん落ち着いてください。答えは簡単です。街に着いたらまず教会に行きましょう。
そこで洗礼を受けましょう。そうすれば晴れて魔法が使える様になるはずです。
ですが勿論魔法のことも呪文もわからないと思いますので、その後はギルドへお越しください。
これも何かの縁です。私が旅路で死なない程度には教えて差し上げますので。あ、それと身元保証も作りましょう。何かと便利ですので。」
願ってもないことだ。
教会で洗礼を受ければ魔法が使えてさらに、ダレスさんから魔法を教われる。
これ以上の出だしがあるだろうか。情報収集もダレスさんが大方言ってくれたから後は気になるところをみんなと話し合って教会の人か冒険者ギルドの人とかに聞けばいいか。
「それはとてもありがたいです!でもなぜそこまでしてくれるんですか?
危険な目には遭いましたがこの街までの護衛でチャラですよ。それとも別の理由があるんでしょうか。」
確かにジュンの言う通りだ。先ほどの能天気な自分を殴ってやりたい。何か裏があるのだろうか。
「あはは!理由ならあります。ですがそれは街で一通りことを済ませた後、あの夜空を見ながらに致しましょうか。
それでは皆様長々とご清聴いただきありがとうございます!ここが我らがオルディアンの最前線都市アークヴェリアに御到着です!!」
眼前に広がる景色は、まさにファンタジーそのものと言うか、都市を囲っているであろう無数の塀にただただ圧倒されるばかりであった。




