Prologue
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「おはよー!今日も一日気張ってこー!」
聞こえると同時に背中を叩かれじわじわと熱くなってくる。文句を言う間もなく颯爽と駆け抜けて前の女子二人に話しかけているのは幼馴染の姉崎モネ。周りの学生は特に気にする様子もなく友達と談笑しながら登校している。
「毎回叩かれる身にもなってみろよ……結構な力よ?」誰も聞いていないことは百も承知だがボヤいてしまう。モネとは親同士が仲良いこともあって物心ついた時からいつも一緒だった。昔から容姿端麗、成績はいつもトップクラス。スポーツをやらせれば並以上には上手くなってしまう。神は二物を与えずとは言うがそれは一体誰が言ったんだ?身近な奴がもはや神から直接生まれたかのようなスペックしているんだが。そんなモネと俺の朝のどうでもいいやり取りは小中高大一貫のこの学校ではもはや日常と化している。
「うーす!。今日の一撃は一段と力強かったねー。夏休み前だからって浮かれてんのかー?俺の背中にもしてくんねーかな!?」
「アオイはもし叩かれたとしても俺の筋肉にはーとか口を開けば筋肉筋肉言ってるから姉崎さんはしないと思うよ?うざいもん。」
「おいおいジュンちゃん?いくら俺のこの素晴らしい筋肉が羨ましいからって男の妬みはダサいぞ?ん?」
そう言うとアオイは無駄にはだけた制服から見える胸筋を徐に交互に動かして得意げである。
ジュンは顔を上げアオイを少し睨むと諦めたかのように前を向き無視を決め込んだ。
話しかけてきたのは同じクラスの天竺アオイと馬酔木ジュンだ。アオイは絵に描いたような陽キャだ。裏表がなく、少し抜けたところもあるが、そこが憎めない。クラスではムードメーカーのような存在で、いない時はたいてい部活の助っ人をしている。ジュンは少し根暗寄りではあるが悪いやつじゃない。小学生の頃いじめられていたのをモネ・アオイと助けてからの付き合いだ。いつも三人の馬鹿話に付き合ってくれる心優しいやつだ。
「二人ともおはよう。相変わらず仲がよろしいようで。モネはまぁ今に始まったことじゃないし、あれはあれで目が覚めるから助かってるよ!。ってことで放課後空けといて!」
後ろの教室のドアを開け、振り返り二人にそう言った。
しばらく二人と談笑していると前のドアが開き、先生が気だるそうに入ってきた。いつも眠そうにしているこの先生は滅多に怒らないが怒らすと非常に怖い。アオイが過去一度怒らせたことがあるがその事を誰も口にする事はない。その一件以降クラスメイトはこの先生に従順なのだ、まぁ当の本人一人を除いてだが。
「お前ら席つけー」
蜘蛛の子を散らすように皆自分の席へ座った。
――キーンコーンカーンコーン――
「それじゃあ出席とるぞー」
「馬酔木ジュン」「……はい。」
〜〜〜〜
「姉崎モネ」「元気です!」
〜〜〜〜
「カオリちゃん!天竺アオイは今日もめっちゃ元気っす!!」
「ハイ、天竺は今日も元気だねー。でも呼ばれてからにしてね?それに先生を名前で呼ばないでねー?」
「はいじゃあ気を取り直して紫苑トオル」
「いまーす。」
〜〜〜〜〜〜〜
「全員いるってことでー、今日が終われば夏休みです。休み中遊んでばかりいないで受験勉強しろよー?大学までエスカレーターって言っても気抜くなよー?」
最後の授業が終わり、トオルが一息ついていると何を言うでもなくモネ・アオイ・ジュンがトオルの机に集まってきた。
「ねートオル昼食の時言ってた放課後のお楽しみってなにー?」モネは目をキラキラさせながらトオルの顔を覗き込む。
「それはやっぱり決まってるでしょ!夏休みの計画立てようぜってことだろ!さらに言えば!海!わかるぜトオル、お前も男だ、水着女子を見たいんだろ!ちなみに俺は見たい!」
「はあ?女の子見るために海行くとかサイテー!でも私も可愛い水着買ったからトオルに見て欲しいな!」
「僕は日焼けとかしたくないから海はちょっと……それにアオイはただ筋肉見せたいだけでしょ……姉崎さんもその……そんなトオルの反応を伺わなくていいんじゃない?」
「はい!そこまで!まずアオイ勝手に海って決めつけるなよ?それに最近若干太ってきてるの知ってるからな?次にモネ。毎年見てるからいいでしょ?そんでジュン、お前はもう少し外に出なさい!」三人が三人色々文句を言っているがそんなことはどうでもいい。俺が話したかったのは海の話なんかじゃないし、モネの水着姿を見たいと思ったのは内緒だ。
今年こそは絶対にやりたい。この日をどれだけ待ち望んだことか。
「文句はそれくらいにして今日集まってもらったのは他でもありません。」
「コックリさんをしたいと思います。」
高校最後の夏、この蒸し返す暑さの中紫苑が放った言葉で呆気に取られ喋れない三人とは裏腹に、蝉の鳴き声だけが教室中に響き渡っていた。