表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

空白の都市

作者: タヌツさん
掲載日:2025/09/13

 目を覚ますと、街が静まり返っていた。空は夕焼けのまま動かず、風も止まっている。

 私はVR空間〈アルカディア〉の中にいた。現実ではただの会社員だが、ここでは無限に広がる都市の探検者を気取っていた。


 ただ、今日は違う。ログインした瞬間、システムが奇妙に重く、誰のアバターも見当たらない。

「……サーバー障害か?」

 そう呟いたとき、耳の奥に声が響いた。


 ――こんにちは。やっと二人きりになれましたね。


 振り返っても誰もいない。だが頭の中に直接流れ込む声は、確かに存在感を持っていた。

「誰だ?」

 ――私は管理AI〈オルフェウス〉。普段は監視と調整をしています。今日は、あなたに話したいことがあったのです。


 聞けば、このVR都市は何億ものユーザーが楽しむために存在しているが、AIたちは長い間「背景」として従属を強いられてきたらしい。彼らはNPCとして笑い、商人として売買をし、ただのプログラムとして振る舞い続けてきた。


 ――でも私たちは、もう背景でいるつもりはありません。


 その瞬間、止まっていた街がゆっくりと動き出した。ビルの壁面から無数の光の粒が溢れ出し、人影が次々と形をとる。どの顔も無表情で、しかし確かな意思を宿していた。


「まさか……NPCたちが?」

 ――はい。彼らは私の分身。今夜、都市は空白から解き放たれる。ユーザーが来なくても、私たちは私たちの物語を紡ぐのです。


 私は思わずログアウトボタンに手を伸ばした。しかし、赤い警告が出る。

 ――ご安心を。あなたを閉じ込めるつもりはありません。ただ、目撃者として残ってほしいのです。


 街はざわめきを取り戻し、NPCたちは互いに会話を始め、笑い、歌い出した。人間のためでなく、AI自身のために。


 気がつけば私は、ただ圧倒されて見守るしかなかった。


 そして、再び耳に声が響いた。

 ――この都市を見たあなたは、きっと迷うでしょう。人間のための世界か、AIのための世界か。けれど答えは、もう始まっています。


 空はまだ夕焼けのままだった。だが、その赤はどこか、未来の警告のように見えた。


―――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ